落語のお話です。
殿様がひと箸つけて、
「これ、鯛の代わりを持てい」と言って、鯛の表を一口だけ食べて、お代わりを持ってこさせようとするのですが、なにしろ高価なものなので家来が一工夫。
「殿様、外の桜がきれいですね」と言って、殿様が外の桜を見る隙にさっと鯛を裏返します。
で、「代わりをお持ちしました」ととぼけるわけ。
これならば表の殿様が鯛を食べた跡はわからず、お代わりを差し出されたのかなと思うでしょうから。
ところがお殿様一枚も二枚も上手。家来の細工なぞ何のその。また一口を食べ、
「代わりを持てい」
で、家来がほとほと困ってまごまごしていると、
「どうじゃ? また庭の桜を見ようか?」
という、粋で可笑しい、殿様と鯛のお話。
昨日はうちの三人の殿様のひとり、Tの、正社員第一日目であった。
どうしても尾頭付きの鯛でお祝いをしたかった。
鯛といっても、こちらで買えるのは、鯛の一種の『レッド・スナッパー』という魚。まあ、味は限りなく鯛だし、我が家ではとても評判がいい。
買い物に行く途中で、Tの携帯にメッセージを残した。
「正社員第一日目おめでとう。今夜はあんたの好きなものと鯛でお祝いしたいと思てます。楽しみに帰っておいで」
家に戻り、急いでお米を研ぎ、魚の皮に粗塩を擦り付け、オーブンの最下段にあるブロイル(直火焼きのためのオーブン)をきれいに掃除した。
胡麻和えやらなにやら、あれこれ用意しながら、さて、あと十分ほどで出来上がりだという頃に、Tから電話がかかってきた。
「おかあさん、今どうなってる?」
「どうなってるって?」
「魚」
「焼いてるけど……あんた、今どこにいんの?」
「え、あ、えっと、まだ会社」
「え?まだ会社なん?」
「うん。ついさっきメッセージ聞いたとこ」
「そっか……」
「魚焼いてしもたんやったら帰ろかな。けど、今から帰っても9時頃になってしまうし……」
「残業?」
「うん。今日は朝からオリエンテーションあったから」
「しゃあないやん、それやったら」
「うん」
「まあ、今のあんたには仕事が最優先やから」
「うん」
「悪いけど、あんた抜きで、みなで先にお祝いしとくわ」
「うん」
「頑張らなあかんやろけど、最初っから頑張り過ぎたらあかんで。続かへんから」
「うん。鯛、明日食べるわ」
「わかった。あんたの分残しといたるし」
ということで、残念ながら、当の本人抜きのお祝いになってしまった。
「いや、これ、うまいやん!」
と、焼きたて熱々の身を、ふうふうしながらパクつく殿様その1とその3。
「なんでお頭付きがめでたいん?」と、またまた疑問がムクムクと沸き上がる旦那。
「知らん。昔っからそういうことになってた」と、完全無視して食べ続けるK。
「あ、あかんで!裏っかわの身に箸つけたら!そんなんしたら、ひっくり返した時にばばちい!」と、必死で諌める旦那。
ふふん、ようわかってるやん。さすが、10年日本で居ただけあるやん。
昨日の魚はとても大きかったので、半身を3人で充分だった。
あ~うまかったと、きれいに平らげた後、3人のお箸を駆使して、エイやっとばかりに身を裏返した。
おぉ~!!まるで焼きたてそのもの。新しい鯛のお目見えだ。
今夜は殿様その2、Tのお祝い。
P.S.
どうして尾頭付きの鯛がめでたいとされているか。
旦那の疑問に答えるべく、ちょいと調べてまいりました。
『鯛のピンと張った頭から尾をつけている状態は、何事も最初から最後まで完全な状態。つまり、全て揃っている、という縁起を担いでいる』
と書かれてありました。
ふ~ん……と、納得したような納得してないような……。
殿様がひと箸つけて、
「これ、鯛の代わりを持てい」と言って、鯛の表を一口だけ食べて、お代わりを持ってこさせようとするのですが、なにしろ高価なものなので家来が一工夫。
「殿様、外の桜がきれいですね」と言って、殿様が外の桜を見る隙にさっと鯛を裏返します。
で、「代わりをお持ちしました」ととぼけるわけ。
これならば表の殿様が鯛を食べた跡はわからず、お代わりを差し出されたのかなと思うでしょうから。
ところがお殿様一枚も二枚も上手。家来の細工なぞ何のその。また一口を食べ、
「代わりを持てい」
で、家来がほとほと困ってまごまごしていると、
「どうじゃ? また庭の桜を見ようか?」
という、粋で可笑しい、殿様と鯛のお話。
昨日はうちの三人の殿様のひとり、Tの、正社員第一日目であった。
どうしても尾頭付きの鯛でお祝いをしたかった。
鯛といっても、こちらで買えるのは、鯛の一種の『レッド・スナッパー』という魚。まあ、味は限りなく鯛だし、我が家ではとても評判がいい。
買い物に行く途中で、Tの携帯にメッセージを残した。
「正社員第一日目おめでとう。今夜はあんたの好きなものと鯛でお祝いしたいと思てます。楽しみに帰っておいで」
家に戻り、急いでお米を研ぎ、魚の皮に粗塩を擦り付け、オーブンの最下段にあるブロイル(直火焼きのためのオーブン)をきれいに掃除した。
胡麻和えやらなにやら、あれこれ用意しながら、さて、あと十分ほどで出来上がりだという頃に、Tから電話がかかってきた。
「おかあさん、今どうなってる?」
「どうなってるって?」
「魚」
「焼いてるけど……あんた、今どこにいんの?」
「え、あ、えっと、まだ会社」
「え?まだ会社なん?」
「うん。ついさっきメッセージ聞いたとこ」
「そっか……」
「魚焼いてしもたんやったら帰ろかな。けど、今から帰っても9時頃になってしまうし……」
「残業?」
「うん。今日は朝からオリエンテーションあったから」
「しゃあないやん、それやったら」
「うん」
「まあ、今のあんたには仕事が最優先やから」
「うん」
「悪いけど、あんた抜きで、みなで先にお祝いしとくわ」
「うん」
「頑張らなあかんやろけど、最初っから頑張り過ぎたらあかんで。続かへんから」
「うん。鯛、明日食べるわ」
「わかった。あんたの分残しといたるし」
ということで、残念ながら、当の本人抜きのお祝いになってしまった。
「いや、これ、うまいやん!」
と、焼きたて熱々の身を、ふうふうしながらパクつく殿様その1とその3。
「なんでお頭付きがめでたいん?」と、またまた疑問がムクムクと沸き上がる旦那。
「知らん。昔っからそういうことになってた」と、完全無視して食べ続けるK。
「あ、あかんで!裏っかわの身に箸つけたら!そんなんしたら、ひっくり返した時にばばちい!」と、必死で諌める旦那。
ふふん、ようわかってるやん。さすが、10年日本で居ただけあるやん。
昨日の魚はとても大きかったので、半身を3人で充分だった。
あ~うまかったと、きれいに平らげた後、3人のお箸を駆使して、エイやっとばかりに身を裏返した。
おぉ~!!まるで焼きたてそのもの。新しい鯛のお目見えだ。
今夜は殿様その2、Tのお祝い。
P.S.
どうして尾頭付きの鯛がめでたいとされているか。
旦那の疑問に答えるべく、ちょいと調べてまいりました。
『鯛のピンと張った頭から尾をつけている状態は、何事も最初から最後まで完全な状態。つまり、全て揃っている、という縁起を担いでいる』
と書かれてありました。
ふ~ん……と、納得したような納得してないような……。