「この曲、僕が車から降りてから聞いて」
そう言い残して、次男くんは、車から降りて荷物を取り出し、空港の入り口に向こて歩いてった。
物語の始まりはそう、
成す術の無い僕らが主役。
白いライト当てられて、
期待を背負って、
「頼むぜ我らがスラッガー。今日はどうした、未だノーヒットノーラン」
一番前で見ている人の目。
その想いは、僕を焦らせて、
高鳴る心の背中につかえる。
タメ息に勇気かき消されても、
「まかせろ」なんて言う。
だけど、
ライトからすぐ逃げたいよ。
打てるかな。
打てなきゃノーヒットノーラン。
スラッガーだって怯えるんだ。
好きな時に、好きな事をして、
時々休み、
また適当に歩き出していた。
それがいつの間にか、
誰かに何か求められて、
誰にも甘えられない。
ライトからすぐ逃げたいよ。
だけど僕はスラッガー。
ノーヒットノーランのままじゃ、認められない。
そんな僕は、存在しちゃいけない。
願わくば、怯える自分に、
逃げ場を与えてあげたい。
願わくば、誇れる自分と、名誉とライトが欲しい。
僕に、なにが残るんだろう?
臆病な僕に、なにができるんだろう?
ライトがまだ足りないよ。
「ボクはスラッガー」
もっと思い込ませてくれ。
物語の始まりはそう、
成す術の無い僕らが主役。
白いライト当てられて、
期待を背負って。
「頼むぜ我らがスラッガー」
「まかせろ!」と、僕は胸をたたく。
この手よ、今は震えないで。
この足よ、ちゃんとボクを支えて。
白いライトあてられて、
怯えないように、
帽子を深くかぶり直し、
不敵に笑うスラッガー。
普通に生きてりゃ誰だって、
ライトを浴びる日は訪れる。
そんな時、誰でも臆病で、
皆、腰の抜けたスラッガー。
ノーヒットノーラン。
誰かにそれを知ってほしいから、
「まかせろ!」って、僕は胸をたたく。
Evolution 2013 Tournament。
通称EVOと呼ばれる、ゲームの世界では一番有名な世界大会。
毎年一回この時期に、ラスベガスのホテルで行われる。
ゲームに熱中する子どもと、そんなものに熱中せんと、もっと違うもんに取り組んで欲しいと願う親。
うちもそうやった。
小学校の時から、スポーツならなんでもそこそこにうまくやり、ピアノもけったいな方法で始めてみるみるうまくなり、
その後も、ちょこっとトライしたらすぐにうまなる様子を見て、よけいにゲームをやめさせとうなったわたし。
いろんな制限を作ってみたり、ルールを作ってみたりしたけど、どれもこれもうまいこといかんと、
11才の時に渡米というおっきな変化があったから、今回こそはと期待したけど、それも無く、
結局は、こっちでも、みるみるうちにゲーム仲間ができて、毎日のように、でっかい男の子らが、レバーやボタンのついたケッタイな箱を抱えてやって来た。
そんなある日、このEVOに出場するためにと、ひとりで飛行機に乗ってラスベガスに行った次男くん。
わたしはその時も、文句タラタラ言うてて、ホテルで財布を盗まれたという知らせを聞いて、ほれみたことか!などと叱ったりした。
次の年もまたEVOに行くと言う次男くんを、もう行かんとき、と言う気力も無いまま見送った。
けどもいっぺんぐらい、どんなことやってるんか観といてもええなという気になって、旦那とふたりで四苦八苦しながら、ネット中継を探した。
知らんかったけど、ずっと追っかけ応援をしてた長男くんが、どのサイトを見たらええのかを教えてくれた。
初めて観たその画面に、次男くんが登場した。
その彼の後ろには、2千人以上の観衆がいて、ものすごく楽しそうに、どちらかの競技者の応援をしてた。
次男くんがうまい手を披露すると、ワァ~ッという歓声が上がる。
画面の右横には、チャットのコメントが次々と流れていて、そこでも次男くんのゲーマーとしての名前が連呼されている。
この子は、これほどの人らをこんなに楽しませてる。
その実況を目の当たりにして、胸がいっぱいになった。
それと同時に、わたしはいったい今まで、息子のなにを見てたんやろう。なにを理解してると思い込んでたんやろうと、
心の底から申し訳なくなり、その気持ちをこのブログに書いた。
お詫びの手紙のつもりで。
それが、どういうわけか、ゲーマーさんらに伝わり、パーッと広がって、えらいことになった。
長男くんが驚いて、なんであんなプライベートなことを書くんと、怒ってきたりした。
わたしは、ネット世界に疎いので、こういう失敗を時々する。
けれども、このブログは、そもそもわたし自身の成長記のつもりで書いてるのやから、
こういう、反省したこと、悔やんだこと、そして、すごく感動したことがあるのに、それを書き残さんわけにはいかんかった。
その後、次男くんは、オーストラリアで開催された世界大会で優勝したりしたのやけれど、
大学を卒業してすぐに会社に就職し、それからは仕事仕事の毎日。
おまけに、可愛いガールフレンドとの時間も大切にしたい。
練習時間もめっきり減り、このまま自然消滅していくのかな、と思てたら、今年もEVOに行くと言う。
へぇ~。
「明らかに練習不足やね、今回は」
「うん、けど、試合ができることがうれしいから」
「ふ~ん……で、大丈夫?どんな心境?」
ふと聞いたわたしの疑問に答えてきたのが、「この曲がボクの今の心境」という言葉やった。
好きな時に、好きな事をして、
時々休み、
また適当に歩き出していた。
それがいつの間にか、
誰かに何か求められて、
誰にも甘えられない。
願わくば、怯える自分に、
逃げ場を与えてあげたい。
願わくば、誇れる自分と、名誉とライトが欲しい。
僕に、なにが残るんだろう?
臆病な僕に、なにができるんだろう?
この手よ、今は震えないで。
この足よ、ちゃんとボクを支えて。
白いライトあてられて、
怯えないように、
帽子を深くかぶり直し、
不敵に笑うスラッガー。
帰りの車の中で、大音響にして、何回も何回も聞いた。
胸がジーンと熱うなった。
「MarlinPie(マーリンパイ)はもう終わりンパイって言われてるで」
そんな意地悪を言いながら、ほんまは我が家で一番応援してる兄。
「あんなこと言うけど、あんたのこと応援してるんやんな」と言うと、
「うん、わかってる。あれがあのオッサンの応援の仕方やから」と弟。
けど、ほんまに、終わりンパイなんかなあ……。
トーナメントが始まった。
ものすごい人数の競技者がいる。
次男くんは、本戦で勝って、負けて、敗者復活戦で何回か勝ち、もう一息というとこで負けた。
上位32人入りは果たしたけど、それ以上には進めんかった。
まなつちゃんが、わたしのせいかなあと心配したりする。
そんなわけない。すべては彼が考えて選んだこと。心配無用。
実況中継を担当してたふたりが、ものすごく惜しんでくれた。
会社勤めが始まって、今、彼はキャリアを積んでいる。
そんなことを何回も何回も言うてた。
それはわかってるし、大事なことやけど、けどやっぱり、マーリンパイは強い人であって欲しい。
そんな思いがにじみ出ていてありがたかった。
「負けちゃいましたが、また次回」
次男くんからのメールが送られてきた。
そやな、また今度。応援するで。
そう言い残して、次男くんは、車から降りて荷物を取り出し、空港の入り口に向こて歩いてった。
物語の始まりはそう、
成す術の無い僕らが主役。
白いライト当てられて、
期待を背負って、
「頼むぜ我らがスラッガー。今日はどうした、未だノーヒットノーラン」
一番前で見ている人の目。
その想いは、僕を焦らせて、
高鳴る心の背中につかえる。
タメ息に勇気かき消されても、
「まかせろ」なんて言う。
だけど、
ライトからすぐ逃げたいよ。
打てるかな。
打てなきゃノーヒットノーラン。
スラッガーだって怯えるんだ。
好きな時に、好きな事をして、
時々休み、
また適当に歩き出していた。
それがいつの間にか、
誰かに何か求められて、
誰にも甘えられない。
ライトからすぐ逃げたいよ。
だけど僕はスラッガー。
ノーヒットノーランのままじゃ、認められない。
そんな僕は、存在しちゃいけない。
願わくば、怯える自分に、
逃げ場を与えてあげたい。
願わくば、誇れる自分と、名誉とライトが欲しい。
僕に、なにが残るんだろう?
臆病な僕に、なにができるんだろう?
ライトがまだ足りないよ。
「ボクはスラッガー」
もっと思い込ませてくれ。
物語の始まりはそう、
成す術の無い僕らが主役。
白いライト当てられて、
期待を背負って。
「頼むぜ我らがスラッガー」
「まかせろ!」と、僕は胸をたたく。
この手よ、今は震えないで。
この足よ、ちゃんとボクを支えて。
白いライトあてられて、
怯えないように、
帽子を深くかぶり直し、
不敵に笑うスラッガー。
普通に生きてりゃ誰だって、
ライトを浴びる日は訪れる。
そんな時、誰でも臆病で、
皆、腰の抜けたスラッガー。
ノーヒットノーラン。
誰かにそれを知ってほしいから、
「まかせろ!」って、僕は胸をたたく。
Evolution 2013 Tournament。
通称EVOと呼ばれる、ゲームの世界では一番有名な世界大会。
毎年一回この時期に、ラスベガスのホテルで行われる。
ゲームに熱中する子どもと、そんなものに熱中せんと、もっと違うもんに取り組んで欲しいと願う親。
うちもそうやった。
小学校の時から、スポーツならなんでもそこそこにうまくやり、ピアノもけったいな方法で始めてみるみるうまくなり、
その後も、ちょこっとトライしたらすぐにうまなる様子を見て、よけいにゲームをやめさせとうなったわたし。
いろんな制限を作ってみたり、ルールを作ってみたりしたけど、どれもこれもうまいこといかんと、
11才の時に渡米というおっきな変化があったから、今回こそはと期待したけど、それも無く、
結局は、こっちでも、みるみるうちにゲーム仲間ができて、毎日のように、でっかい男の子らが、レバーやボタンのついたケッタイな箱を抱えてやって来た。
そんなある日、このEVOに出場するためにと、ひとりで飛行機に乗ってラスベガスに行った次男くん。
わたしはその時も、文句タラタラ言うてて、ホテルで財布を盗まれたという知らせを聞いて、ほれみたことか!などと叱ったりした。
次の年もまたEVOに行くと言う次男くんを、もう行かんとき、と言う気力も無いまま見送った。
けどもいっぺんぐらい、どんなことやってるんか観といてもええなという気になって、旦那とふたりで四苦八苦しながら、ネット中継を探した。
知らんかったけど、ずっと追っかけ応援をしてた長男くんが、どのサイトを見たらええのかを教えてくれた。
初めて観たその画面に、次男くんが登場した。
その彼の後ろには、2千人以上の観衆がいて、ものすごく楽しそうに、どちらかの競技者の応援をしてた。
次男くんがうまい手を披露すると、ワァ~ッという歓声が上がる。
画面の右横には、チャットのコメントが次々と流れていて、そこでも次男くんのゲーマーとしての名前が連呼されている。
この子は、これほどの人らをこんなに楽しませてる。
その実況を目の当たりにして、胸がいっぱいになった。
それと同時に、わたしはいったい今まで、息子のなにを見てたんやろう。なにを理解してると思い込んでたんやろうと、
心の底から申し訳なくなり、その気持ちをこのブログに書いた。
お詫びの手紙のつもりで。
それが、どういうわけか、ゲーマーさんらに伝わり、パーッと広がって、えらいことになった。
長男くんが驚いて、なんであんなプライベートなことを書くんと、怒ってきたりした。
わたしは、ネット世界に疎いので、こういう失敗を時々する。
けれども、このブログは、そもそもわたし自身の成長記のつもりで書いてるのやから、
こういう、反省したこと、悔やんだこと、そして、すごく感動したことがあるのに、それを書き残さんわけにはいかんかった。
その後、次男くんは、オーストラリアで開催された世界大会で優勝したりしたのやけれど、
大学を卒業してすぐに会社に就職し、それからは仕事仕事の毎日。
おまけに、可愛いガールフレンドとの時間も大切にしたい。
練習時間もめっきり減り、このまま自然消滅していくのかな、と思てたら、今年もEVOに行くと言う。
へぇ~。
「明らかに練習不足やね、今回は」
「うん、けど、試合ができることがうれしいから」
「ふ~ん……で、大丈夫?どんな心境?」
ふと聞いたわたしの疑問に答えてきたのが、「この曲がボクの今の心境」という言葉やった。
好きな時に、好きな事をして、
時々休み、
また適当に歩き出していた。
それがいつの間にか、
誰かに何か求められて、
誰にも甘えられない。
願わくば、怯える自分に、
逃げ場を与えてあげたい。
願わくば、誇れる自分と、名誉とライトが欲しい。
僕に、なにが残るんだろう?
臆病な僕に、なにができるんだろう?
この手よ、今は震えないで。
この足よ、ちゃんとボクを支えて。
白いライトあてられて、
怯えないように、
帽子を深くかぶり直し、
不敵に笑うスラッガー。
帰りの車の中で、大音響にして、何回も何回も聞いた。
胸がジーンと熱うなった。
「MarlinPie(マーリンパイ)はもう終わりンパイって言われてるで」
そんな意地悪を言いながら、ほんまは我が家で一番応援してる兄。
「あんなこと言うけど、あんたのこと応援してるんやんな」と言うと、
「うん、わかってる。あれがあのオッサンの応援の仕方やから」と弟。
けど、ほんまに、終わりンパイなんかなあ……。
トーナメントが始まった。
ものすごい人数の競技者がいる。
次男くんは、本戦で勝って、負けて、敗者復活戦で何回か勝ち、もう一息というとこで負けた。
上位32人入りは果たしたけど、それ以上には進めんかった。
まなつちゃんが、わたしのせいかなあと心配したりする。
そんなわけない。すべては彼が考えて選んだこと。心配無用。
実況中継を担当してたふたりが、ものすごく惜しんでくれた。
会社勤めが始まって、今、彼はキャリアを積んでいる。
そんなことを何回も何回も言うてた。
それはわかってるし、大事なことやけど、けどやっぱり、マーリンパイは強い人であって欲しい。
そんな思いがにじみ出ていてありがたかった。
「負けちゃいましたが、また次回」
次男くんからのメールが送られてきた。
そやな、また今度。応援するで。