マシュー・マコノヒーが登場して驚きました。
ダラスのマコノヒー マッドのマコノヒー
"MUD"や"ペーパーボーイ"の彼は、筋骨たくましい青年でしたが、別人と見間違う程やせていました。
エイズ患者を演じるために20キロほど体重を落としたそうです。
共演者のレイヨン役のジャレッド・レトも18キロ減量して挑んだそうです。
さて、ロイは、ある日突然倒れ、「HIVに感染し余命30日」と告げられます。
この当時は、HIVイコールホモセクシュアルの病気と思われ、今以上の偏見と差別がありました。
一方、大病院と製薬会社とFDA(アメリカ食品医薬品局)は、新薬開発を急ぎましたが、その三者は癒着し金儲けの為に腐敗し、
彼らは“個人の健康のために薬を飲む権利を侵害”していました。
副作用が強く大きいAZTの臨床試験が行われていました。
それはウイルスも殺すが多くの患者も死んで行く薬でした。
他方、有効と思われる未承認の薬は使えず、また処方箋が無いと薬が使えないなどの事情があったそうです。
ロイは、猛勉強と知恵を駆使して、ペプチドTなどの未承認薬や処方箋無しで薬が使えるように悪戦苦闘します。
当然それはイリーガルにならざるを得ないのですが…。
彼はその後約2550日余を生きました。
この映画が成功したのは、シリアスな題材を生真面目に「清く正しい患者の涙ぐましい努力と戦い」の"感動物語"ではなく
コメディタッチに仕上げたことです。
いわば「麻薬と酒とセックスに溺れ、ゲイへの差別主義者」のチンピラ風男がまさにドンキホーテのように
巨大悪に挑むのですが、笑いの連続です。
でも、映画館では全く笑いが起きないのです。
本当に最近、映画は、「高尚な芸術」になってしまったのでしょうか。
マシュー・マコノヒーは、若き日のポール・ニューマンに似たハンサム俳優ですが、
話題作に次々出演し、魅力を振りまいています。
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人生の終焉を迎え始めたフィロミナは、50年前に強制別離させられた息子のことが脳裏から離れません。
彼女の唯一の気がかりは彼が「私のことを思っていてくれたかしら」。
かつてイギリスが養護施設の子どもを海外に移民させていたことをテーマにした映画・「オレンジと太陽」がありました。
今回の映画も、同じようにイギリスを舞台に、しかも修道院で同じことが行われていました。
しかも今回は多額の金銭の授受があったことと修道院の中には「セックス=快楽で堕落」という強固な観念の持ち主が
いると言うことです。
神に仕える我が身こそ最高と自負する彼らは、事実の一切を闇に葬ることに何の後ろめたさを感じません。
すべての記録が焼けたと平気で嘘をつき、死んで行った子らの墓は放置し、荒れています。
この映画の良さ、成功は、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」同様、シリアスな題材を深刻がらずに
ユーモアたっぷりに描いていることです。
映画のもう一人の主人公は、フィロミナとともに息子を探すBBCを首になったエリート、マーティンです。
フィロミナは「あなたはオックスブリッジ卒業なの」とマーティンに聞きます。
私には、それは皮肉に聞こえたのですが、彼女にとってはそんなことは些細なことでどうでも良いことなのでしょう。
映画の最後に、事実を隠してきたヒルデガード修道女に、マーティンは「私はあなたを赦さない」と言います。
他方、フィロミナは「私はあなたを赦します。赦しには苦しみが伴うものですが…」と言います。
フィロミナのこの精神の高みに、私もマーティンもそしておそらくヒルデガードも心が洗われるのです。
この映画の隠れたテーマは、フィロミナの言う「赦し」とE・S・エリオットの名言、
「我々のすべての探求は、最終的に初めにいた場所に戻り、その場所をはじめて認識することである。」
The end of all our exploring. Will be to arrive where we started. And know the place for the first time.
にあるのかも、と私は思いました。
そして、
マーティンは、神の存在を信じない「近代知」の固まりのような「エリート」です。
他方、セックス=堕落とするヒルデガードはすべてを神に捧げた「宗教者」です。
マーティンとヒルデガードの二人は、正反対のようですが実は根本の所では同じような精神の持ち主、
形而上学だけの世界で生きているように私には思われました。
マーティンは、フィロミナの「教養のなさ」をこれまで低く見て来たのですが、
映画の最後で、これまで下らないと馬鹿にしてきた三文小説の筋を彼女に聞きます。
日本の映画タイトル、"あなたを抱きしめる日まで"はとても頂けません。
私は、イギリスは好きではありませんが、イギリス英語の発音は耳に心地良いです。
number は米語ではナンバーですがイギリス英語ではナンバァの感じ。
さて、
イギリスが養護施設の子どもを海外に移民させていたことをテーマにした映画・「オレンジと太陽」の私のブログはここです。
【8月18日鑑賞】