朝の合唱練習時に、ピアノのすぐ隣で歌っていたルーベンが、パート別練習になるとジリジリと近づいてきて、なにやら真剣にわたしを観察し始めた。
ピアノ抜きの言葉の練習に入った時、彼がわたしの肩をチョンチョンと突っつくので、「なに?」と聞くと、いきなりでっかい手をわたしの顔の前に突き出してきた。
「比べっこしよ」
「おっしゃ!」
彼の手とわたしの手が合わさった途端、
「ちっちゃ!」
「でかっ!」
わたしの手はルーベンの手の丁度半分?!彼の指の付け根を少し超えたあたりに、わたしの指先が力つきたようにくっついていた。
「こんなちっちゃい手で、まうみは今まで弾いてたんか……」と、彼は感無量な顔で、鍵盤の上に戻ったわたしの手をしげしげと見下ろし、
「こんなでっかかったら、そらどんな和音もオクターブも楽ちん、軽々と弾けるんやろなあ」と、わたしは恨めし気に彼の手を見上げた。
ヴァイオリンもチェロもギターも、弦楽器には演奏者の体格に応じたサイズがあるのに、ピアノはもう情け容赦なくあのデカい図体のみ。
欧米の男性に合わされて作られた、としか言い様の無い楽器を、四苦八苦しながら弾いているわたし達のような者がいったいどれだけいるのか……。
しかもわたしに限っては、ピアノの前にお琴に情熱を燃やしていたので、指の関節にピアノとは真逆の圧力をかけていて、急に反対にしなさいって言われてもどうにもならなくて、「あんた、タコやないねんから……」と先生に深~いため息山ほどつかれて、「辞めた方がいいよ」とかも言われて、
ハノンの一音一音を4秒ずつかけて弾きながら、自分の指のけったいな動きをスローモーションで直しながら流した涙と汗の粒は数えきれず……。
ほんま、えらいなあわたし!!健気やなあわたし!!
ということで、初めての、手の記念写真を撮った次第。