人民新聞オンラインに掲載された、小出 裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)インタビューの全文です。
↓以下、転載はじめ
人間の手に負えない事故であることを再認識すべき
~溶け落ちた核燃料取り出しは不可能でしょう~
編集部:
汚染水の漏洩の実態と影響からお願いします。
小出:
福島第1原発の1~3号機では、溶け落ちた炉心がこれ以上溶けないようにするために、ひたすら水を入れるという作業を、2年間続けています。
ただし、溶けた炉心は、鋼鉄製の圧力容器の底を抜け、格納容器の中に落ちています。
格納容器にも穴が開き、入れた水が漏れ出て、原子炉建屋・タービン建屋の地下は、汚染水で水浸しになっています。
こんな状態が2年続き、冷却水が溜まり続けています。
東京電力は、溢れてくる水を浄化して、冷却水として再使用する計画を立てましたが、
コンクリート構造物(原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ、ピットなど)にも割れがあり、地下水が流れ込み、1日に400~500㌧も、汚染水が増えている状態です。
東京電力は、敷地内にタンクを作り、これを保管してきたのですが、追いつかなくなって、池を掘り、遮水シートを敷いて、汚染水を入れたのですが、それもまた漏れてしまいました。
やることが本当にお粗末だと思いますが、事故現場があまりにも酷い汚染状態だ、ということです。
放射能さえなければ、ゆっくり確実に工事もできるのですが、全てが、猛烈な被曝環境でやらなければいけないのです。
私は放射線業務従事者ですが、その私すらが行きたくないと思うほど、猛烈な汚染地帯なのです。
そういう状況で、汚染水は溢れ、現在も海に向かって流れているでしょうし、
今後は、意図的に、海に流すという日が遠からずくる、と私は思います。
私は、汚染水が地下水を汚染しないよう、周囲に防壁を張りめぐらすべきだ、と今も思っています。
■新たな浄化装置=「アルプス」
編集部:
浄化された汚染水は、どれぐらいの放射能レベルですか?
小出:
今浄化しているのは、セシウムだけです。
他の放射性核種については、何の浄化もしていないのです。
例えば、ストロンチウムは、29万Bq/ccほどの汚染度で、法定濃度基準の何百万倍。
近づくのも嫌だな、というレベルです。
漏れ出たといわれる12トン
は、35兆Bqで、広島原爆による放射能=89兆Bqの3分の1に相当します。
そこで、東京電力は、他の放射性核種も除去できる、「アルプス」という浄化装置を稼働させる、と言っています。
どこまで浄化できるかは、私にはよく分かりません。
原子炉施設から環境に放出してもいい濃度が、それぞれの放射性物質について定められていますが、
そのレベルまで浄化するのは、無理だと思います
でも、仮にうまくいって、セシウム、ストロンチウムなどの放射性核種も、法定濃度を下回る程度に浄化できたとしても、トリチウムは不可能です。
トリチウムは水素の同位体なので、水そのものになってしまっているからです。
浄化装置は、水の中に含まれている放射性物質を取り除いて、水をきれいにするものなので、
水そのもになったトリチウムは取れず、法定濃度限度の何万倍、あるいは何十万倍もの汚染水を、そのまま海へ流す日が来るでしょう。
■想像を超えた汚染環境での復旧作業
編集部:
被曝労働についてお聞きします。
原発建屋周辺の作業環境は、一体どういう状態なのでしょうか?
小出:
私は、京都大学原子炉実験所で働いていますが、放射性物質を取り扱う時には、放射線管理区域でやらなければなりません。
1時間あたり、0.6μSvを越えるような場所は、放射線管理区域に指定するのが、日本の法律です。
私のような放射線業務従事者が、管理区域内で仕事をするのですが、
被曝を避けるため、20μSv/hを超える場所は、「高線量区域」に指定して規制します。
例えば、1カ月ほど前、ネズミが配電板の配線をショートさせ、停電が起こりました。
冷却が一時停止して、大問題となりました。
皆さん、「何でそんな馬鹿なことを許したのか」と、散々文句を言ったわけだし、私もお粗末だなと思いました。
けれども、その配電板がある場所とは、300μSv/hという放射線が飛び交っている場所なんです。
東電は、事故収束のために、冷却水循環のためのラインを作り、ポンプを据え付けて、電源供給のための配電盤も作ったのですが、
その配電盤をトラックに乗せて、建屋に横付けして「置いてきた」、という状況です。
現場で、ゆっくり配電盤を組み立てる時間など、ない場所なのです。
ですから、配電盤をしっかり管理して、トラブルがないようにすること自体が、とても難しい現場なのです。
300μSv/hというのは、猛烈な汚染環境ですが、他の場所はもっと凄くて、
東電としては、「ここならば、まだ我慢できる」として、そこに置いたのでしょう。
発電所の敷地の中には、到底、人間が行けない場所も山ほどあって、原子炉建屋内部は、人が入ることすらできません。
ロボットを送り込んでも帰ってこれず、次々と駄目になると。
そういう場所なんです。
皆さんは、「大事故だから、もっとしっかり事故に対処しろ」と思われるでしょうけれども、
そんなことが言えないほどに、無茶苦茶ひどい場所だ、ということを、まずわかっていただきたい。
■4号機爆発の原因は、3号機からの水素流入
編集部:
4号機の使用済燃料プールが、今も大きな危機として存在しています。
現状を説明してください。
小出:
4号機の原子炉は、定期点検中でした。
炉心にあった、548体の燃料集合体は、半分位しか燃えてないと思いますが、残りの約600体は、完全に使用済核燃料です。
すべて、燃料プールに移されていました。
使用済核燃料とは、猛烈な放射能の固まりです。
一番危険なのが、セシウム137です。
概算すると、広島原爆、約1万4千発分になりました。
運転もしていなかった4号機で、なぜ爆発が起きたのか?
私は、水素爆発だと思います。
東電が言ってるように、3号機で発生した水素が、共通のダクトの中を通って4号機へ流れ、爆発が起こったと思います。
1号機や3号機は、格納容器が破壊され、水素が吹き出しました。
水素は軽いので、原子炉建屋の最上階に集まって、爆発しました。
ですから、最上階が吹き飛んでいます。
ところが4号機は、3号機から、ダクトを通して水素がきたので、最上階だけでなく、下の階にも水素が存在し、爆発で壁が吹き飛んだのでしょう。
この下の階が、使用済燃料プールを支えていた壁や柱でした。
使用済み燃料プールは、宙ぶらりんの状態となりました。
東電も、「崩れ落ちたら手が着けられなくなる」ことは理解しており、補強工事をやりました。
燃料プールの下の階の床から、燃料プールの底に鉄骨を並べて支え、コンクリートで固める、という耐震工事です。
しかし、爆発で壁も抜けているので、床だって損傷しています。
このため、実は、格納容器の外にあるコンクリートで支えているのです。
格納容器は、厚さ3センチほどの鋼鉄製ですが、フラスコのような格好をしていて、上の方は筒ですが、下の方に出っ張りがあります。
その周りに、1~2メートルのコンクリートを、外張りしています。
そこに柱を立てて、使用済燃料プールの底面を補強したのです。
使用済燃料プールは一部しか支えられていないので、今も宙ぶらりんの状態だと思います。
■事故の状況は東電にもわからない
小出:
東京電力は、「震度6の地震でも大丈夫」だと言っていますが、東電の耐震計算など、信じるべきではありません。
爆発で壁も何も抜けていて、本当は、どこまで傷んでるかわからないのです。
もし、大きな余震でプールに亀裂が入って、水が少し抜けるくらいなら、上から水を入れることもできるので、燃料が溶け落ちることはないと思います。
しかし、燃料プール全体が崩れ落ちてしまうような大地震が来れば、広島原爆1万4千発分ものセシウム137がありますから、
放射能を閉じ込める防壁が全くない、野ざらし状態で、放射能が噴出します。
こうなると、手の施しようがありません。
編集部:
ロボットによる修復作業の可能性は?
小出:
人間が入れない現場がたくさんあるので、できることはロボットにやらせなければならないと思います。
しかし、そのロボットすらが、帰って来れなくなるほどの、汚染環境なのです。
頭脳にあたる電子回路が、放射能によって破壊されるからです。
そもそも、ロボットができること自体が、限られています。
自動車工場などは、ロボットを使っていますが、決められた部品で、決められた作業工程だからできるのです。
どうなっているかわからないような場所で、ロボットができることは、かなり限られていると思います。
例えば、3号機です。
壊れた原子炉建屋の中から、ガレキを運び出す作業をやっていますが、ロボットでは無理のため、
カメラで見ながら、遠隔操作で重機を使って、人間が操作しているのです。
ロボットでできることは、本当に限られています。
除染は「移染」放射能無毒化は不可能
~福島第二原発敷地を核のゴミ捨て場に~
編集部:
除染作業の実効性と、作業労働者の被曝管理は?
小出:
除染そのものができない、と思います。
除染というのは、「汚れを除く」と書くわけですが、汚れと私たちが呼んでいる正体は、放射性物質です。
これを消し去ることは、できないのです。
「除染」の実態は、放射性物質を移動させる、「移染」です。
しかも、環境は、常に循環しています。
雨が降れば流れていき、風が吹けば飛んでいきます。
一度除染をしたつもりでも、また放射能が戻って来るのは、当り前です。
ただし私は、事故直後から、「除染すべきだ」と言ってきた人間です。
子どもたちは、放射線の被曝に敏感だからです。
子どもたちが集中的に時を過ごす、学校の校庭、幼稚園の園庭、地域の公園などは、移染をしなければいけない。
「移染」ですから、効果は限定的ですが、何度でもやって、子どもを被曝から守らなければいけない、と私は言っています。
では、汚染物を、何処に移動させるのか?
今は、仮置場に、フレコンバッグに入れて積み上げていますが、すぐに置き場所がなくなります。
政府は、各県に一カ所、集中的中間貯蔵施設を作る方針です。
これは事実上、「永久貯蔵施設」です。
一度集めたものを、別の場所に移動することは、ありえないからです。
それを覚悟で、引き受ける自治体があるかもしれませんが、引き受けて欲しくありません。
汚染の正体である放射性物質は、元々、東京電力福島第一原子力発電所の、原子炉の中にあった物で、東京電力の所有物です。
環境にばら撒かれた、東京電力の所有物を集めているのだから、東京電力に返せばいいのです。
住民が何とかしよう、なんて思ってはいけない。
ただし、福島第一原発の敷地は、猛烈な被曝環境になってしまっているし。
そこで日夜、労働者が、被曝しながら闘っているわけですから、そこに、新たな放射性物質を返すことはできない。
だから、東京電力の本社ビルに、返すべきだと思います。
私は、本気でそうしたいんですけど、多分できない。
そこで私は、現実的な案として、福島第二原発に集めるのがいい、と思います。
ここは、4基の原子炉が停止中ですが、東電は、再稼動させたいと言っています。
とんでもないことです。
嘘をついて、周辺の住民を、苦難のどん底に突き落としながら、自分は無傷で生き延び、壊れかけた発電所を再稼動させるなんて、有り得ないと私は思うし、
福島第2原発の広大な敷地を、放射能のゴミ捨て場にすると、各県の中間貯蔵施設も、必要なくなります。
■杜撰な被曝管理
編集部:
作業者の被曝管理は?
小出:
放射線業務従事者である私は、常に、被曝量を測定するための、ガラスバッチを付けています。
それが規則ですが、事故原発では、誰が働いているかすら把握できていません。
働いた人が、どこに行っているかもわらない。
東京電力が作業委託すると、1次、2次、3次と、10次まで下請け関係があり、労働者が、どこからか、駆り集められて来ています。
こんな状態で、しっかりした放射線管理は無理です。
さらに、深刻な問題があります。
下請け会社の指示で、労働者の線量計に鉛のカバーを付けた、という事件がありました。
被曝線量を、低く見せるためです。
発覚したのは、ほんの一部です。
酷い被曝作業では、線量計そのものを、置いて行くこともあります。
もっと深刻なのは、労働者自身が、それを望んでいることです。
理由は、総被曝線量が10ミリSvの基準を超えてしまうと、働けなくなるからです。
集められている労働者は、多分、経済的に困窮していて、仕事がない。
大阪なら西成、東京なら山谷、横浜なら寿町などから連れて行かれています。
猛烈にピンハネされた賃金ですが、彼らはそれで生きているので、被曝が限度を超してしまうと、サッと捨てられて、生活ができなくなります。
だから、自分から望んで、被曝限度を超えないよう、誤魔化しを行う、そういう現場だと思います。
私は、それが一番辛いです。
■炉心回収は不可能?
編集部:
事故原発の廃炉作業・事故対応体制について、IAEAすら疑問視しています。
小出さんのご意見は?
小出:
仮に、私が、事故対応の全権を持っていたとすれば、東京電力や国とは、違う対応を取ることもあるでしょう。
例えば、汚染水が漏れないように、地下に遮水壁を張ることなどは、事故直後から言い続けています。
汚染水をタンカーに移して、柏崎刈羽原子力発電所まで走らせて、そこの放射能浄化システムで、処理するプランもあります。
でも、それすらが、瑣末なことなのです。
溶け落ちた炉心が、どこにあるかもわらないし、見に行くことすらできない。
ロボットだって、何ができるかわからない事態です。
誰がやろうとも、無理なのです。
それほど困難な事態だ、と思います。
私は、ああすべきだ、こうすべきだと発言はしますし、IAEAだって、「世界の英知を集めてやるべき」だとか、さまざま提言しています。
でも(大きなため息)、何をやってもうまくいかないというほどの、難しい現実が、目の前にあるのです。
東電に、当事者能力はありませんが、学者だって無能です。
東電自身は、放射能の知識も、原子炉に対する知識も、持っていません。
原子炉に関する知識は、大元は、米国のGE、そして、それを日本に導入した、東芝と日立です。
瓦礫撤去なら、ゼネコンです。
そういう彼らが、現場の知識を持っていて、収束作業を総力でやっているのです。
今のシステムが悪いから、もっといいシステムがありうるか?といえば、そういうふうに私は思えません。
私に、「政府委員になれ」と言ってくださる方もいます。
私なりにやりたいことはありますが、それは瑣末なことで、原子炉本体をどう収束させるのかは、本当にわからないのです。
■海洋汚染は太平洋全域に
編集部:海の汚染について、小出さんがわかってることを教えてください。
小出:
海に汚染が広がっていることは、歴然とした事実です。
事故原発の、敷地の外側にある、防波堤の中の海底の砂・泥は、猛烈に汚染していることがわかっています。
そこで生きている魚が、猛烈に被曝していることも、わかっています。
ですから、防波堤の出口に網を張って、魚が外へ出ないようにするという、馬鹿げたことでもやってみようと思うほど、防波堤の中は汚れています。
発電所から海へ向って、放射能が出ているので、防波堤に網を張っても、汚染水は流れ出て、沖合いのコウナゴが、猛烈に汚染されている例も、たくさん報告されています。
ただし、東北の沖合には黒潮が流れ、昔から「海は広いな大きいな」と言われるように、拡散して薄まっているのだと思います。
大震災の瓦礫が、太平洋を越えて、米国大陸に届いています。
瓦礫が届いたということは、海水が流れたということですから、汚染水も、太平洋の全域に広がっていっている、ということです。
地面に降り落ちた放射能は、海のように拡散しません。
風雨で流れるとしても、海の拡散とは、全然違うレベルです。
陸地の汚染は留まりますが、海はどんどん拡散していくので、汚染そのものが見え難いし、国も東京電力も、測定しようとしないので、データそのものが少ない状態です。
その上で、海の汚染で、特に私が問題だと思うのは、ストロンチウムです。
セシウムは、揮発性が高いので、空気中に噴出して、大地を汚します。
ストロンチウムやプルトニウムを、心配される方もいるのですが、事故で大気中に出たストロンチウムは、セシウムの1000分の1程度。
プルトニウムは、100万分の1程度です。
そのため、大気の汚染は、セシウムが圧倒的に多いのです。
ところが、海の汚染の場合、揮発性は無関係です。
水に溶けるかどうかが問題で、ストロンチウムは、セシウムと同様に、水に溶け易いのです。
このため、ストロンチウムの汚染も、考えないといけません。
しかも、ストロンチウムは、測定が大変難しいのです。
ひとつの試料を測るのに、何日もかかってしまうほどの、面倒な操作が必要なのです。
海洋汚染のデータは少ないし、これからも、なかなか出て来ないだろうと思います。
でも、海の汚染に関しては、セシウムだけ注意していればいい、というわけにはいかず、ストロンチウムに注意を払わなければいけません。
「科学の進歩」は人間の幸せにつながっていなかった
~原発「規制基準」は再稼働目的の方便~
編集部:
原子力規制委員会は、再稼動について、「世界一厳しい基準を設ける」と言っていますが…。
小出:
原子力規制委員会は、当初、「安全基準」を作ろうとしたのですが、「規制基準」になりました。
安全性の確認なんて、できないからです。
機械は壊れるので、完璧な安全基準は、不可能です。
そこで、「世界一厳しい規制」と、言っているわけです。
でも、本当に、世界一厳しい規制を作ったら、地震が頻発する日本で、原子力発電所は1基も動かせません。
そもそも、原子力規制委員会は、「原子力基本法」に基づいており、同法は、原発を推進するための法律です。
規制委員会が何を決めようと、原子力基本法がある限り、推進が前提なのです。
原子力基本法を撤廃して、「脱原発法」を作らないと、「規制基準」は、再稼働のための方便に過ぎない、と思います。
編集部:
政府は、廃炉作業を、30年で終える計画を示していますが、可能ですか?
小出:
そもそも「計画」とは、状況が分ってないと立てられないものですが、
ひとまず、4号機の核燃料プールの、底に沈んでいる使用済核燃料を、より危険の少ない所に移さねばなりません。
それだけでも、大変な作業です。
使用済核燃料は、プールの水面から出した瞬間に、バタバタと人が死んでしまう程の、強い放射線を発しているので、
巨大な鋼鉄と鉛で作った、「キャスク」という容器を、プールの底に沈め、その中に燃料の集合体を入れて、蓋をして、吊り上げて移動させる、という作業となります。
キャスク自身が、100トンもの重さがあるので、巨大なクレーンが必要です。
原子炉建屋の中に設置されていたクレーンは、建屋が吹き飛んで、壊れました。
そこで東京電力は、壊れた建屋の上部を撤去して、燃料プールを剥き出しにし、その上に、巨大な建屋を建て直して、クレーンを設置しようとしています。
建屋が完成して、クレーンを据えつけるのに、今年の暮れまでかかるそうです。
そこから、1331体の使用済燃料の全てを、完璧に移動させなければいけません。
一度でも掴み落とせば、プールが放射能で汚れてしまい、作業が何カ月も遅れることになります。
「本当にできるのだろうか?」と、思ってしまいます。
幸いできたとしても、1号機、2号機、3号機にも、使用済み燃料プールがあります。
1号機も3号機も、建屋はボロボロです。
特に3号機は、猛烈な破壊を受けているので、瓦礫の撤去に、何年かかるのかわかりません。
遠隔操作の重機で、瓦礫をどけようとしたら、掴み損ねて、プールの中に落としてしまう失敗もありました。
4号機は、定期検査中で、炉心に燃料はなく、メルトダウンも起きなかったので、1~3号機に比べて、放射能汚染は、比較的酷くありません。
だから、使用済燃料プールから、燃料を掴み出す作業ができるのですが、1~3号機は、現場に近づくことすらができないのです。
全ての作業を、遠隔操作でやることになるので、途方もない時間がかかるでしょう。
それでも、使用済燃料プールにある核燃料は、掴み出すしかない。
10年かかるのか?20年なのか?わかりません。
その上で、1~3号機の、熔け落ちた燃料を、取り出す作業が出てきます。
ところが、メルトスルーした核燃料は、どこに、どんな状態であるか?すらわかっていないのです。
1979年、米国のスリーマイル島原子力発電所で、メルトダウン事故がありました。
炉心の約半分が、圧力容器の底に熔け落ちたのですが、圧力容器の底が抜ける前に、事故を収束できたのです。
つまり、水を、圧力容器の中に貯めることができたのです。
事故から5~6年後、圧力容器の蓋を開けてみると、中に水が残っていたので、プールと直結させて、全体を水浸しにし、
一度はドロドロに熔けたけれど、それでも圧力容器の中に、固まって残っていた炉心を掴み出す、という作業ができました。
ところが、福島原発の場合は、圧力容器の底が抜けています。
熔けた炉心も下に落ちて、どこにあるのかもわかっていません。
東京電力は、「格納容器の床に留まっている」と発表しています。
核燃料は、厚さ1メートルのコンクリートを、破壊しながら熔け落ち、1メートルの内30センチ分は残っているので、
「格納容器は、まだ、放射能閉じ込め機能がある」と言っています。
しかし、水をかけても全然溜まらないで、じゃじゃ漏れになっているので、格納容器に大きな破壊があることは確実です。
ひょっとしたら、熔けた核燃料は、格納容器のコンクリートを貫き、さらに下に沈んでるかもしれないのです。
そうなると、どんなことをやっても、上から掴み出すことはできない、と思います。
東電や国の工程表では、30年で核燃料を掴み出して、封鎖作業をする計画ですが、
熔けた核燃料を掴み出すことができない、と思うので、この工程表は意味がない、と思います。
■「原発は作らず、動かさず」─これが地震に備えた当然の選択
編集部:
原発再稼動の準備が進み、「今秋にも」、とも言われてます。
予想される大地震について、どういう事態が予想されますか?
小出:
私は地震学者ではないので、どんな地震が来るのかわかりません。
でも、マグニチュード9という、東日本大震災の地震が放出したエネルギーは、広島原爆3万発分です。
とても人間の手に負えるものではありません。
地殻は動乱期に入り、東日本大震災が起きて、ますます大地震が来やすくなっていると、素人ながら思います。
元々、「何時起きても不思議でない」と言われていた東海地震や、東南海地震や、南海地震だって、起こるかもしれないのです。
地震なんか、誰も願っていませんが、来るのです。
人間が対処できるようなものではないものが、来てしまうのですから、原発のようなものは、作らず動かさないのが、当然の選択だ、と私は思います。
編集部:
今も小出さんは、科学の進歩や、人間の進歩を、信じてますか?
小出:
(笑) 科学は、確実に、一歩一歩進みます。
ただし、一歩進むと、解らなかったものが、もっと増えます。
元々科学とは、解らないものを知りたい、という動機で始まっているのですが、
解るものが増えていくと、その何倍もの解らないものが拡がってしまうので、際限のない営みなのです。
科学は進歩しますが、それが人間の幸せにつながっているか?と問われると、必ずしもそうではなかった。
武器だって、科学の力で進歩しました。
ナイフや刀で戦って、相手を刺し殺すようなことをやれば、勝った方だって、猛烈な心の痛みを感じるでしょう。
ところが現代は、空襲ができるようになって、上からバラバラバラっと、爆弾落とすわけです。
下で、人間がどんなふうに苦しんでるのか?なんて、見ないで済みます。
現代は、誘導ミサイルです。
米国本土で、ゲームのようにボタンを押すと、イラクで、爆弾が落ちたりするわけです。
そういうものを、「科学の進歩」と呼ぶのだろうか?と思います。
「人間は進歩したか?」と聞かれてしまうと、進歩したとは全く思わないですね。
むしろ、どうしょうもない生き物になってきたように思います。
今日未知のものが、明日はまたひとつ解る、ということはあると思いますが、
解った先に、また未知が広がってしまうし、解ったことが、人類の幸せに、むしろ逆行するようになっている、と思います。
↑以上、転載おわり
少し大きな文字にした部分が、大切ちゃうかな、と思たとこです。
小出氏は、なんべんも、いろんなとこで講演してはるので、くり返しになる部分もあると思います。
けども、おさらいになろうがなるまいが、やっぱり覚えとかなあかんこと、知っとかなあかんこととちゃうかなと思います。
原子力基本法を撤廃して、「脱原発法」を作らなあきません。
環境基本法で、公を害する物質として認められた放射能を、日本の公害国会が作ったすばらしい法律、公害汚染処罰法で罰することができるよう、
みんなの力で呼び掛けませんか?
まず、汚染するな!
汚染したら罰するぞ!
放射能をまき散らす物体、人間を、法の下で罰する。
小出氏も、そのことを強う強う願てはります。
やりませんか?
↓以下、転載はじめ
人間の手に負えない事故であることを再認識すべき
~溶け落ちた核燃料取り出しは不可能でしょう~
編集部:
汚染水の漏洩の実態と影響からお願いします。
小出:
福島第1原発の1~3号機では、溶け落ちた炉心がこれ以上溶けないようにするために、ひたすら水を入れるという作業を、2年間続けています。
ただし、溶けた炉心は、鋼鉄製の圧力容器の底を抜け、格納容器の中に落ちています。
格納容器にも穴が開き、入れた水が漏れ出て、原子炉建屋・タービン建屋の地下は、汚染水で水浸しになっています。
こんな状態が2年続き、冷却水が溜まり続けています。
東京電力は、溢れてくる水を浄化して、冷却水として再使用する計画を立てましたが、
コンクリート構造物(原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ、ピットなど)にも割れがあり、地下水が流れ込み、1日に400~500㌧も、汚染水が増えている状態です。
東京電力は、敷地内にタンクを作り、これを保管してきたのですが、追いつかなくなって、池を掘り、遮水シートを敷いて、汚染水を入れたのですが、それもまた漏れてしまいました。
やることが本当にお粗末だと思いますが、事故現場があまりにも酷い汚染状態だ、ということです。
放射能さえなければ、ゆっくり確実に工事もできるのですが、全てが、猛烈な被曝環境でやらなければいけないのです。
私は放射線業務従事者ですが、その私すらが行きたくないと思うほど、猛烈な汚染地帯なのです。
そういう状況で、汚染水は溢れ、現在も海に向かって流れているでしょうし、
今後は、意図的に、海に流すという日が遠からずくる、と私は思います。
私は、汚染水が地下水を汚染しないよう、周囲に防壁を張りめぐらすべきだ、と今も思っています。
■新たな浄化装置=「アルプス」
編集部:
浄化された汚染水は、どれぐらいの放射能レベルですか?
小出:
今浄化しているのは、セシウムだけです。
他の放射性核種については、何の浄化もしていないのです。
例えば、ストロンチウムは、29万Bq/ccほどの汚染度で、法定濃度基準の何百万倍。
近づくのも嫌だな、というレベルです。
漏れ出たといわれる12トン
は、35兆Bqで、広島原爆による放射能=89兆Bqの3分の1に相当します。
そこで、東京電力は、他の放射性核種も除去できる、「アルプス」という浄化装置を稼働させる、と言っています。
どこまで浄化できるかは、私にはよく分かりません。
原子炉施設から環境に放出してもいい濃度が、それぞれの放射性物質について定められていますが、
そのレベルまで浄化するのは、無理だと思います
でも、仮にうまくいって、セシウム、ストロンチウムなどの放射性核種も、法定濃度を下回る程度に浄化できたとしても、トリチウムは不可能です。
トリチウムは水素の同位体なので、水そのものになってしまっているからです。
浄化装置は、水の中に含まれている放射性物質を取り除いて、水をきれいにするものなので、
水そのもになったトリチウムは取れず、法定濃度限度の何万倍、あるいは何十万倍もの汚染水を、そのまま海へ流す日が来るでしょう。
■想像を超えた汚染環境での復旧作業
編集部:
被曝労働についてお聞きします。
原発建屋周辺の作業環境は、一体どういう状態なのでしょうか?
小出:
私は、京都大学原子炉実験所で働いていますが、放射性物質を取り扱う時には、放射線管理区域でやらなければなりません。
1時間あたり、0.6μSvを越えるような場所は、放射線管理区域に指定するのが、日本の法律です。
私のような放射線業務従事者が、管理区域内で仕事をするのですが、
被曝を避けるため、20μSv/hを超える場所は、「高線量区域」に指定して規制します。
例えば、1カ月ほど前、ネズミが配電板の配線をショートさせ、停電が起こりました。
冷却が一時停止して、大問題となりました。
皆さん、「何でそんな馬鹿なことを許したのか」と、散々文句を言ったわけだし、私もお粗末だなと思いました。
けれども、その配電板がある場所とは、300μSv/hという放射線が飛び交っている場所なんです。
東電は、事故収束のために、冷却水循環のためのラインを作り、ポンプを据え付けて、電源供給のための配電盤も作ったのですが、
その配電盤をトラックに乗せて、建屋に横付けして「置いてきた」、という状況です。
現場で、ゆっくり配電盤を組み立てる時間など、ない場所なのです。
ですから、配電盤をしっかり管理して、トラブルがないようにすること自体が、とても難しい現場なのです。
300μSv/hというのは、猛烈な汚染環境ですが、他の場所はもっと凄くて、
東電としては、「ここならば、まだ我慢できる」として、そこに置いたのでしょう。
発電所の敷地の中には、到底、人間が行けない場所も山ほどあって、原子炉建屋内部は、人が入ることすらできません。
ロボットを送り込んでも帰ってこれず、次々と駄目になると。
そういう場所なんです。
皆さんは、「大事故だから、もっとしっかり事故に対処しろ」と思われるでしょうけれども、
そんなことが言えないほどに、無茶苦茶ひどい場所だ、ということを、まずわかっていただきたい。
■4号機爆発の原因は、3号機からの水素流入
編集部:
4号機の使用済燃料プールが、今も大きな危機として存在しています。
現状を説明してください。
小出:
4号機の原子炉は、定期点検中でした。
炉心にあった、548体の燃料集合体は、半分位しか燃えてないと思いますが、残りの約600体は、完全に使用済核燃料です。
すべて、燃料プールに移されていました。
使用済核燃料とは、猛烈な放射能の固まりです。
一番危険なのが、セシウム137です。
概算すると、広島原爆、約1万4千発分になりました。
運転もしていなかった4号機で、なぜ爆発が起きたのか?
私は、水素爆発だと思います。
東電が言ってるように、3号機で発生した水素が、共通のダクトの中を通って4号機へ流れ、爆発が起こったと思います。
1号機や3号機は、格納容器が破壊され、水素が吹き出しました。
水素は軽いので、原子炉建屋の最上階に集まって、爆発しました。
ですから、最上階が吹き飛んでいます。
ところが4号機は、3号機から、ダクトを通して水素がきたので、最上階だけでなく、下の階にも水素が存在し、爆発で壁が吹き飛んだのでしょう。
この下の階が、使用済燃料プールを支えていた壁や柱でした。
使用済み燃料プールは、宙ぶらりんの状態となりました。
東電も、「崩れ落ちたら手が着けられなくなる」ことは理解しており、補強工事をやりました。
燃料プールの下の階の床から、燃料プールの底に鉄骨を並べて支え、コンクリートで固める、という耐震工事です。
しかし、爆発で壁も抜けているので、床だって損傷しています。
このため、実は、格納容器の外にあるコンクリートで支えているのです。
格納容器は、厚さ3センチほどの鋼鉄製ですが、フラスコのような格好をしていて、上の方は筒ですが、下の方に出っ張りがあります。
その周りに、1~2メートルのコンクリートを、外張りしています。
そこに柱を立てて、使用済燃料プールの底面を補強したのです。
使用済燃料プールは一部しか支えられていないので、今も宙ぶらりんの状態だと思います。
■事故の状況は東電にもわからない
小出:
東京電力は、「震度6の地震でも大丈夫」だと言っていますが、東電の耐震計算など、信じるべきではありません。
爆発で壁も何も抜けていて、本当は、どこまで傷んでるかわからないのです。
もし、大きな余震でプールに亀裂が入って、水が少し抜けるくらいなら、上から水を入れることもできるので、燃料が溶け落ちることはないと思います。
しかし、燃料プール全体が崩れ落ちてしまうような大地震が来れば、広島原爆1万4千発分ものセシウム137がありますから、
放射能を閉じ込める防壁が全くない、野ざらし状態で、放射能が噴出します。
こうなると、手の施しようがありません。
編集部:
ロボットによる修復作業の可能性は?
小出:
人間が入れない現場がたくさんあるので、できることはロボットにやらせなければならないと思います。
しかし、そのロボットすらが、帰って来れなくなるほどの、汚染環境なのです。
頭脳にあたる電子回路が、放射能によって破壊されるからです。
そもそも、ロボットができること自体が、限られています。
自動車工場などは、ロボットを使っていますが、決められた部品で、決められた作業工程だからできるのです。
どうなっているかわからないような場所で、ロボットができることは、かなり限られていると思います。
例えば、3号機です。
壊れた原子炉建屋の中から、ガレキを運び出す作業をやっていますが、ロボットでは無理のため、
カメラで見ながら、遠隔操作で重機を使って、人間が操作しているのです。
ロボットでできることは、本当に限られています。
除染は「移染」放射能無毒化は不可能
~福島第二原発敷地を核のゴミ捨て場に~
編集部:
除染作業の実効性と、作業労働者の被曝管理は?
小出:
除染そのものができない、と思います。
除染というのは、「汚れを除く」と書くわけですが、汚れと私たちが呼んでいる正体は、放射性物質です。
これを消し去ることは、できないのです。
「除染」の実態は、放射性物質を移動させる、「移染」です。
しかも、環境は、常に循環しています。
雨が降れば流れていき、風が吹けば飛んでいきます。
一度除染をしたつもりでも、また放射能が戻って来るのは、当り前です。
ただし私は、事故直後から、「除染すべきだ」と言ってきた人間です。
子どもたちは、放射線の被曝に敏感だからです。
子どもたちが集中的に時を過ごす、学校の校庭、幼稚園の園庭、地域の公園などは、移染をしなければいけない。
「移染」ですから、効果は限定的ですが、何度でもやって、子どもを被曝から守らなければいけない、と私は言っています。
では、汚染物を、何処に移動させるのか?
今は、仮置場に、フレコンバッグに入れて積み上げていますが、すぐに置き場所がなくなります。
政府は、各県に一カ所、集中的中間貯蔵施設を作る方針です。
これは事実上、「永久貯蔵施設」です。
一度集めたものを、別の場所に移動することは、ありえないからです。
それを覚悟で、引き受ける自治体があるかもしれませんが、引き受けて欲しくありません。
汚染の正体である放射性物質は、元々、東京電力福島第一原子力発電所の、原子炉の中にあった物で、東京電力の所有物です。
環境にばら撒かれた、東京電力の所有物を集めているのだから、東京電力に返せばいいのです。
住民が何とかしよう、なんて思ってはいけない。
ただし、福島第一原発の敷地は、猛烈な被曝環境になってしまっているし。
そこで日夜、労働者が、被曝しながら闘っているわけですから、そこに、新たな放射性物質を返すことはできない。
だから、東京電力の本社ビルに、返すべきだと思います。
私は、本気でそうしたいんですけど、多分できない。
そこで私は、現実的な案として、福島第二原発に集めるのがいい、と思います。
ここは、4基の原子炉が停止中ですが、東電は、再稼動させたいと言っています。
とんでもないことです。
嘘をついて、周辺の住民を、苦難のどん底に突き落としながら、自分は無傷で生き延び、壊れかけた発電所を再稼動させるなんて、有り得ないと私は思うし、
福島第2原発の広大な敷地を、放射能のゴミ捨て場にすると、各県の中間貯蔵施設も、必要なくなります。
■杜撰な被曝管理
編集部:
作業者の被曝管理は?
小出:
放射線業務従事者である私は、常に、被曝量を測定するための、ガラスバッチを付けています。
それが規則ですが、事故原発では、誰が働いているかすら把握できていません。
働いた人が、どこに行っているかもわらない。
東京電力が作業委託すると、1次、2次、3次と、10次まで下請け関係があり、労働者が、どこからか、駆り集められて来ています。
こんな状態で、しっかりした放射線管理は無理です。
さらに、深刻な問題があります。
下請け会社の指示で、労働者の線量計に鉛のカバーを付けた、という事件がありました。
被曝線量を、低く見せるためです。
発覚したのは、ほんの一部です。
酷い被曝作業では、線量計そのものを、置いて行くこともあります。
もっと深刻なのは、労働者自身が、それを望んでいることです。
理由は、総被曝線量が10ミリSvの基準を超えてしまうと、働けなくなるからです。
集められている労働者は、多分、経済的に困窮していて、仕事がない。
大阪なら西成、東京なら山谷、横浜なら寿町などから連れて行かれています。
猛烈にピンハネされた賃金ですが、彼らはそれで生きているので、被曝が限度を超してしまうと、サッと捨てられて、生活ができなくなります。
だから、自分から望んで、被曝限度を超えないよう、誤魔化しを行う、そういう現場だと思います。
私は、それが一番辛いです。
■炉心回収は不可能?
編集部:
事故原発の廃炉作業・事故対応体制について、IAEAすら疑問視しています。
小出さんのご意見は?
小出:
仮に、私が、事故対応の全権を持っていたとすれば、東京電力や国とは、違う対応を取ることもあるでしょう。
例えば、汚染水が漏れないように、地下に遮水壁を張ることなどは、事故直後から言い続けています。
汚染水をタンカーに移して、柏崎刈羽原子力発電所まで走らせて、そこの放射能浄化システムで、処理するプランもあります。
でも、それすらが、瑣末なことなのです。
溶け落ちた炉心が、どこにあるかもわらないし、見に行くことすらできない。
ロボットだって、何ができるかわからない事態です。
誰がやろうとも、無理なのです。
それほど困難な事態だ、と思います。
私は、ああすべきだ、こうすべきだと発言はしますし、IAEAだって、「世界の英知を集めてやるべき」だとか、さまざま提言しています。
でも(大きなため息)、何をやってもうまくいかないというほどの、難しい現実が、目の前にあるのです。
東電に、当事者能力はありませんが、学者だって無能です。
東電自身は、放射能の知識も、原子炉に対する知識も、持っていません。
原子炉に関する知識は、大元は、米国のGE、そして、それを日本に導入した、東芝と日立です。
瓦礫撤去なら、ゼネコンです。
そういう彼らが、現場の知識を持っていて、収束作業を総力でやっているのです。
今のシステムが悪いから、もっといいシステムがありうるか?といえば、そういうふうに私は思えません。
私に、「政府委員になれ」と言ってくださる方もいます。
私なりにやりたいことはありますが、それは瑣末なことで、原子炉本体をどう収束させるのかは、本当にわからないのです。
■海洋汚染は太平洋全域に
編集部:海の汚染について、小出さんがわかってることを教えてください。
小出:
海に汚染が広がっていることは、歴然とした事実です。
事故原発の、敷地の外側にある、防波堤の中の海底の砂・泥は、猛烈に汚染していることがわかっています。
そこで生きている魚が、猛烈に被曝していることも、わかっています。
ですから、防波堤の出口に網を張って、魚が外へ出ないようにするという、馬鹿げたことでもやってみようと思うほど、防波堤の中は汚れています。
発電所から海へ向って、放射能が出ているので、防波堤に網を張っても、汚染水は流れ出て、沖合いのコウナゴが、猛烈に汚染されている例も、たくさん報告されています。
ただし、東北の沖合には黒潮が流れ、昔から「海は広いな大きいな」と言われるように、拡散して薄まっているのだと思います。
大震災の瓦礫が、太平洋を越えて、米国大陸に届いています。
瓦礫が届いたということは、海水が流れたということですから、汚染水も、太平洋の全域に広がっていっている、ということです。
地面に降り落ちた放射能は、海のように拡散しません。
風雨で流れるとしても、海の拡散とは、全然違うレベルです。
陸地の汚染は留まりますが、海はどんどん拡散していくので、汚染そのものが見え難いし、国も東京電力も、測定しようとしないので、データそのものが少ない状態です。
その上で、海の汚染で、特に私が問題だと思うのは、ストロンチウムです。
セシウムは、揮発性が高いので、空気中に噴出して、大地を汚します。
ストロンチウムやプルトニウムを、心配される方もいるのですが、事故で大気中に出たストロンチウムは、セシウムの1000分の1程度。
プルトニウムは、100万分の1程度です。
そのため、大気の汚染は、セシウムが圧倒的に多いのです。
ところが、海の汚染の場合、揮発性は無関係です。
水に溶けるかどうかが問題で、ストロンチウムは、セシウムと同様に、水に溶け易いのです。
このため、ストロンチウムの汚染も、考えないといけません。
しかも、ストロンチウムは、測定が大変難しいのです。
ひとつの試料を測るのに、何日もかかってしまうほどの、面倒な操作が必要なのです。
海洋汚染のデータは少ないし、これからも、なかなか出て来ないだろうと思います。
でも、海の汚染に関しては、セシウムだけ注意していればいい、というわけにはいかず、ストロンチウムに注意を払わなければいけません。
「科学の進歩」は人間の幸せにつながっていなかった
~原発「規制基準」は再稼働目的の方便~
編集部:
原子力規制委員会は、再稼動について、「世界一厳しい基準を設ける」と言っていますが…。
小出:
原子力規制委員会は、当初、「安全基準」を作ろうとしたのですが、「規制基準」になりました。
安全性の確認なんて、できないからです。
機械は壊れるので、完璧な安全基準は、不可能です。
そこで、「世界一厳しい規制」と、言っているわけです。
でも、本当に、世界一厳しい規制を作ったら、地震が頻発する日本で、原子力発電所は1基も動かせません。
そもそも、原子力規制委員会は、「原子力基本法」に基づいており、同法は、原発を推進するための法律です。
規制委員会が何を決めようと、原子力基本法がある限り、推進が前提なのです。
原子力基本法を撤廃して、「脱原発法」を作らないと、「規制基準」は、再稼働のための方便に過ぎない、と思います。
編集部:
政府は、廃炉作業を、30年で終える計画を示していますが、可能ですか?
小出:
そもそも「計画」とは、状況が分ってないと立てられないものですが、
ひとまず、4号機の核燃料プールの、底に沈んでいる使用済核燃料を、より危険の少ない所に移さねばなりません。
それだけでも、大変な作業です。
使用済核燃料は、プールの水面から出した瞬間に、バタバタと人が死んでしまう程の、強い放射線を発しているので、
巨大な鋼鉄と鉛で作った、「キャスク」という容器を、プールの底に沈め、その中に燃料の集合体を入れて、蓋をして、吊り上げて移動させる、という作業となります。
キャスク自身が、100トンもの重さがあるので、巨大なクレーンが必要です。
原子炉建屋の中に設置されていたクレーンは、建屋が吹き飛んで、壊れました。
そこで東京電力は、壊れた建屋の上部を撤去して、燃料プールを剥き出しにし、その上に、巨大な建屋を建て直して、クレーンを設置しようとしています。
建屋が完成して、クレーンを据えつけるのに、今年の暮れまでかかるそうです。
そこから、1331体の使用済燃料の全てを、完璧に移動させなければいけません。
一度でも掴み落とせば、プールが放射能で汚れてしまい、作業が何カ月も遅れることになります。
「本当にできるのだろうか?」と、思ってしまいます。
幸いできたとしても、1号機、2号機、3号機にも、使用済み燃料プールがあります。
1号機も3号機も、建屋はボロボロです。
特に3号機は、猛烈な破壊を受けているので、瓦礫の撤去に、何年かかるのかわかりません。
遠隔操作の重機で、瓦礫をどけようとしたら、掴み損ねて、プールの中に落としてしまう失敗もありました。
4号機は、定期検査中で、炉心に燃料はなく、メルトダウンも起きなかったので、1~3号機に比べて、放射能汚染は、比較的酷くありません。
だから、使用済燃料プールから、燃料を掴み出す作業ができるのですが、1~3号機は、現場に近づくことすらができないのです。
全ての作業を、遠隔操作でやることになるので、途方もない時間がかかるでしょう。
それでも、使用済燃料プールにある核燃料は、掴み出すしかない。
10年かかるのか?20年なのか?わかりません。
その上で、1~3号機の、熔け落ちた燃料を、取り出す作業が出てきます。
ところが、メルトスルーした核燃料は、どこに、どんな状態であるか?すらわかっていないのです。
1979年、米国のスリーマイル島原子力発電所で、メルトダウン事故がありました。
炉心の約半分が、圧力容器の底に熔け落ちたのですが、圧力容器の底が抜ける前に、事故を収束できたのです。
つまり、水を、圧力容器の中に貯めることができたのです。
事故から5~6年後、圧力容器の蓋を開けてみると、中に水が残っていたので、プールと直結させて、全体を水浸しにし、
一度はドロドロに熔けたけれど、それでも圧力容器の中に、固まって残っていた炉心を掴み出す、という作業ができました。
ところが、福島原発の場合は、圧力容器の底が抜けています。
熔けた炉心も下に落ちて、どこにあるのかもわかっていません。
東京電力は、「格納容器の床に留まっている」と発表しています。
核燃料は、厚さ1メートルのコンクリートを、破壊しながら熔け落ち、1メートルの内30センチ分は残っているので、
「格納容器は、まだ、放射能閉じ込め機能がある」と言っています。
しかし、水をかけても全然溜まらないで、じゃじゃ漏れになっているので、格納容器に大きな破壊があることは確実です。
ひょっとしたら、熔けた核燃料は、格納容器のコンクリートを貫き、さらに下に沈んでるかもしれないのです。
そうなると、どんなことをやっても、上から掴み出すことはできない、と思います。
東電や国の工程表では、30年で核燃料を掴み出して、封鎖作業をする計画ですが、
熔けた核燃料を掴み出すことができない、と思うので、この工程表は意味がない、と思います。
■「原発は作らず、動かさず」─これが地震に備えた当然の選択
編集部:
原発再稼動の準備が進み、「今秋にも」、とも言われてます。
予想される大地震について、どういう事態が予想されますか?
小出:
私は地震学者ではないので、どんな地震が来るのかわかりません。
でも、マグニチュード9という、東日本大震災の地震が放出したエネルギーは、広島原爆3万発分です。
とても人間の手に負えるものではありません。
地殻は動乱期に入り、東日本大震災が起きて、ますます大地震が来やすくなっていると、素人ながら思います。
元々、「何時起きても不思議でない」と言われていた東海地震や、東南海地震や、南海地震だって、起こるかもしれないのです。
地震なんか、誰も願っていませんが、来るのです。
人間が対処できるようなものではないものが、来てしまうのですから、原発のようなものは、作らず動かさないのが、当然の選択だ、と私は思います。
編集部:
今も小出さんは、科学の進歩や、人間の進歩を、信じてますか?
小出:
(笑) 科学は、確実に、一歩一歩進みます。
ただし、一歩進むと、解らなかったものが、もっと増えます。
元々科学とは、解らないものを知りたい、という動機で始まっているのですが、
解るものが増えていくと、その何倍もの解らないものが拡がってしまうので、際限のない営みなのです。
科学は進歩しますが、それが人間の幸せにつながっているか?と問われると、必ずしもそうではなかった。
武器だって、科学の力で進歩しました。
ナイフや刀で戦って、相手を刺し殺すようなことをやれば、勝った方だって、猛烈な心の痛みを感じるでしょう。
ところが現代は、空襲ができるようになって、上からバラバラバラっと、爆弾落とすわけです。
下で、人間がどんなふうに苦しんでるのか?なんて、見ないで済みます。
現代は、誘導ミサイルです。
米国本土で、ゲームのようにボタンを押すと、イラクで、爆弾が落ちたりするわけです。
そういうものを、「科学の進歩」と呼ぶのだろうか?と思います。
「人間は進歩したか?」と聞かれてしまうと、進歩したとは全く思わないですね。
むしろ、どうしょうもない生き物になってきたように思います。
今日未知のものが、明日はまたひとつ解る、ということはあると思いますが、
解った先に、また未知が広がってしまうし、解ったことが、人類の幸せに、むしろ逆行するようになっている、と思います。
↑以上、転載おわり
少し大きな文字にした部分が、大切ちゃうかな、と思たとこです。
小出氏は、なんべんも、いろんなとこで講演してはるので、くり返しになる部分もあると思います。
けども、おさらいになろうがなるまいが、やっぱり覚えとかなあかんこと、知っとかなあかんこととちゃうかなと思います。
原子力基本法を撤廃して、「脱原発法」を作らなあきません。
環境基本法で、公を害する物質として認められた放射能を、日本の公害国会が作ったすばらしい法律、公害汚染処罰法で罰することができるよう、
みんなの力で呼び掛けませんか?
まず、汚染するな!
汚染したら罰するぞ!
放射能をまき散らす物体、人間を、法の下で罰する。
小出氏も、そのことを強う強う願てはります。
やりませんか?