佳作です。ドナルド・ウォルブリッジ・シャーリーはカーネギホールのアパートに住む裕福な
ジャマイカ系アメリカ人のクラシック及びジャズピアニスです。
彼は2つの名誉博士号を持つエリート知識人です。1962年代、彼は専属ドライバー兼ボデイガ
ードとしてイタリア系アメリカ人の警備員トニーを雇い、黒人人種差別が根強く残るディー
プサウスにコンサートツアーに出かけます。当時、黒人は、白人専用のレストランやホテルや
トイレなどに入ることはできませんでした。彼は、最終公演をすることになっていたホテルの
レストランで入場を拒否され、沈着冷静な彼ですが堪忍袋の緒が切れます。
著名な音楽家だけど粗野で無教養の白人とインテリジェンスのある黒人運転手というコンビ
の二人のドタバタ劇ならこれまでありそうなパターンですが、この映画では逆です。この「ミ
スマッチ」が深刻な社会問題の背景を斜めにとらえるコメディロードムービーになりました。
シャーリーには、孤独が常につきまとっています。彼は、貧しい黒人コミュニティの一員にも、
またエリート白人社会の一員にもなれず、また同性愛者というだけで逮捕されもし、成功して
いながら、「自分は何者か」と悩み、自分の居場所がないと思っているのです。しかし、トラブル
を通して二人は心を通わせ始めます。
私は、10月7日、同時に『ブラック・クランズマン』も見ました。2つの映画は両方とも、人種差
別を扱っていますが、正面から人種差別を扱えば、観客も限られます。コメディタッチのエン
ターテイメントにするのは苦肉の策です。ブラックの方は差別の恐ろしさのいわば直球です
が、グリーンの方は差別はやはり深刻なのですが、変化球気味です。トニーが白人ながら差別
されるイタリア系移民も味噌です。陽気なラテン系でなければ二人の心の通い合いも生まれ
なかったかもしれないと思いながら見ていました。映画で流れるピアノ音色はとても素敵な
のですが、この現実は現代でも、との思いが併存し物悲しくもありました。 【10月7日】