広島新四国八十八ヶ所めぐりは再びの東広島・西条である。以前、西条駅の北にある第38番・国分寺に参詣したが、すぐ近くにある第57番・福寿院(円通寺)は門の前を通ったものの、番号順での参詣ということで素通りした。そして前回(1月)、わざわざ山陽道の河内インター近くのホテルに前泊して第56番・棲真寺に参詣し、その帰途に立ち寄ることもできたが、そのまま山陽道でスルーした。
西条へは日を改め、2月5日に出かけることにした。午前中に用事を済ませ、山陽線で昼前に出発。西条駅に降り立った。
あえて三原からの帰りにお参りせず、今回にわざわざ回したのは福寿院の立地のためである。西条といえば県内有数の酒どころ。駅前にも地元酒蔵の銘柄の看板が並び、ちょっと遠くを見やると赤レンガの煙突がいくつも見える。
その中を歩く。駅に近く、そして目につくのは西条の中でももっとも有名と思われる賀茂鶴。こちらには展示館もあるので、後で行ってみよう。
さらに進むと亀齢、福美人といった酒蔵が並ぶ。そのフェンス沿いに「山陽花の寺二十四寺」の幟が並ぶ。「山陽花の寺」は、宮島の大聖院に始まり、山口県、岡山県、広島県をめぐる札所で、福寿院はその第23番」である。他にも、広島新四国や中国観音霊場、中国四十九薬師で訪ねた札所も多く参加している。
そして福寿院の山門に出る。ちょうど2つの酒蔵に浜されたところに寺がある格好だ。こういう場所なら、お参りの後はそのまま一献、もしくは試飲・・という流れになり、クルマだと無理としてここ単独で鉄道で来た次第である。
門の両脇にはキャラクター化した地蔵像が出迎える。全体として小ぶりな敷地ながら、「花の寺」ということで花壇も設けられているし、奥には石庭が見える。
福寿院は古くは聖徳太子の道場であったと伝えられているが、その後廃寺となり、鎌倉、室町時代に復興と廃寺を繰り返した。今の形になったのは江戸時代の半ばだという。
また、西条の歴史を見ると、江戸時代は西国街道が東西に走る「四日市」という宿場町である。先ほど駅から賀茂鶴の本社まで来たが、本社建物の横にあるのは旧本陣である。西条の酒造りが本格的になったのは明治から大正にかけてのことで、これと合わせると、福寿院は以前はそれなりの規模を持っていたが、町造りの過程で(寺の経営も苦しかったのかな・・?とも勝手に推測してみる)土地を酒蔵に渡したとか、そういうことがあったのかもしれない。
現在の寺、本堂は江戸時代当初のものだが、石庭も含め、他のところは新しい感じである。
納経所は別棟にあり、セルフスタイルで広島新四国、山陽花の寺それぞれの書置き朱印をいただくことができる。広島新四国の朱印にも「蒔かぬ種は生えん」と書かれた袋に入った種がついている。ただ、生やせる自信、見込みのない種は蒔くことができないなあ・・。
山陽花の寺か・・・花の寺だと、寺がお勧めしている花の時季に行かないと意味がないような気がして、さすがに、今の時点では巡拝は考えていない。
これで目的である札所めぐりは終わり、ここからは酒蔵めぐりである。以前、国分寺を訪ねた時もそうだったが、賀茂泉、賀茂鶴と回ってみよう。
賀茂泉の前には「立春朝搾り」の張り紙が出ている。今年のラベルは「令和五年癸卯二月四日」だそうだ。旧正月の立春の早朝に搾った酒で、翌日の二月五日から出回るおめでたい酒だ。2月5日・・まさしく今日やないですか。全国の有志の酒蔵が参加して、それぞれの銘柄の「立春朝搾り」を出しているが、賀茂泉もその一つのようだ。
もっともこの「立春朝搾り」、近所の酒屋に行けば必ず買えるというものではないようだ。基本は酒蔵への事前注文で、その数に合わせて瓶に詰めるそうだ。入手するなら直接申し込むか、取り扱い可能な酒の卸業者に予約するか。あるいは料理店でいただくか。もっとも、業者にしても料理店にしても、酒蔵からの配送ではなく、みずから直接酒蔵に出向いて引き取るのだという。
ちょうどそうした時季に西条にいるのもめぐり合わせということかな。
賀茂泉のレトロな洋館・酒泉館に向かう。ここで販売、試飲を行っており、酒に関する書籍が並ぶ「お酒の図書館」もある。「立春朝搾り置いてますか?」と訪ねて来た客がいたが、「予約で売り切れなんですよ~」と店の方も申し訳なさそうに対応する。
ここでは単品のほか、呑み比べも可能。賀茂泉の純米吟醸5種(50ml×5杯)をいただく。「生酒」、「緑泉本仕込」、「朱泉本仕込」、「山吹色の酒」、「古酒」と、右から順に味が濃くなっていく。「古酒」まで来ると全く別の飲み物のように感じられる。日本酒といえば刺身をはじめとした和食に合うイメージだが、左に進むと洋食も出るし、「古酒」だとはっきり「中華料理との相性◎」とある。そういわれれば、紹興酒に近いかもしれない。
改めて、賀茂鶴に向かう。味については人それぞれ好みがあるのでどれが一番というのは言い難いが(お好み焼も同じ)、知名度、流通量でいえば広島で一番と思われる銘柄である。私も手土産や贈り物として広島の酒を買うことがあるが、賀茂鶴ならまず外れはないという認識である(もっとも、「賀茂鶴なんか定番すぎる・・」という方もいらっしゃるが、いただく立場でその言い草は失礼ではないかと思う)。
ちょうどこの日は酒蔵の見学が開かれていたようだ。事前に知っていれば申し込んで、それに合わせて動いていただろうが・・。なお、こちらに展示されていた額だが、右は賀茂鶴の創業85周年、創立40周年を祝した池田勇人(当時国務大臣)からの書状、そして左は、横綱・大鵬が何回目かの優勝祝賀で大盃を飲み干した時のものである。
一連の紹介コーナーをのぞく。ディスプレイでは社歌「世界に伸びゆく」が流れる。作曲・古関裕而、作詞・西條八十。歌・村田英雄とコロムビア・ローズ。音楽の教科書のようなラインナップだ。村田英雄は大の酒好き(そのため、後に病気で苦しむことになるのだが)とあって、老舗の酒造会社の社歌を歌うというのは実に光栄で、美味しい仕事だっただろう(ギャラとして賀茂鶴もしこたま飲んだのかな・・と想像する)。
展示館の中央には「賀茂鶴ゴールド」がずらりと並び、2016年の日米首脳会談の時に安倍首相、オバマ大統領(いずれも当時)が広島を訪ねた時に、「賀茂鶴ゴールド」で一献した時の写真も誇らしげに掲げられている。もっとも、安倍首相は下戸、オバマ大統領もそんなに飲む話は聞かなかったので、これはあくまでパフォーマンスのように見える。2人で180mlが1本でも余ったとか?
さて一方、広島県出身の首相といえば、加藤友三郎、池田勇人、宮澤喜一、そして岸田文雄のいずれも「酒豪」で知られている。2023年、広島でG7サミットが行われるが、G7首脳が揃って平和記念資料館を訪問し、宮島の厳島神社に参拝するプランがあるそうだ。そしておそらく、夕食の時には「賀茂鶴ゴールド(金箔入り)」が供されるのだろうな・・・。これは「検討」も何もなく、「即断即決」??
政策その他で評判の悪い岸田首相だが、まあ、せめて地元広島での観光案内、おもてなしくらいは自由にさせてあげましょうよ。一般人でも広島にいて、他のところから知人が広島に遊びに来たら、原爆ドーム、宮島を案内して、昼はお好み焼、そして夜は広島の酒と牡蠣くらいでもてなし、土産にもみじ饅頭でも勧めるでしょう・・(あくまで定番の話として)。
さて、こちらでの試飲は「賀茂鶴ゴールド」、「大吟醸 双鶴賀茂鶴」、「純米大吟醸 広島錦」の三種類。賀茂泉より器が小さいのはさておき、厳選ものである。
ここまで来ると、西条の酒蔵めぐりのついでで福寿院に参詣したようだが、酒蔵に挟まれた福寿院も酒を通して人々の心を豊かにしてくれる仏様と勝手に解釈して・・(さすがに飲みすぎは戒めているが)、西条を後にする。
このまま自宅に戻ればよいのだが、途中の瀬野で下車する。広島新四国とは関係ないが、あるスポットについて最近報じられているので、この機に見に行くことに・・・。