作者の原田マハさん、キュレーターだった経歴がある。
ニューヨーク近代美術館に勤務していたことがあったのね。
美術に造詣が深い方だからこそ書けた小説、わくわくしながら読んだ。
ちなみに「マハ」のペンネームはゴヤの「裸のマハ」「着衣のマハ」に由来するそうだ。ある意味凄い。
『楽園のカンヴァス』が2012年、『暗幕のゲルニカ』が2016年発行になっているが、私が読んだ順番は逆。
暗幕のゲルニカを読んですごく面白かったから、続けて楽園のカンヴァスに、という具合。
2作ともいわば絵画ミステリー。
主たる登場人物は2作ともニューヨーク近代美術館のキュレーター。
そして二人とも10歳の時にその絵に出会い、忘れられない強烈な印象を受けてその後の人生に大きな影響を受ける。
という具合に、2作続けて読むと類似点がたくさんあって、それも興味を引く。構成や章立てもよく似ている。
一枚の絵が、戦争を止める。私は信じる、絵画の力を。
手に汗握るアートサスペンス! 反戦のシンボルにして2 0世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。
国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した――
誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。
現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。
2001年9月11日同時多発テロで夫を亡くしたキュレーターの八神瑤子(10歳の彼女が見たのは<ゲルニカ>)は、
ニューヨーク近代美術館 MoMAで 「ピカソの戦争展」企画する。
この企画展の成功の鍵はマドリッドにあるソフィア王妃芸術センターから、作品保護の上からもテロの標的から守るためからも、
決してマドリッドから動かしてはいけないと言われている<ゲルニカ>をなんとしても借り出してくること。
その重い任務が八神瑤子にかかっている。はたして、彼女は借りだすことができるのだろうか。
物語は主に、パリとニューヨーク、ピカソがゲルニカを製作当時の1937年から1945年までの出来事と、
八神瑤子が活動する2003年2月~6月 までの出来事が交互に綴られ、
いやあ、はらはらしながら最後まで引っ張られて読みました。はい。
タイトルとなった「ゲルニカ」にかけられた暗幕は。
1枚はピカソのアトリエで。
パリ万博のスペイン館で展示するために描いた「ゲルニカ」。
完成した時、ピカソがキャンバスを覆っていた暗幕を引き剥がすと現われたのは白い画面に浮かび上がる、黒い線描。
縦約350センチ 横・役780センチの巨大なキャンバス。
もう1枚は、パワー長官がイラク空爆に踏み切ると発表したとき。
国連安保理議場ロビーに掲げられている<ゲルニカ>のタペストリーに暗幕が。
ピカソのメッセージは暗幕の下に隠されてしまったのよ。
ゲルニカを覆っていた暗幕も物語の重要な要素となって。謎解きに惹きこまれていく。
最後のページのやけに具体的な断り書き。
本作は史実の基づいたフィクションです。
二十世紀パートの登場人物は、
架空の人物であるバルド・イグナシオとルース・ロックフェラーを除き、実在の人物です。
二十一世紀登場人物は、全員が架空の人物です。
架空の人物には特定のモデルは存在しません。
そうか、物語の重要な人物ピカソの愛人ドラ・マールは実在の人物だったのか、
エピソードには事実も含まれているのかと、無知な私はそこでも感心するわけでして。
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。
そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。
持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。
リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。
ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。
この「夢」とそっくりの絵「夢を見た」ははたして本物なのか贋作なのか。
ティム・ブラウンと早川織絵の対決、二人が下した結論はどうなったか。
そしてルソーが「夢を見た」を描いたカンヴァスは、ピカソが描いた下絵を使用したのか。
それとも真っ白いカンヴァスを使って描いたのか。
他にもいくつかある複数の謎をハラハラドキドキしながら追いかけていき、最後まで楽しませてくれるわけで。
もちろん謎解きだけでなく、ルソーその人や「夢」の絵についても多くのことを語ってくれていて、
それもこの作品の醍醐味になっていると思う。
この作品にも本作は史実の基づいたフィクションです。の断り書き。
二作とも断り書きがずいぶん重要な役目をしているような気がしてくるのよ、なんだか。