面白かったです。
主人公は、名前が明らかでない「彼女」と英国人作家のジェ-ムズ。
二人の出会いは、ちょっと不自然で・安易過ぎ、一ひねり、二ひねり欲しかったです。
ジェームズは「芸術におけるオリジナルと贋作の問題」と言う本を書き、そのイタリア語訳が出たので、
南トスカーナの小さな村に来て講演・サイン会を行ったのです。
骨董店を営む彼女は、その講演会に来て、「店に来て欲しい」と言うメモを残し、中座します。
こんな誘いは普通は無視されるのですが、ジェームズはのこのこ出かけて行きます。
最前列に座った彼女の色気に負け、鼻の下を伸ばして…と思わせるのですが。
彼女の骨董店を訪れた彼は、トスカーナのモナリザと呼ばれる絵が展示されている美術館に案内されます。
その絵は、50年ほど前に、贋作だと分かりました。
二人はカフェに入ります。
この映画の特徴は、カメラカットしないで、まるでドキュメントのように二人の姿を写します。
二人の会話はかなり騒々しいのですが、沈黙=無言の間もかなりあってとても新鮮です。
この映画の小道具は、携帯電話です。
長いシーンが続いた後、携帯電話が鳴ると、話の佳境でも何の挨拶もなくそこで会話が途切れ、
全く違う世界が侵入し、場面が変わります。
カフェで、二人は共通の言葉・英語で話しています。彼に電話がかかり、彼は店の外に出ます。
英語の分からないイタリア人の女性店主は、「良いご主人ですね」と話しかけ、
彼女は、この虚構にちょっと嬉しくなり、夫婦であることを装い、彼にもそう話し、彼もそれいに従います。
この時彼女に訪れた表情は初々しくもあり、かわいらしさがにじんでいました。
彼女はフランス人で、15年前にこの地で結婚式を挙げ、5年前にこの地に引っ越してきたそうです。
この映画、英語・フランス語・イタリア語が入り交じります。
この映画の宣伝文句は"ラブ・ストーリー"、たちまち二人は一目惚れしあい、求め合う、と想像してしまうのですが、
15年目の結婚記念日をすっぽかされた彼女は、その愚痴を彼にぶつけます。
二人はウッディ・アレンの映画のように屁理屈をこねくり回し、けんかのように言い合うのです。
私たちは、日常では些細なことに腹を立てて喧嘩しますが、
本音で言い合うことはほとんどありません。
この言い争いによって、二人の間には微妙な空気が流れ始めます。
夫婦と間違われた彼女、ジェームズが電話している時に、トイレに入って、変身です。
真っ赤なルージュを引き、髪を手入れし、イヤリングを付けます。
歩き疲れた二人は、階段で休憩。彼女は、彼の肩に頭を倒すのでした。
彼女は、いつしか目の前の現実と昨日までの現実が混雑し、まがいの“虚”が“現実”となってしまうのです。
目の前にある教会に入った彼女は、そこでブラを外してきます。大胆な第二の変身です。
その階段は、15年前に泊まったホテルでした。
ジェームズは、最初に夜9時までならつきあうと彼女に、言ったのですが、ベッドに誘われたジェームズは、
トイレに行って長いおしっこをして画面から消えます。時計台がまだ明るい9時を示し、映画が終わります。
さて、ポスターには「夜にたどりつけない男と女」とありますが、トスカーナの夜はなかなか暗くなりません。
その後の二人は?
私は、途中でカメラカットがとても少ないことに気がつき、どのように撮影したかとても不思議でした。
長い台詞をよどみなく演じた俳優、カメラマン、見事でした。
ジェームズ役のウイリアム・シメルはオペラシンガーだそうですが、良かったです。
さて、題名は、トスカーナの贋作の絵のことですが、まがい物・本物、虚と実は微妙です。
偽物の夫婦を装っているうちに、嘘と実の境が混沌としてしまいました。 【2月20日】
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うたい文句は、「全米No.1を獲得した珠玉の恋物語。世界で最も読まれた恋愛小説の映画化」だが、
ごくありふれたメロドラマ的恋愛もの。