もうどうしてなの?とわが身に聞きたいくらいクラシック音楽がだめなのよ。
ほんとからっきしダメなの。楽しめない、退屈する、その二言。
聞かないからかしらね、浸らないからかね。感性がない。
でもでも、そのクラシック音楽に携わっている人たちの物語はすごく興味があるの。
千住真理子さん、その母上、佐渡裕さん、辻井伸行さんを指導した恩師、等々の作品は読んだ。
TVで、ピアノコンクールで自社のピアノを使ってもらうための宣伝マンたちの奮闘のドキュメンタリーも興奮して観た。
それらを観たり読んだりすると音楽家って如何にストイックでたゆまぬ努力をする人かと圧倒される。
もうすごいとしか言いようがない人たち、1日24時間以上音楽に捧げているものね、凄い。
ちょうどそんな時期、お笑い芸人の若林さん司会のテレビで朝井リョウさん、西加奈子さん、綿谷リサさん、
村田 沙耶香さんの対談番組を観ていた。去年の暮れごろだったと思う。
そのとき、おすすめの1冊に朝井さんがこの『蜜蜂と遠雷』をあげたのよ。
そのプレゼンが上手いのなんのって。もうすぐに読みたくなるくらい。
そしてそのとき彼は言ったね、恩田陸さんはこの作品で「直木賞」取りますって。すごいわ、本当にそうなったんだから。
気になってたから書店でも眺めたけれど、もうちょっと待ってみようと。
図書館に返却に行ったら休館で仕方なく軽い気持ちで地区センターに寄ったら、あったじゃないの。
運としか言いようがない。予約1番、返却日が20日ときたらこりゃあ手続きよね。
そして待っている間に「直木賞」決定。そりゃあ手元に来るのを楽しみにしていた。
「構想12年、取材11年、執筆7年」とは『蜜蜂と遠雷』のプレスリリースや新聞広告で使ったフレーズ、だそう。
わが家は新聞をとっていないからその手の情報には疎い。
でも読んでみると本当に長い年月かけて書いたんだろうな、ということは十分に推察される。
3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。
「芳ヶ江を制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた??。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵16歳。
かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。
音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。
第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?
はい、裏切りませんでした、面白くて。
紹介文そのまま、彼ら4人のコンテスタントが本選まで勝ち抜く過程、ありていに言えばそんなところだけれど。
朝井さんのプレゼンのうろ覚えを拝借すると、
4人それぞれの個性に合わせた演奏を、一次予選から三次予選まで曲ごとに見事に描き分けられていて
その表現がどの曲もダブらずそれはそれは圧倒的で読むものを惹きつける。と
ほんとにそうでした。
平易な文章なので、一気呵成に読めるのですがもったいなくて、予選ごとにいったん本を閉じて、
二次予選は次の日に続きを読む、また次の日に読む と言う具合にして本選までを読み進んでいったわけ。。
予選ごとに自分もあたかもコンクール会場にいるような気分にさせてくれて、審査員の描写になれば審査員のつもりに、
コンテスタントそれぞれの描写では、自分がそうなったつもりの疑似体験感情がわいてきて、読みながら軽く興奮していくわけです。
まさか文章で演奏に浸り音楽を味わおうとは。恩田さん、凄い筆力だ。
ピアノコンクールを通しての青春群像小説と言ったところでしょうか。
音楽知識感性皆無の私にも音楽って素晴らしいものだなという思いが十分伝わってきました。そんな小説です、おススメです。
あっそうそう、最後の方のページは開かないでね。
いつもの癖で捲ってしまった私は失敗。コンクール結果がばっちり載っていたのです。