3.『ローマ人の物語』[2]=“ハンニバル戦記”文庫版[上中下]塩野七生著

【ローマ軍団】
ローマ市民・35に分かれた行政区に所属。17~60歳男子は所有資産に応じ五階級に分かれる(無産者除く)。現役(ユニオーレス=ジュニアの語源)=17~45歳。予備役(セニオーレス=シニアの語源)=46~60歳。[将官は年齢制限無し]
執政官[冬=自然休戦期に市民集会で二人選出され、将官も選挙される]~一人の執政官は二個軍団で、合わせて四軍団、将官は24人(内10人は27歳以上10年以上の経験者、残りの24人は23歳以上5年の軍歴が必要)。
24人の将官は獲得票数の多い順に初めの4人は第一軍団。、次の三人は第二軍団、その次の四人は第三軍団、その次の三人は第四軍団、残りの10人は年齢順に配属された。
執政官・将官の選出・配属決定の後、35行政区から抽選で次の年の軍役者を出す四つの区を決める。
軍務担当の四つの区の男子は全員集まり、四つの区ごとにまず4人ずつ前に進み出[年齢体格など同じように]順次四軍団(1.2.3.4.2.3.4.1.3.4の順に)に配属され定員まで続けられる。残ったものは予備役となる。
一個軍団の人数は、歩兵騎兵合わせて4500人前後・全部で18000~20000。
騎兵は最多資産階級で、一軍団あたり300騎。
紀元前225年の軍事力
ローマ市民兵[歩兵20800,騎兵1200=22000]、同盟国兵[歩兵30000,騎兵2000=32000]
シチリア等属州防衛(ローマ市民のみ)[歩兵8400,騎兵400]
ローマ市民・30800、同盟国32000、現役予備役の割合を二対一とするとローマ市民の現役数は20万、同盟国は60万。
執政官の近衛兵は同盟国から選出され、宿営地では近衛兵が執政官を護衛した。
ローマ軍の一日の行程は25キロ。
ローマ人は肉食人種ではなかった。主食はパンかお粥。
夜間歩哨勤務中に眠ると事実上の死刑[両側に並んだ全員が棒で殴る]
最も軽い戦闘中の罰は、食料が小麦の変わりに大麦(馬の飼料=馬並みってこと)。
次は、宿営茅野作の外に宿営した。
最も重い罰は、集団で軍規に反す(総司令官に従わない)ことで軍全体から十人に一人の割合で犠牲者が抽選され、代表で鞭打ちの後斬首であった。(自分自身同罪でありながら同僚を処刑する)[十分の一処刑]
軍務中は無報酬が建前だったが、紀元4世紀初め頃日給が支給される様になった。
一日・歩兵4アッシス、百人隊長8アッシス、騎兵12アッシス、当時奴隷でも一日12アッシス稼げた。
従軍兵士の食糧の配給[同盟国には無料配布、ローマ市民兵は給料から差し引いた]。
ローマ市民歩兵小麦6モディウス(54リットル)、ローマ市民騎兵小麦18モディウス(従者分含む)馬様に大麦63モディウス。
この当時のローマ連合動員可能戦力:75万人。
古代では、鐙(あぶみ)は発明されていなかった。簡単な鞍だけだった。
そうだとすると生まれた時から乗馬になれていないとうまくは乗れない。
従って騎兵は社会的地位が高く裕福な家の私邸に限られてくる。
鐙は11世紀になってようやく普及する。
『天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることのできる人ではない。誰もが見ていながらも重要性に気付かなかった旧事実に、気付く人のことである』(塩野)
15年に渡る「ハンニバル戦争」で国土の半ばを荒らされ、10万人以上もの兵士を失い、10人もの執政官・司令官を戦死させているローマであったが、スキピオは講和の交渉をした。
ザマで壊滅的敗北を喫したカルタゴに対し、復讐的制裁を行わず、戦争は犯罪であると言わずそこにはただ勝者と敗者がいるだけで、正義・非正義と分けてはいない。
ハンニバルを殺しもしなかった。
ローマン人の伝統は、敗者さえも許容するところにある。敗者の絶滅は、ローマ人のやり方ではない。武装を解いた敗者に対しては自らも武装を解いた心で対する。
マケドニアのフィリップス五世の言葉「自由な社会のあり方を進めているローマでは、奴隷さえも社会の構成員だ。何かあると彼らにさえ市民権を与える。公職にさえ就かせる。立派なローマ市民だと思って対していると一代前は奴隷だったなどと言うことは始終だ。結果としてわれわれは地からわいてくるのかと思うほどにいつも新手のローマ人と相対さざるを得ないことになる。このやり方でかくも強大になったローマ人に誰が勝てるというのか」
紀元前753年に建国してから600年以上もの間ローマは敗者であろうとも地上から抹消するようなことは一度としてやらなかった。
前146年にはコリント、カルタゴ、スペインのヌマンツィアを消滅させた。
これに対し、塩野はコリント、スペインは「蛮行」と言えない、という。ギリシャ全土・スペインは秩序ある平和をもたらした。
しかしカルタゴの滅亡は、新たなる問題〈ヌミディア=源アルジェリア〉の強大化に歯止めをかけることの余地を閉ざしてしまった、と。
一世紀に渡る、カルタゴ-ローマの争いは、ローマの覇権確立で決着がついた。
2.『ローマ人の物語』[1]=ローマは一日にしてならず(文庫版)[上][下]塩野七生著

【エジプトのファラオ:王自らが神、
メソポタミア:神と人間たちの間を間をつなぐ・神官的色彩が強い、
ギリシャ:豪族の首領という感じ、
ローマの王:神の意味をあらわさない、共同体の意を体言しその共同体を率いていく存在、終身だが世襲でなく、選挙によって選ばれる。】
【1月Ianuarius語源ヤヌスの神
2月Februarius清めると言う意味から、この季節家畜を殺す
3月Martus軍神マルスに語源
4月Aprilis花開くという意味から
5月Maius旅と商いの神マーキュリーから
6月Iuniusユピテル神の妻か若者に語源
7月Iuliusカエサルの出生月を記念、カエサル暗殺(紀元前44以前)は(3月から数えて)第5月と呼ばれた
8月Augustus初代皇帝アウグストゥスを記念して、それまでは第6月
9月September第7月の意
10月October第8月の意
11月November第9月の意
12月December第10月の意
英語はラテン語を直接の母体にしていないが、ローマ文明の強い影響を受けている】
【多神教=ギリシャ・ローマ:人間の行いや倫理道徳をただす役割を神に求めない。神々は人間並みの欠点を持ち、道徳倫理の正し手ではない。
一神教=ユダヤ・キリスト
教:それこそが神の専売特許なのである。神は完全無欠で、人間を正すのが神の役割。
ユダヤ教から派生したキリスト教は、モーゼの十戒中の第一[わたしの他に何ものをも神としない]だけはユダヤ教に忠実だがその他の戒律は全て多神教を取り入れたようだ。②刻んだ像を造ってはならない、③神と主の名をみだりに唱えてはならない。
ローマ人は、神は守り神であり、守護を求めた。
愉快な例・ヴィリプラカ女神=夫婦喧嘩の神。
キリスト教では、守護神とするわけにかいず守護聖人とした。
ローマには選任の神官たちが存在しなかった。巫女を除けば、最高神祗官から祭司に至るまで市民集会の選挙で決まる。
ローマでは、狂信的でない故に排他的でも閉鎖的でもなかった、異教徒・異端の概念にも無縁で、戦争はしたが宗教戦争はしなかった。】
【人間の行動原則の正し手を、
・宗教に求めたユダヤ人
・哲学に求めたギリシャ人
・法律に求めたローマ人】
「ブルータスとは、綽名で、意味は阿呆」
「新しい文明は、なぜか周辺から生まれる」
「紀元前6世紀頃のローマは東京都の十分の一程度の広さ」
「紀元前500年頃ギリシャには、150ものポリスがあった」
貴族と言っても生まれながらの貴族を意味したのは最初の頃だけで、エリートの意味が普通になる。
元老院(セナートゥス)=S・P・Q・R「元老院並びにローマ市民」の頭文字で現在でもローマ市の告示に使われ、マンホールのふたにも刻まれている。
ローマ人は地中海を制覇した後でさえも平然とバイリンガーを続けた。
ローマ人は同盟国に対し、貢納金や年貢金のような形の納税を求めず兵力の提供(自費での武装)を求めた。
ギリシャでは奴隷は一生奴隷であった。
ローマでは主人がそれまでの奴隷に報いるとか、貯め込んだ金で自由を買うことができた。この奴隷を解放奴隷と言い、その子の代になると市民権を取得できた。
市民の二重国籍も認めた。
政府の要職や元老院の議席を平民にも開放することで常に新しい血と人材を供給することができた。
【2000年も昔の人記した歴史書=ローマ観の方がなぜすぐれているか?】
①ローマの興隆の因を精神的なものに求めない。
~興隆や衰退の要因を感性的なことに求めない。=興隆の因は作り上げたシステムにある。
②それらはキリスト教の普及以前に生きた人が書いた。キリスト教の倫理観価値観から自由でいられる。
③フランス革命の「自由・平等・博愛」の理念、価値観に縛られていない。
④問題意識の切実さにあった。~「あれほど高度な文明を築いたギリシャが衰退しなぜローマは興隆を続けるのか?」
・ローマ興隆の要因は=宗教~人間を律するよりも人間を守護する型の宗教のローマでは狂信的傾向が無くそれゆえ他の民族に対し対立関係よりも内包関係に進む=他の宗教を認めることは他の民族の存立を認めるということ。
・ローマ興隆の要因は=ローマ独自の政治システム。
・ローマ興隆の要因は=敗者でさえも自分たちと同化する生き方。
知力ではギリシャ人に劣り、体力ではケルト(ガリア)やゲルマン人に劣り、技術力ではエトルリア人に劣り、経済力ではカルタゴ人に劣っていたローマ人がこれらの民族に優れていた点は、彼らの持っていた《開放性》=宗教が異なろうと、人種が異なろうと人種や肌の色が違おうと同化してしまった。
“ローマ人の物語”第一巻。
第一巻は全体のエッセンスのような感じがする。[もちろんまだ全部は読んでないが]
《ひとまずの結び》が、また、簡潔でとても良い。
1.『さらに・おとな は が の もんだい』五味太郎