月曜日。
派遣された会社の会議室の前で待っていたら、いきなり部屋から出てきた上司らしき人に、「君、このプログラム言語を知ってるか?」と聞かれた。
その言語は知らなかったので「知りません」と答えると、「じゃあ、これを学んで、我が社のためのデータ整理のプログラムを金曜日までにできるか?」と聞かれ、「やってみます」と答えた。
火曜日。
必死でテキストブックを読み、新しい言語を頭に叩き込みながら、同時進行でプログラムに着手した。
けれども事態はやはり甘くは無かった。お手上げだと諦めかけていた時、シニアプログラマーでTに直接関わる男性が、偶然予定を変更して旅行から戻り、いろいろと手伝ってくれたり、とても参考になるアイディアを与えてくれた。
水曜日。
なんとかなりそうだと思ったのも束の間、やはりにっちもさっちもいかず、ごちゃごちゃの迷路の中へ。
誰も居ない会社に残り、10時頃まで残業をした。
木曜日。
これが猶予最後の日。完成するまで家には戻らない、と宣言して出かけて行ったT。
月曜からずっと寝不足が続いていて、ストレスも最高潮。
宿題を終えることができなくても、それに費やした努力と時間は決して無駄になることはないのだから。
そんな慰めなど一言も入らないほどに、彼の気持ちは悔しさと不甲斐なさでガチガチに固まっている。
もしかしたら会社に泊まるかもしれない、と言ったTに、そんなことをしてもなにもならない。とにかく家に戻りなさいと言ったものの、
あんまり遅い時間帯に、会社のあるアヴェニューを独りで歩いて欲しくもなく、心配でたまらなくなって電話をかけるとまだ会社だった。
時間は11時。声には疲れと失望がにじみ出ている。食事をする暇もなかったからと、食べてもいない。
「とにかくもう帰ってきなさい」と言うと、「そうするわ」と観念したT。
「わたしは明日早起きして演奏会に行かなあかんからもう寝るけど……やるだけのことやったやん。よう頑張ったな」
それぐらいのことしか言えない、コンピューターの世界にはてんで弱い母を許せ!
ベッドに入ったものの、さっぱり眠れない。小さな子供達だけに演奏するのも初めてのことだけに、うまくいくのかも心配だったし。
けれども一番の心配はやっぱりT。布団の中で深呼吸をくり返したり、軽いストレッチをしながら眠ろうと頑張ったけどだめ!
12時過ぎにもう一度Tに電話をかけると、とりあえずペンステーションの構内に居ることがわかって少し安心した。
電車に乗り遅れて、最終の12時40分に乗ると言う。
突然「あ、ちょ、ちょっと、もしかしたらできたかもしれん!いや、できた!多分!」といきなり嬉しそうな声のT。
まだあきらめてなかったんか……でも、それがほんとやったらすごい!ここまで粘った甲斐もあるってもんや!
電話を切って、いいことだけを考えて、嬉しそうなTの声を思い出しながら、とにかく眠ろうと思った。
けれどもやっぱり無理だった。
Tが玄関ドアを開ける音を聞いて、ああ良かったと思ってすぐに、わたしはやっと少し眠った。
そして迎えた金曜日。
疲れ切った目をしたTが、それでもいつもの時間に起きてきた。
「やっぱりアレ、あかんかったわ」
クビを覚悟で行かなければならないのだけど、この四日間に学んだこと、果敢にトライし続けたことはきっと後々に宝になる。
旦那がTに、昼間と夕方に電話をかけていた。
別に特別なにも口には出さないけれど、彼もやっぱり心配している。
「Tはかなり疲れた、落ち込んだ声だった」、と聞いて、まあそれもしょうがないだろうと思った。
夜の8時に戻ったTに、「どうなった?」と声を揃えて尋ねるわたし達。
「あと一週間、首がつながった」
やったぁ~!!
大学に例えると、いきなり新しい科目を四日間で勉強し、その知識を応用させながら卒業プロジェクトを完成させるというような、常識では考えられない事を同時にこなす異常事態の中に身を置いて、ミスの無い完璧な成果を要求されるようなもの。
それを聞いてやっと、どれだけキツい四日間だったのかがぼんやりわかった。
手当てもなにもつかない残業だったけれど、きっとこの四日間のことは、Tの社会人としての初めての試練として、深く胸に刻み込まれるだろう。
会社は彼に、高額な新しいソフトを買い与えてくれたのだそうだ。
こいつ、なんかおもしろいな。
そう思ってくれたのかもしれない。ただ単に、もうちょっと使って様子を見てみよう、それだけのことかもしれない。
どちらにしてもT、わたしはあんたの頑張りを誇らしく思う。あきらめないしぶとさを頼もしく思う。
来週一週間、やれるだけやって、結果がどちらに転ぶにせよ、そんなことが気にならなくなるぐらいに弾けてみ!応援するぞ!
昨日まで渡されたビジター用の証明カード。月曜からは会社員専用のカードをもらえるとのこと。一歩一歩、やな!
派遣された会社の会議室の前で待っていたら、いきなり部屋から出てきた上司らしき人に、「君、このプログラム言語を知ってるか?」と聞かれた。
その言語は知らなかったので「知りません」と答えると、「じゃあ、これを学んで、我が社のためのデータ整理のプログラムを金曜日までにできるか?」と聞かれ、「やってみます」と答えた。
火曜日。
必死でテキストブックを読み、新しい言語を頭に叩き込みながら、同時進行でプログラムに着手した。
けれども事態はやはり甘くは無かった。お手上げだと諦めかけていた時、シニアプログラマーでTに直接関わる男性が、偶然予定を変更して旅行から戻り、いろいろと手伝ってくれたり、とても参考になるアイディアを与えてくれた。
水曜日。
なんとかなりそうだと思ったのも束の間、やはりにっちもさっちもいかず、ごちゃごちゃの迷路の中へ。
誰も居ない会社に残り、10時頃まで残業をした。
木曜日。
これが猶予最後の日。完成するまで家には戻らない、と宣言して出かけて行ったT。
月曜からずっと寝不足が続いていて、ストレスも最高潮。
宿題を終えることができなくても、それに費やした努力と時間は決して無駄になることはないのだから。
そんな慰めなど一言も入らないほどに、彼の気持ちは悔しさと不甲斐なさでガチガチに固まっている。
もしかしたら会社に泊まるかもしれない、と言ったTに、そんなことをしてもなにもならない。とにかく家に戻りなさいと言ったものの、
あんまり遅い時間帯に、会社のあるアヴェニューを独りで歩いて欲しくもなく、心配でたまらなくなって電話をかけるとまだ会社だった。
時間は11時。声には疲れと失望がにじみ出ている。食事をする暇もなかったからと、食べてもいない。
「とにかくもう帰ってきなさい」と言うと、「そうするわ」と観念したT。
「わたしは明日早起きして演奏会に行かなあかんからもう寝るけど……やるだけのことやったやん。よう頑張ったな」
それぐらいのことしか言えない、コンピューターの世界にはてんで弱い母を許せ!
ベッドに入ったものの、さっぱり眠れない。小さな子供達だけに演奏するのも初めてのことだけに、うまくいくのかも心配だったし。
けれども一番の心配はやっぱりT。布団の中で深呼吸をくり返したり、軽いストレッチをしながら眠ろうと頑張ったけどだめ!
12時過ぎにもう一度Tに電話をかけると、とりあえずペンステーションの構内に居ることがわかって少し安心した。
電車に乗り遅れて、最終の12時40分に乗ると言う。
突然「あ、ちょ、ちょっと、もしかしたらできたかもしれん!いや、できた!多分!」といきなり嬉しそうな声のT。
まだあきらめてなかったんか……でも、それがほんとやったらすごい!ここまで粘った甲斐もあるってもんや!
電話を切って、いいことだけを考えて、嬉しそうなTの声を思い出しながら、とにかく眠ろうと思った。
けれどもやっぱり無理だった。
Tが玄関ドアを開ける音を聞いて、ああ良かったと思ってすぐに、わたしはやっと少し眠った。
そして迎えた金曜日。
疲れ切った目をしたTが、それでもいつもの時間に起きてきた。
「やっぱりアレ、あかんかったわ」
クビを覚悟で行かなければならないのだけど、この四日間に学んだこと、果敢にトライし続けたことはきっと後々に宝になる。
旦那がTに、昼間と夕方に電話をかけていた。
別に特別なにも口には出さないけれど、彼もやっぱり心配している。
「Tはかなり疲れた、落ち込んだ声だった」、と聞いて、まあそれもしょうがないだろうと思った。
夜の8時に戻ったTに、「どうなった?」と声を揃えて尋ねるわたし達。
「あと一週間、首がつながった」
やったぁ~!!
大学に例えると、いきなり新しい科目を四日間で勉強し、その知識を応用させながら卒業プロジェクトを完成させるというような、常識では考えられない事を同時にこなす異常事態の中に身を置いて、ミスの無い完璧な成果を要求されるようなもの。
それを聞いてやっと、どれだけキツい四日間だったのかがぼんやりわかった。
手当てもなにもつかない残業だったけれど、きっとこの四日間のことは、Tの社会人としての初めての試練として、深く胸に刻み込まれるだろう。
会社は彼に、高額な新しいソフトを買い与えてくれたのだそうだ。
こいつ、なんかおもしろいな。
そう思ってくれたのかもしれない。ただ単に、もうちょっと使って様子を見てみよう、それだけのことかもしれない。
どちらにしてもT、わたしはあんたの頑張りを誇らしく思う。あきらめないしぶとさを頼もしく思う。
来週一週間、やれるだけやって、結果がどちらに転ぶにせよ、そんなことが気にならなくなるぐらいに弾けてみ!応援するぞ!
昨日まで渡されたビジター用の証明カード。月曜からは会社員専用のカードをもらえるとのこと。一歩一歩、やな!