ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

ボーコーエンとスカルラッティ

2010年08月18日 | 音楽とわたし
やっぱり調子がいまいち。というより、少しずつ悪化している。
今日はせっかくの仕事無しの日だったのに、どこかに出かける勇気が出ず、思い切ってファミリードクターに予約を入れることにした。
まずはきちんと治して、元気になって、師匠と一緒にいろんな所に出かけたい!

予約は一番早くても2時、ということだったので、今日はとにかくゆっくりのんびり、近くのタイ料理店に行ってランチを食べ、それから病院、そして1年前まで住んでいたモントクレアの町をぐるりとドライブ。ということにした。
アメリカの旅第一日目が病院の付き添い……すんません……師匠……。

病院で血尿の他にまだ少しありそうなので、精密検査を受けるかどうかをまた数日後に連絡する、と言われてちょいとショック。
今日はとりあえず抗生物質と痛み止めをもらい、恐々飲み出した。



もしかしたら、こちらに来て初めての病院からの薬かも……。
こちらの映画を観ていると、鏡のついた棚を開けるとこういうのが中の棚にぎっしり……みたいな洗面所シーンがよくある。

痛み止めの薬の影響でおしっこと涙がオレンジ色になるからびっくりしないでね、と医者から言われた。
そんなことではなかなかびっくりしないよ~わたしは、なんて心の中で思いながら聞いていたけれど、なんのなんの、昔飲んだ粉を溶かして作る、非常に毒々しいオレンジ色したジュース以上に毒々しい色でたまげてしまった。
旦那に見てもらいたくてトイレに呼んだけど、来てくれなかった……つまんない。
写真に撮ろうかとも思ったけれど、そんなもんを見たい人はいないだろうからあきらめた。

わたしが自分のことでオロオロしていると、美しいモーツァルトのソナタが聞こえてきた。
いつも弾いているピアノとは思えないきれいな音にうっとり。

師匠は、どんな条件の、どんな状態のピアノでも、きれいな音で演奏してしまえる才能がある。
中国に招かれて演奏した時の、とんでもない話を聞かせてくれた。

どちらも芸術学校や音楽専門の施設だったのだけど、リハーサルは無し、本番のみの演奏で、いざ舞台の上のピアノの前に座ろうとすると、まず椅子が無い?!そこで、舞台下からパイプ椅子が運ばれてきて、それはもう自分の好みの高さに調整するなんてことは全くできなくて、それでもまあいいやと演奏前のペダルの点検をすると、ペダル全体がピアノから外れて床に乗っかってた……みたいなことがあったのだそうだ。
鍵盤が一個、まるまる無いピアノもあった。
それはもう鍵盤のプラスティックの部分が欠けたり外れたりして、もともとの木の部分が出ている、というような甘っちょろいことではなくて、そこに四角い穴が堂々と空いているというピアノ。そこにうっかり指を突っ込むと落とし穴にはまってしまったような感覚になるんだろう。そんなのを弾いたことがないので想像だけど、あまりにも恐ろしい現実が存在する中国。やっぱりただ者ではない。

まあ、そんなのに比べたらもう、素晴らしいピアノなんだけど、それでもあのピアノであんなに美しい音を出された日にゃ~……わたしもピアノのせいなんかにしてないでもっともっと頑張ろ!と、メラメラと熱くなったり反省したり。

夕飯をトンカツに決め、台所であれこれ動いていると、今度はスカルラッティのソナタの8番(K87)が聞こえてきた。
あ~これこれ!わたしの好きなやつ!
それからいろんなスカルラッティが流れてきて、贅沢なBGMを聞きながら心地良く料理をし、ごちそうさまの後にスカルラッティの話をしたら、特別にまた弾いてくれて、うっとりしながら音符を追いかけていると、
「はい、この続きはまうみちゃんの番」と、いきなり席を立つ師匠。
げげっ!それはあきまへんて師匠!弾けまへんて師匠
頭の中ではお断りの言葉が思いっきりグルグル回っているのに、身体はスッと椅子に座ってしまう哀しい弟子のサガ……
あっちゃこっちゃでコケながらもおばはん根性で弾き続けていると、鉛筆で注意書きが入ってきた。
あ~懐かしい~この感じ!何年ぶりやね~ん!

でも……初見力、だいぶ衰えているような気がする……。
お腹いっぱいで頭が空っぽだっせ~。なんて言い訳できるわけもなく、内緒で落ち込んでいると、「ね、連弾しよ!」と再びやる気満々な師匠。
いきなりドビュッシーやフォーレの連弾を初見でやってると、いつの間にか旦那が聞きに降りてきていた。
ピアノが1台しか弾けないのがとても残念!師匠が居てくれる間に戻ってこないかな~鍵盤……。

「明日はね、まうみちゃんはひとりで休養、僕はひとりで冒険。そうしよう!」

ということで、わたしは明日、薬を飲み飲みゆっくりすることにした。
師匠は初めてのアメリカで、ひとり電車に乗り、地下鉄に乗り、メトロポリタン劇場に行き、セントラルパークを横切ってメトロポリタン美術館を回ってくる。

無事に戻ってきてね~!

コメント (8)
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