風そよぐ部屋

ウォーキングと映画の無味感想ノート

映画・「咲(え)む」を観ました。

2021年03月30日 | 映画

佳作です。
全日本ろうあ連盟創立70周年記念で作られました。
良いと思った点を三点にまとめました。
 第一は、主人公のろう者が差別や偏見に苦しむ「同情される受動的」人では無く、主体的能動的人間としたことです。
 二番は、「啓蒙さ」と「お涙ちょうだい」を無くしたことです。
 第三は、言いたいことはたくさんあるだろけど一つ剥ぎ二つ削ぎおとし、禁欲・抑制したことです。
 10年前の前作「ゆずり葉」(全日本ろうあ連盟創立60周年記念作品)は、言いたいことをあれもこれもみんな詰め
込み、「ろう運動を知ってくれ」的な「啓蒙」映画でした。少し無礼に言えば「ろう者が作ったというだけで価値ある」
感じでした。今作は文字通り「一般・普通の映画」として充分鑑賞できる作品となりました。
 「ゆずり葉」以後の様々な経験の上に作られたとも言えます。それ以上に10年の月日は、様々な社会的自然的事件
や出来事(自然災害など)と人権や差別や偏見に対する人々の社会的運動の大きな前進があったことが何より大きい
と私は思います。それらは決してなくなったり減ったりしているわけではありませんが、LGBTやレイシズムに対す
る運動など様々な差別や偏見に対する批判や克服の運動は目まぐるしく前に進みました。
 私は、久松三二さんと新井英夫さんの二人のプロデューサーの力も大きいのかと感じました。
顔なじみのたくさんの聴者俳優を使ったのも良かったです。

左から、島かおり、丘みつ子、佐藤蛾次郎、赤塚真人、宮下順子さんら
 生活保護費の問題で批判を浴びた次長課長の河本準一さんや「男はつらいよ」の源ちゃんの佐藤蛾次郎さんらがま
じめな役で登場したのには、私は少し笑みがこぼれました。
 ろう者や聴覚障害とのコミュニケーションは手話だけでなく、筆談や空書やジェスチャーやボディ表現そして触手
話やタブレット使用など多様な方法があることをさりげなく表現していました。まさに「手話言語条例」運動の成果と
言えます。ろう者で糖尿病のため視力を無くした、盲ろう者の元花農家の妻の奥さんの優しく簡潔な手話が私は特に
気に入り、出色でした。
 所々に挿入される押さえた音楽も良かったです。その場面の多くは、主人公の瑞月が一人考え事をする時でした。
 エンディング曲、夏川りみの歌もとても素敵です。

主人公平木瑞月を演じた藤田菜々子さん、誤解を恐れず言うと、彼女が「超美人」でないことも私には良かったです。
 さて、不満も沢山あります。映画の途中で1分間ほど音が消えました。それは、聞こえる人々が聞こえない人々の音の
ない世界を知ってほしいという狙いかと思うのですが、私には不要と思いました。
 次は、映画の舞台となった地域は里山と山村が混在する所でした。そこを瑞月がギア比が重い自転車で疾走するのは
ちょっと無理で、電動アシストかせめて変速ギア付きの自転車にしてほしかったです。
 セリフを集音する技術の失敗と思うのですが、ところどころ声が不自然に大きくなることです。
 照明の失敗と思うのですが、時々画面の色彩が異常に汚くなります。
 ストリー上では、瑞月が養鶏場家族の労働の手助けをすることです。失敗したり、けがした時応急的に助けるのは良い
としても労働を援助するのは役場の人としてはやはりおかしいです。
 「咲む」を「えむ」とはどうにも読めません。どうにも奇のてらい過ぎ、大失敗と私は思います。
 少し褒めすぎですが、決して英雄的ではない瑞月がしっかりと社会と人々と自分を見つめ生きる姿です。それはろう者
の新しい人間像だけでなく、たくさんの人々の新しい人間像を描こうとしています。      
                              【以上の写真は全て『映画・咲む公式サイト』より】
不二家・ミルキーとコラボしているようです。
        終わり 
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3月27日、コロナ禍で久しぶりに映画を見ました。大きい画面で観る映画は良いものです。


映画/新聞記者

2020年01月27日 | 映画


面白かったです。国が化学兵器を研究する大学を「特区」で作る計画しています。それに抗う官僚
を察知した内閣調査室(内調)は、彼を抹殺します。若き新聞記者がその「特区」の問題を暴こうと
します。また、先輩官僚の死に疑問を持った若きエリート官僚がその真相に迫ろうとします。
この「特区」の問題はこの映画の重要さではありません。 映画の狙いは安倍内閣の忖度・隠蔽・誤
魔化し政治の批判ではもちろんありません。また、内調や日本社会の危険に警鐘を示すことでも
ありません。あくまで社会派サスペンスとしてのエンターテイメント映画です。
ストーリーはちょっと雑ですが。個性的な感じのする松坂桃李さんは私の好きな俳優です。また、
出色は、何といっても若き韓国人俳優シム・ウンギョンさんです。ちょっと大げさな演技の感じで
すが、完璧ではないですが日本語をとてもうまく話します。このキャスティングは大成功でした。

第74回毎日映画コンクールの日本映画優秀賞、女優主演賞に、シム・ウンギョンさんが選ばれまし
た。また、第43回日本アカデミー賞でも、優秀作品賞、優秀主演男優賞(松坂桃李)、優秀主演女優賞
(シム・ウンギョン)の受賞もしたそうです。
昨今、日本でも世界でもあらゆるところに設置されたカメラでの映像とインターネット、スマー
トフォン、カード等の様々な情報がAIで統合・処理されています。そう遠くない5G以降の将来、私
たちのほぼすべてのことが国家によって監視・把握される、そんな恐怖の時代を予感させる映画
でした。
面白かったのは、テレビのワイドショウのメインコメンテーターで登場する元文部科学事務次官
の前川喜平さんでした。まるでBGMのように頻繁に流れるのですが、彼の話し方はまるでプロの
俳優のように上手かったです。                        【1月20日】

映画/さらば愛しきアウトロー

2020年01月11日 | 映画


正直言って、レッドフォード俳優引退作だけがウリの駄作です。実話をベースにしている
そうですが、アメリカ警察と銀行の無能さにうんざり。70歳前半の設定だそうですが、彼
はもう83歳、顔中しわだらけです。
ナンパされるシシー・スペイセクと刑事のケイシー・アフレックの二人にかろうじて支え
られている映画です。

【12月30日】

映画/アマンダと僕

2019年12月22日 | 映画


私好みの映画、良かったです。物語は、とてもシンプルです。アマンダという少女のシングルマザーが
「テロ」で死にます。彼女の24歳の若い叔父さん・ダヴィッド(母の弟)とアマンダの物語です。ありがち
なストリーでは、物分かりのよい青年がいろんな障害や困難を乗り越え、頑張ってアマンダを引き取
る、ですが、この映画の彼は、おろおろし、メメしく、すぐ泣いてしまう「軟弱」な青年です。そんな彼が
アマンダを養女に迎え、ともに人生を歩もうと思います。
映画には、悪意の人の登場がありません。嘘くさいですが、現実では意外にそうだと私は思います。両
親に死なれた子どもをめぐるフランスの福祉の一端ものぞけます。
彼らの両親などの過去や関係の細かい説明がほとんどないのも成功しています。もっと省いた方がも
っと良かったと思います。
もちろん欠点もあります。母の死が、交通事故ではなく「テロ」だった特別の理由はあるのかどうか、ウ
インブルドンのテニス試合はこじつけ気味で、必要で意味があるのか、などなど。
アマンダを演じたイゾール・ミュルトリエさんは街でスカウトされた、全くの素人だそうです。彼女が
何とも素敵です。

外国では、子どもの学校への送迎を家庭がするのが一般的で多いようです。この労力・時間はかなり大
変です。日本の子どもだけの通学はやはり良いですね。
生前、母親がアマンダに語ります。「言葉にはいろんな意味があるのよ。Elvis has left the building.はプレ
スリーがコンサートを終えて建物を出た、という意味だけど、もう終わった、という意味もあるのよ。」と
語ります。「言葉にはいろんな意味があるのよ」は、味わい深い言葉です。調べてみると、アマンダという
女性名には「愛される人」の言う意味もあるそうで、ダヴィッドは、もちろんダビデ由来ですが、こちら
も「愛される人」の意味があるそうです。【12月16日】

映画/Girl/ガール

2019年12月19日 | 映画


刺激的映画です。日本に紹介されることが少ない珍しいベルギー映画です。昨今、LGBTへの
「理解」は広がって来ていますが、まだ十分とは言えません。
ララは、女性バレリーナになりたいと願っています。体は男性ですが、女性の体になりたいと
思っている思秋期の人です。これまでの映画なら、家族からも、友人たちからも理解されず、
孤独に悩み、苦しみ、そして戦うという扱いが多いと思いますが、この映画では、家族や友人
も彼女を自然に受け入れています。特に、父親が最高に素敵で、彼女に寄り添い、支えていま
す。これが、現在のベルギー社会のあり様かは私はわかりませんが、もしそうなら素敵です。
そんなクラスメートですが、彼女にペニスを見せてと迫ります。バレーを踊るシーンとペニ
スを隠したテープをはがすシーンが過剰に多過ぎ、長過ぎです。後半の自虐シーンも賛否が
分かれる所かもしれません。
私は、この映画では容姿が他の女性より美しい彼が主人公ですが、「美しくない顔と体」の人
だったら、そしてさらにその他に体の「障害」を持っていたら、彼女の苦悩はどれほどだった
か、と思いました。それは、映画にするには難し過ぎると思いますが、とまれ、彼女が群衆の中
元気よく真っすぐ前を向いてこちらに向かって歩いて来るラストシーンは素敵でした。
【12月16日】

映画/ワイルドライフWildlife

2019年12月17日 | 映画



つまらない映画でした。解雇された父親が、山火事消化のボランティア的仕事に行くことを
妻に充分に話さずに行ってしまいます。他方、夫の心がわからない妻は夫の不在の寂しさに
耐えきれず不倫に陥ってしまいます。山から帰って来た夫は、息子に留守中の妻の様子を細
かく聞き、怒り、妻を激しく罵倒します。妻は、自立を求め家を出ます。息子が「子はかすがい」
と、二人を取り持つ、と言うだけのお話し。イヤハヤです。          【12月9日】

映画/長いお別れ

2019年11月27日 | 映画


全くの期待外れでした。カマトト的だけど好きな蒼井優と離婚で一皮むけた感じの美人・竹
内結子とアクの強い山崎努がかろうじて支えただけの映画でした。おいおい、痴呆症の扱い、
切り口はこんなのでいいの、って感じ。長女の息子の描き方は蛇足を越えていました。
                                  【11月18日】

映画/洗骨

2019年11月22日 | 映画

秀作です。
予告編を見た時は、奇をてらう感じがしたのですが、とんでもありませんでした。素敵な映画でした。


左は、この映画の助演女優の大島蓉子さんです。テレビでは何度も見たことがあります。この映画の最も感動的
役を演じました。主演女優賞ものです。右は、監督・脚本の照屋年之、漫才コンビのガレッジセールのゴリです。
沖縄の先島諸島の一つ・粟国島が舞台です。ストーリーは決して複雑ではなく、極めてシンプルです。

テーマは、妻・母の「洗骨」を契機に家族の絆の回復と落ち込んでいたそれぞれの「再生」です。
洗骨とは、なじみがない言葉です。死者を一度、土葬や風葬した後に、死者の骨を海水や酒などで洗い、再度埋葬す
る葬制でだそうです。
この文化は、アジア、北米先住民、アフリカ、インド洋諸島、東南アジア、オセアニアなどにも広く分布したそうです。
私達の「日常的」では、火葬が一般的ですが、自然葬は、狭義には散骨と同義であり、広義には風葬、鳥葬、水葬、火葬、
土葬、樹木葬、冷凍葬など、自然に回帰するような葬り方全般を指すそうです。日本本土にはなじみのない洗骨です
が、深い意味があると思いました。大切な人の死の受容は難しいです。洗骨はおおむね4年後に行うようです。4年と
いう月日は、大切な人の死を静かに受容するのに適当な年月の長さなのかも知れません。
昨今では、海洋散骨や骨を粉にして「廃棄」するのもあるようです。
映画で洗骨を扱うとシリアス過ぎるキライがあります。脚本・監督の照屋は、まさに「緊張と緩和」の絶妙なバランス
でこの難問を越えました。
ただ、私は、洗骨と出産のシーンは長過ぎと思いました。このシーンをもっとさりげなくさらっとすればするほど良
かったと思います。久々に、素敵な日本映画でした。粟国島にも行きたいと思いました。      【11月11日】

映画/芳華・Youth

2019年11月17日 | 映画


 世界各地で数々の賞をもらったらしいですが、私にはイマイチの感じでした。
 巨大な製作費を使ったかつてのハリウッドの大作映画のようです。特に1979年の中国・ベトナム間の戦争シ
ーンに時間とお金をかけ過ぎです。映画の主役の一人小萍は、野戦病院の過酷な経験などから精神を病むので
すが、戦闘シーンも、過剰な血しぶきは必要とは思えません。また上映時間136分は長すぎです。
 中国の歴史は、複雑で難しいです。映画の舞台は、プロレタリア文化革命が終わりを迎えた1976年です。文化
革命の様々な残滓が色濃く残っています。一般大衆は、何よりもその出自が重視されて来ました。貧農や労働者
階級出身はそれだけで優遇されました。でも、知識階級でも革命に参加して、功績をあげるとエリートでした。
家族つまり父親の出身・経歴、つまり封建的戸籍制度が残酷なほど大きな役割を果たすのです。主人公たちが属
したのは、兵士・紅衛兵を慰問する歌劇団・文工団、です。出自の良い団員はその「威光」を借りて、そうでない人
を半端なくいじめを受けます。
 文革で弱まった軍隊は、ベトナムに完敗します。中国は、この敗北を一つの契機に毛沢東の死と文革の疲弊を
乗り越えるために「近代化」に舵を切り始めます。そうした時代背景の中で、青年たちの苦悩を描くのが本来な
らこの映画のテーマになのに…、残念ながらそれらの表現は全く不十分です。中国映倫はとても厳しいので、現
代中国の批判はとても難しいらしい中、皮肉的批判が随所に込められてもいるので頑張ったな、の印象もあり
ますが、冒頭写真にあるプールサイドの水着や下着シーンなどは全く不要で、興ざめでした。
 心を病んだ小萍と右腕を失った劉峰がホームのベンチで肩を寄せ合うラストシーンに、やっと静けさと穏や
か取り戻した二人に私は、少し心穏やかな気持ちになり、「良かったね」です。
 【11月11日】

映画/僕たちは希望という名の列車に乗った・The silent revolution

2019年11月15日 | 映画


評価が微妙に難しい作品です。
 1956年10月23日、ハンガリー蜂起を知った東ドイツの高校生の一クラスが授業前にその蜂起に共感し2分
間の黙祷をします。高校当局、政府、秘密警察による執拗な捜査が始まります。この映画の背景はハンガリー
蜂起ですが、その経過や評価などが直接のテーマではありません。様々で巨大な権威・権力が市民・個人・家族・
祖先を監視し、脅迫するサスペンスです。この点からの映画はよくできているのですが、高校生の内面の苦悩
の描き方が一面的過ぎるのです。もっともそれはこの映画の直接のテーマではありませんが。高校生を演じた
俳優がどう見ても高校生には見えないのが一番の難点でした。頑強に見える恐怖のシステムは、いつかは崩壊
せざるを得ないと予感させます。
 時代は、本格的な冷戦が開始されます。当時の社会主義社会は「希望という名の列車」でした。ハンガリー市
民の民主主義を求める蜂起に、「希望であったソ連」の戦車が介入し、市民を虐殺します。この出来事は、世界に
大きな衝撃を与え、日本では「反スターリニズム」と日本共産党の批判勢力、いわゆる「新左翼」が生まれ、また、
ベルリンの壁が作られる遠因の一つになりました。
 ベルリンの壁が作られたのはこの蜂起の5年後1961年、その壁が崩壊したのは約30年後の1989年、東西ドイ
ツ統一はなんとその1年後でした。当時のベルリンの東西を分ける壁はまだなく、比較的自由にその往来がで
きました。このクラスの生徒の多くが、警備が緩やかになるクリスマス休暇で列車に乗って西ベルリンに脱出
しました。
 今、世界は大きく揺れています。「希望であったEU」、香港と中国、北朝鮮、そしてアメリカ合衆国などなど。
                                         【11月11日】

映画/グリーンブック Green Book

2019年10月19日 | 映画



佳作です。ドナルド・ウォルブリッジ・シャーリーはカーネギホールのアパートに住む裕福な
ジャマイカ系アメリカ人のクラシック及びジャズピアニスです。

彼は2つの名誉博士号を持つエリート知識人です。1962年代、彼は専属ドライバー兼ボデイガ
ードとしてイタリア系アメリカ人の警備員トニーを雇い、黒人人種差別が根強く残るディー
プサウスにコンサートツアーに出かけます。当時、黒人は、白人専用のレストランやホテルや
トイレなどに入ることはできませんでした。彼は、最終公演をすることになっていたホテルの
レストランで入場を拒否され、沈着冷静な彼ですが堪忍袋の緒が切れます。
著名な音楽家だけど粗野で無教養の白人とインテリジェンスのある黒人運転手というコンビ
の二人のドタバタ劇ならこれまでありそうなパターンですが、この映画では逆です。この「ミ
スマッチ」が深刻な社会問題の背景を斜めにとらえるコメディロードムービーになりました。
シャーリーには、孤独が常につきまとっています。彼は、貧しい黒人コミュニティの一員にも、
またエリート白人社会の一員にもなれず、また同性愛者というだけで逮捕されもし、成功して
いながら、「自分は何者か」と悩み、自分の居場所がないと思っているのです。しかし、トラブル
を通して二人は心を通わせ始めます。
私は、10月7日、同時に『ブラック・クランズマン』も見ました。2つの映画は両方とも、人種差
別を扱っていますが、正面から人種差別を扱えば、観客も限られます。コメディタッチのエン
ターテイメントにするのは苦肉の策です。ブラックの方は差別の恐ろしさのいわば直球です
が、グリーンの方は差別はやはり深刻なのですが、変化球気味です。トニーが白人ながら差別
されるイタリア系移民も味噌です。陽気なラテン系でなければ二人の心の通い合いも生まれ
なかったかもしれないと思いながら見ていました。映画で流れるピアノ音色はとても素敵な
のですが、この現実は現代でも、との思いが併存し物悲しくもありました。   【10月7日】

映画/ブラック・クランズマンBlackkklansman

2019年10月14日 | 映画

コメディタッチの映画ですが、いろんな問題を投げかけている刺激的映画です。Blackkklansman を
BlacKKKlansman と書き換えると読み解けると思います。KKKは’Ku Klux Klan’の略ですが、語源・
語意は諸説あるようですが、アメリカの黒人奴隷制度を支持しその後黒人を人種的に差別、更にユダ
ヤ人や共産主義者などを憎悪するする集団でまさにアメリカ版「ナチズム」とも言えると思います。
KKKに所属する黒人と言うのですから、すさまじいものです。この問題を正面から取り上げ、切り込
んだら「あいちトリエンナーレ」どころではない猛反発と攻撃を受けたでしょう。この映画では直球
ではなく、コメディタッチにしたのだと思います。
 映画では、アメリカではすでに忘れ去られている「ブラック・パンサー党」、「ストークリー・カーマ
イケル」を登場させ、このグループにも潜入捜査します。1960~1970年代は、社会変革の世界的うね
りの時代でした。マルティン・ルーサー・キングJrさんやマルコムXさんらの公民権運動もその一翼
を担いましたが、その運動に飽き足らない黒人たちは、「ブラックパワー」を爆発させます。
 1968年のメキシコオリンピックのブラックパワー・サリュート(アメリカ公民権運動で黒人が拳
を高く掲げ黒人差別に抗議する示威行為)は衝撃的でした。ふたりの黒人メダリストは、その後、ア
メリカ陸上界から追放されました。
 

また、パンサー党は、武装闘争に取り組みますが、その後の大弾圧などで分裂やがて消滅していきます。
 1968年のメキシコオリンピックはソ連のプラハ侵攻直後に開かれました。チェコのチャスラフスカ
さんはそれまでの赤いレオタードから、抗議の意を示すために濃紺のレオタードで競技を行いました。

映画では、エリートの黒人青年ロン・ストールワースが警察官になります。配属されたのは資料室、ここ
でも彼は白人同僚から人種差別を受けます。彼はふと目にした、KKK勧誘の新聞記事を目にし、電話で加
入を申し込みます。彼の白人的英語と差別的話しぶりが高く評価され、面接の許可を受けます。でも彼は
黒人ですから面接できないので、同僚刑事に代役を頼みます。その同僚がなんとユダヤ人です。こうして
ハラハラドキドキの潜入捜査が始まります。私は、南部黒人と白人の英語の発音の違いがあることなど
知りませんでした。You are の黒人の発音は語尾に少し強いr音が入るらしい、などです。これらの下りは
面白かったです。最後は二人は無事生還、解決します。
 映画のエンディングで、突如、2017年のヴァージニア州の白人至上主義者の行進が突如映し出され、次
に行進に抗議するデモの列に向かって一台の車が突っ込む衝撃的シーンが映し出されます。一人の女性
の命が奪われます。トランプ大統領が「どっちも悪かったしね」と平然と発言する映像が流れ、反転された
白黒のアメリカ国旗が無音で映し出され、映画が終わりました。
 コメディの世界から現実の世界に引き戻されるこのシーンが必要だったかどうかについては評価が分
かれるようですが、私はこの映画の作者たちの勇気を称えたいと思います。
 蛇足的に、主人公の名前、Stollworth の意味を調べたら、stoll は失う、worth は価値、とありました。
 この映画の背景時代から半世紀が経ちます。キング牧師やカーマイケルさん、マルコムXさん、そして
チャフラフスカさんらの思いは、人々の願いは前進しているのでしょうか。    【10月7日】

映画/ドント・ウォーリーDon't Worry, He Won't Get Far on Foot

2019年10月13日 | 映画


私は、キャラハンを知りません。彼は72年、21歳の時交通事故で胸から下が麻痺してしまいます。
彼は小さい時、母親に捨てられそのトラウマと事故で自暴自棄になり、酒に溺れます。ふと描いた
ブラックユーモア的風刺漫画が人々の目に留まり、人気漫画家となって行きます。彼の自伝がベ
ースだそうですが、同性愛者でエイズ患者のドニーの「禁酒セラピー」に参加しますが、この部分
がちょっとシリアスでそれ以上に長すぎで退屈してしまいました。「悩み」部分は軽妙にしもっと
コメディタッチにすればより面白い映画になったと私は思います。私としては「並みの出来」の映
画でした。           【9月30日】
彼の漫画  
 

映画/パリ、嘘つきな恋 Tout le monde debout

2019年10月11日 | 映画


面白かったです。女とみると見境無くナンパするジョスランが恋した女性・フロランスは、
車椅子テニスを楽しむオーケストラのバイオリニスト。どう見てもフロランスがジョスナ
ンに惹かれるなんてのはあり得ない、不釣り合いなのですが、映画ですから。彼女は、すぐ
彼が車椅子生活者では無いことを見抜きます。彼のスニーカーが汚れ、かかとがすり切っ
ていた、のオチです。ともあれ、さすがフランス映画、「障害」を特別視もせず、深刻ぶらず、
軽妙なコメディになりました。 Tout le monde deboutの意味は「みんな立って」のようです。    
                                 【9月30日】

映画/天国でまた会おうAu revoir la-haut

2019年10月04日 | 映画


傑作です。上の案内では「クライムドラム」と紹介されていますが、確かにその一面はありますが、
喜劇的であり、それ以上に、深いテーマ性を感じました。戦場で、鼻以下の顔を失ったアルベール
は、絶望し、自死のみを思います。彼を助けたエドゥアールの励ましで何とか生き延び生きがいを
得た二人は、戦争犯罪人達からの大金奪取に生きがいを見いだします。銀行の頭取で戦争大犯罪
人の一人であるアルベールの父への「断罪」に成功するのですが、アルベールの「思い」は父には通
じず、彼は自死してしまいます。私は、この結末を選んだ意図や思いは今でもわからない不満が強
く残りますが、…。エドゥアールは、「無事」フランスを脱出し、「めでたし」で終わります。【9月8日】