この前の記事では、「四日市への道」とでも言うべきか、内部・八王子線に乗車したというところまで至らなかった。その旅行記の続き。
近鉄名古屋線の高架下にある内部・八王子線のホームに現れる。762mmという、メタボのウエストよりも短い幅の線路。四日市からはそれぞれの終着駅である内部と西日野行が交互に発車する。途中の日永までは1時間あたり4本の便があるということで、まずまずの利便性ではないかと思う。
私がホームに来た時にはちょうど西日野行が出発するところ。3両の列車に乗り込む。1両目と3両目はそれぞれ運転台の方を向いて、両側に1人がけの座席が並ぶ。そして真ん中の2両目はロングシート。そのロングシートも当然向かい側との幅は狭く、混雑する時はそれこそ膝を突き合わせて乗り合わせる格好になる。
四日市を発車してガタゴトと走る。それものんびりしたスピードで、それこそ並走するクルマに軽くかわされるくらいである。
日永はかつて伊勢街道と東海道が分かれる「間宿」とされるところで、ホームも直進の内部方面と、右にカーブする西日野行に分かれる。全列車がここで行き違いをするダイヤ設定となっており、小ぶりながらも特徴的なホームである。鉄道模型で分岐のある小型駅をこしらえると概ねこういう造りになるのではないかという感じである。
私の乗った列車は右にカーブを描いたホームに到着し、ここから1駅進む。途中は田園地帯の中に一戸建てやマンションも並ぶ典型的な校外の景色で、それが尽きたところ、中途半端に停まった感じのところが終点の西日野である。
日曜日の午後であったが地元の中高生、お年寄りなどが結構下車した。形ばかりの駅舎を出るとそこは自転車置場で、ほとんどの客がバイバイと言いながらそこで自転車に乗り換えて帰宅する。並走する道路の交通量も多いのだが、八王子線はそれはそれなりにニーズがあるように思えた。
ここから折り返しの列車に乗り、日永で今度は行き違いの内部行に乗り換える。2つの盲腸線を分岐する中で、なかなか合理的な運用である。今度はカメラも持参した人たちの姿も見える。夫婦だろうか、仲のいい感じで前後に腰かける姿も見かける。こういうのを見ると羨ましいなと思ったりもする。
一応冷房はあるのだが出力が不十分なのか、それぞれの車両の窓も全開にされている。こういう体験も列車ではなかなかできるものではない。ただ、油断して窓から顔や手を出そうものなら、すぐ間近にある架線柱に衝突してしまうだろう。それがナローゲージらしいところ。
内部に到着。こちらも中途半端な感じのところに設けられた終着駅である。小ぶりな車庫や入れ換え線もあり、ここも鉄道模型のレイアウトに出てきそうな造り。こちらには駅員が駐在していて客の対応に当たっている。
折り返しまでの間に外に出てみる。並走する道路は交通量も多く、ナローゲージの存在など知らないかのようである。だから廃線という声も出ているのだろうが、駅前の民家には早速存続を訴える貼り紙がしており、これからどうなるのか予断を許さないところである。
結局暑いこともあり、こちらも折り返しの列車に乗車し、そのまま四日市に戻る。それぞれ距離が短いこともあって、両方乗っても1時間あまりで四日市まで戻ってこられる。四日市を訪れることがあれば、少しの時間ではあるが、同じ鉄道でもなかなか体験することのできない風情の寄り道を楽しめることができるだろう。
バス専用路線への転換が噂されている両線であるが、例えば富山とか高岡のようなところの事例を見てみても、かつての大型電車が走っていたところをLRTに転換して、小回りの利く路線に仕立て上げたとか、廃止寸前の路面電車をLRTで甦らせたという話の一方で、これを廃止するのはいかがなものかと思う。
車両の維持費用がかかるのであれば、それこそ現在のLRT車両のような、省エネ型でもある車両を導入するのも一つの手ではないだろうか。バス専用道路だと、例えば道路と交差するところでは、これまでならば踏切があってクルマのほうが待つ形であったが、バス専用道路だと、待つのはバスのほうになる。これではかえって所要時間がかかることになり、公共交通の利便性を低下させることになるのではないだろうか。
せっかく鉄道の路盤が揃っているところなのだから、現在のインフラを最大限利用する形で、もし近鉄が手放したいのであればそこで初めて四日市の市営ということで活用するとか、何か考えてほしいものである・・・・。
さて今回の旅行の後には、近鉄四日市にほど近い四日市市の博物館を訪問。常設展示は無料ということで、北勢地区の古代からの歴史や、「四日市」という宿場と交易の拠点の発展、そして現在の工業都市としての四日市というのを、さまざまな史料や模型で紹介してくれる。このところの四日市は「工場萌え」の人たちをターゲットにした観光PRを行っているが、かつての街道のジャンクションとしての町の役割をこういう形で紹介しているのは喜ばしいところである。
最後は、四日市で造られる甲類焼酎の「キンミヤ焼酎」である。近鉄駅前の某店に入る。以前来たことがあって気に入ったところである。「キンミヤ」といえば、東京の呑兵衛ではブランドである。ホッピーのセットで出てくる焼酎の中でもベストとされているのがこの「キンミヤ」。これが出る居酒屋は「できる」店らしい。
そのキンミヤとホッピー、そして、もつ焼きをいただく。四日市といえばB級グルメの「とんてき」が有名であるが、こういうところで東京下町の味覚を味わえるのもポイントの高い店である。もっとも、同じ時間に店にいた人の飲み物を見渡すに、ホッピーを頼んでいたのは私くらいのもので、後は普通にソーダ割りとか水割りで注文していた。うーん、四日市にはホッピー文化はまだまだ浸透していないのかな。せっかく、「新橋のガード下に生息するサラリーマン」の中では「安くてうまい飲み方」のホッピー割に最高の焼酎を出しているというのに・・・・。
この日は近鉄四日市から夕方の名阪特急で帰宅。今度はどうだろう、四日市の港にある工場群の夜景を見に行く地元ツアーにでも申し込もうか。工業都市である四日市を理解するのはそういうのもありかと思う。名阪間の都市として、これからの発展を期待したいところである・・・・。