納沙布岬訪問後、荒涼としたオホーツク海沿いに走り、ようやく集落に出会ったかと思えばそこは根室港。千島列島での漁業の中心地であり、雪の積もる道路沿いにはかつてこの港が栄えていた時代の面影を残す建物もちらほら見える。
そんな港町を走り抜け、高台にあがってたどり着いたのが北方四島交流センター「ニ・ホ・ロ」。駐車場から入口まで少し歩くのだが、根室市街地に戻っても海からの強風に吹き飛ばされそうだ。最後は風に背を向けてバックしながらたどり着くという有様。それでも受付の女性は珍しがる様子もなく、ごく普通に「いらっしゃいませ」と受け入れてくれる。根室の人にとって、このくらいの風はごく当たり前のことなのだろうか。
さてこの「ニ・ホ・ロ」、建てられたのは近年のことであろう(十数年前に根室を訪ねたときはこのような施設などなかったはずなので)。何でもニ=日本、ロ=ロシアで、その間を取り持つのがホ=北海道という、日本とロシアの友好関係を考える拠点というのか、施設である。入館無料で、外務省発行の「われらの北方領土」のような資料をいただけるとともに、北方領土に関する展示も充実している。
そうした展示の見学と、冷えきった身体を暖めることもあり、じっくりと展示資料を見て回る。日本語・英語・ロシア語での展示であり、わかりもしないのにロシア語版のパンフレットを取ったり、3つのいずれかの言語を選んで視聴する映像コーナーで、わざとロシア語を選択して、キリル文字とか「なんとかスキー、なんとかかんとかスカヤノフ」とかいうナレーションの映像を眺めたりする。ロシア語の世界などというのには普段接することがないだけに、何だか新鮮なものに聞こえた。
北方領土に近い地、ましてやその資料館ともなれば「返せ北方領土」という主張に凝り固まった表現がなされると思いきや、この「ニ・ホ・ロ」は、「北方四島交流センター」という正式名称にもあるように、ロシアとの現実的な「交流」というものを前面に押し出している印象を受けた。結論としては「北方領土は日本固有の領土であるので、返還を求める」ということはあるものの、何はさておき「返せ!」と声高に叫ぶのではなく、両国の友好とか飛躍的な進展とか、まずは現実として両国の相互理解、交流というものを前面に押し出している。映像ライブラリーでは北方四島でのロシア人の生活ぶりや、日本とロシアの子どもたちの交流の様子などが流されている。近くて遠い隣国ロシアの姿を少しでも身近なものに感じてもらおうという姿勢が伝わってくる。
併設の「北方資料館」では日本の千島列島の探検・開発史や、北方領土をめぐる日露両国の交渉の歴史が紹介されている。ただ全体として、ロシアを仇敵とばかり見なすのではなく、まずは友好関係、経済・文化交流を柱として、しかる後に最終的に領土問題を解決する・・・とアピールする姿勢が強い。納沙布岬の先端で心の声を叫ぶ人がいる一方で、経済はジリノフスキーもといジリ貧で、支庁の吸収合併も取りざたされている根室にあっては、ロシアと接する港を抱えるのであれば、彼の国と交流しなければ生活が立ち行かないという現実もあるのは確かだ。東京の外務省の机上論理よりも、もっと地に足をつけたことを考えているのかな。本当の根室の人たちの声というのは、果たしてどちらなのだろうか。
ちょうどこの記事を書いている日は、ロシアの大統領選挙の結果、メドベージェフ氏が7割以上の得票で次期大統領に当選、その一方でプーチン大統領が首相に転じて「院政」を敷くという局面であった。小泉内閣発足、鈴木宗男議員の失脚以来停滞しきっている日露関係だが、大統領選挙以後のロシアに対して日本はどのように向き合っていくのか。「アメリカ大統領選挙の民主党候補のオバマ氏」にあやかって福井の小浜が盛り上がるのは勝手だが、日本をスルーして中国との関係を強化しようとするアメリカ民主党の動向よりも、資源外交、東アジアの安定に向けて対ロシア外交というのをもっと重要させる必要があるだろう。その時に北方領土問題を現実としてどのように解決していくのか。
なかなか充実した展示を眺めた後、レンタカーの返却までまだまだ時間があるので、もう少し走らせることにする。風は依然として強いが空は晴れてきたし、雪道の運転も少しずつ慣れてきた・・・・。