水島宏明氏が、安倍首相が五輪招致でついた「ウソ」について言及してはった。
他にも、大勢の識者の方々が、意見を出してはる。
ここに、そのいちいちを載せるつもりはないけれども、今のこの狂乱ともいえるバカ騒ぎの中で、
「そんなことありえへん」「あんなことよう言うわ」「ウソもええ加減にしてほしい」「恥ずかしい」などと思いながら、
悶々とこの数日間を過ごしてはる人に、少しでも、ホッとしてもらえたらと思い、ここに転載させてもらいます。
↓以下、転載はじめ
安倍首相が五輪招致でついた「ウソ」“汚染水は港湾内で完全にブロック” なんてありえない
2020年の夏の五輪・パラリンピックの開催地が、正式に、「東京」に決まった。
1964年以来、56年ぶり、2回目の五輪開催。
日本時間午前5時の発表の瞬間を、テレビの前で見守った人たちも、多いことだろう。
テレビ各局は、朝から、開催を喜ぶ特集を放送している。
長い経済的な低迷から、なかなか抜け出せなかった日本社会にあって、早くも「経済効果は3兆円」などという、皮算用もはじかれている。
また、「アベノミクスの第4の矢が放たれた」などという、経済界の声も伝えられる。
アベノリンピクスなる造語も、報道されている。
「自信と夢を取り戻す」という、喜び一色のムードに、水を差すつもりはない。
だが、東京開催決定を伝える朝のテレビニュースを見ていて、仰天したことがある。
最終プレゼンテーションにおける安倍首相のスピーチだ。
福島の状況を、「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)と発言したのだ。
「私が安全を保証します。状況はコントロールされています」
「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」
「福島近海でのモニタリング数値は、最大でもWHO(世界保健機関)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ」
「健康に対する問題はない。今までも、現在も、これからもない」
東京五輪開催を望んでいる国民が、大多数だとしても、首相の発言を聞いて、「おいおい、いくら何でも言い過ぎでは?」と思った人は、少なくないだろう。
福島の人たちや、原発事故のその後に注目している人たちからみれば、明らかな「ウソ」があるのだ。
汚染水に関していえば、現在「打つ手がない」ことは明らかだ。
安倍首相が、自信満々に言ったことは、これまで東電が、汚染水に関して発表してきた事実とも、完全に異なる。
安倍首相が言及した、福島第一原発の専用港内の「0.3平方キロメートル」は、確かに、堤防や水中カーテンで仕切られている。
様々なルートから外洋に出ようとする汚染水を、こうした堤防などが、どこまでを「完全にブロック」できているものかあやしいものだが、
いろいろな議論があるので、ここでは問わないことにする。
ちなみに、新聞報道などを見る限り、東電も、「港湾内と外洋を水が行き来していること」を、認めているという。
最近、問題になった、地上タンクから漏れた高濃度の汚染水も、もしも流れ出た先が、この「0.3平方キロメートル」ならば、
水はひとまず、港内にとどまっているように思えるので、首相の発言にも、多少は根拠があるように聞こえそうだ。
ところが実際には、汚染水が流れ出た先は、「0.3平方キロメートルの港内」ではない。
その外の海なのだ。
タンクからの汚染水漏れに関する、東電のこれまでの会見によると、地上タンクからの排水路の側面に、水の流れた跡があり、
そこから高濃度の放射線が観測されていて、そこから水が流れた可能性があることを、東電も認めている。
その排水路がつながっている先は、「0.3平方キロメートルの港内」ではない。
外の海と、直接つながっているのだ。
この点で、安倍首相の説明は、間違っている。
さらに、「完全にブロック」がありえないことは、傍証からも明らかだ。
いろいろな調査で、福島沖の海底には、40カ所の、放射能のホットスポットが見つかっている。
「0.3平方キロメートルの港内」では、これまで、1キロあたりのセシウムが74万ベクレルという、アイナメが見つかっているが、
その港の外の、20キロ先で捕れたアイナメからも、2万5800ベクレルが検出されている。
また、東京湾でも、原発20キロ圏内と同じレベルの、汚染箇所が見つかっている。
こうした事実からみれば、安倍首相の発言は、「よく言うよ」という感じなのだ。
歴史的に見ても、これほど大量の高濃度の汚染水が、長期間漏れ続けている事態は、過去に例がない。
当の安倍政権が、政府主導で、汚染水対策の「基本方針」を打ち出したのは、最終プレゼンテーションのわずか5日ほど前に過ぎない。
五輪招致に合わせて、付け焼き刃で作成した、基本方針なのだ。
こうした現実を直視すると、誠実な人ならば、「状況はコントロールされている」などという表現を、安易に使わないだろう。
歴代首相で比較するなら、原発問題にもともと詳しく、かつ、ウソをつこうとすると顔に出てしまうタイプの菅直人元首相なら、
同じ表現はとてもできなかったか、すぐにばれてしまっただろう。
その意味では、笑顔さえ浮かべて、「私が安全を保証します」と言い切った安倍首相の厚顔は、なかなかのものだ。
一国のリーダーは、たとえ、多少ウソが混じっても、国益を守る責務がある。
今回のプレゼンテーションでは、日本という国、その首都・東京の対外的なイメージを、印象良いものにしていく責務があった。
五輪が開催されるかどうかは、日本という国にとっても、大きな岐路になることは間違いない。
人として、というより、国を率先してアピールするリーダーの立場として、安倍首相は、厚顔無恥なプレゼンテーションによって、役割を果たした、という皮肉な見方もできる。
五輪開催の決定には、さらに皮肉な効果もある。
それは、首相が国際的についた「ウソ」を、2020年に向けて、「マコト」にしなければならない宿命を背負った、ということだ。
これまで政府が、本気で取り組んでこなかった、汚染水や放射能汚染の広がりについて、
今後、解決できなければ、「首相の大ウソ」が、国際的に批判されかねない。
東京五輪に向けて、福島の問題は、世界のメディアからますます注目される。
もうこれ以上、ウソを上塗りすることはできなくなる。
また、東京都の猪瀬直樹知事らがメンバーとなる、東京五輪招致委員会は、「被災地の復興のため」にも東京で五輪を、と訴えてきた。
ところが、招致委員会の竹田恒和理事長が、IOC総会の開かれるブエノスアイレスで会見した際、
「東京は、福島から250キロも離れているから安全」と発言。
まるで、「東京が安全ならばよい」とも聞こえる、差別的な発言だとして、福島の関係者から強い批判を浴びた。
開催が決まった以上、原発事故の収拾に加えて、被災地の復興にも、本腰を入れてもらう必要がある。
もしできないなら、日本という国への国際的な信用が、地に落ちかねない。
五輪開催を喜ぶだけにみえる、メディアの反応を見て、マスコミのあり方もすごく気になる。
安倍首相は、最終プレゼンテーションで、IOC委員から、福島の汚染水問題について質問を受けた際、
「新聞のヘッドラインではなく、事実を見てほしい」と答えている。
つまり、日本のマスコミ報道を信じるな、というようなことを、国際的な公式の舞台で発言している。
このことに、日本のメディアは、もっと怒るべきではないか。
五輪開催の喜びに沸く報道一色のなかで、安倍首相の一連の発言に、「?」をつきつける報道が、テレビにも、新聞などのメディアにも見られないのはどうしたことか。
8日、午前中の、各局のテレビ番組や新聞社のホームページを見ている限り、テレビは歓迎ムード一色。
「経済効果は抜群」「若者に夢を与える」「被災地に元気を与える」などと、肯定的な評価ばかりが目につく。
他方、ツィッターの反応などを見ると、ネットでは、ややシニカルな見方が、多いように感じる。
「五輪より、もっと先にやるべきことがある」「浮かれるなかで、福島の問題を忘れてはならない」という論調だ。
私もそう感じている。
今も、15万人近い福島の人たちが、自宅に戻ることができない生活を、強いられている。
その人たちの帰還にも、影響を与える汚染水の問題が、五輪招致を目指す最終段階になってやっと、政府が対策に乗り出すという後手後手の対応が、明るみに出たのだ。
東京開催決定で、浮かれた報道をしている陰で、
本来、報道すべき現実が、報道されないままに放置されている。
水島宏明
法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
1957年生まれ。
東大卒。
札幌テレビで、生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や、准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。
ロンドン、ベルリン特派員を歴任。
日本テレビで、「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。
『ネットカフェ難民』の名づけ親として、貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。
芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。
2012年から、法政大学社会学部教授。
他にも、大勢の識者の方々が、意見を出してはる。
ここに、そのいちいちを載せるつもりはないけれども、今のこの狂乱ともいえるバカ騒ぎの中で、
「そんなことありえへん」「あんなことよう言うわ」「ウソもええ加減にしてほしい」「恥ずかしい」などと思いながら、
悶々とこの数日間を過ごしてはる人に、少しでも、ホッとしてもらえたらと思い、ここに転載させてもらいます。
↓以下、転載はじめ
安倍首相が五輪招致でついた「ウソ」“汚染水は港湾内で完全にブロック” なんてありえない
2020年の夏の五輪・パラリンピックの開催地が、正式に、「東京」に決まった。
1964年以来、56年ぶり、2回目の五輪開催。
日本時間午前5時の発表の瞬間を、テレビの前で見守った人たちも、多いことだろう。
テレビ各局は、朝から、開催を喜ぶ特集を放送している。
長い経済的な低迷から、なかなか抜け出せなかった日本社会にあって、早くも「経済効果は3兆円」などという、皮算用もはじかれている。
また、「アベノミクスの第4の矢が放たれた」などという、経済界の声も伝えられる。
アベノリンピクスなる造語も、報道されている。
「自信と夢を取り戻す」という、喜び一色のムードに、水を差すつもりはない。
だが、東京開催決定を伝える朝のテレビニュースを見ていて、仰天したことがある。
最終プレゼンテーションにおける安倍首相のスピーチだ。
福島の状況を、「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)と発言したのだ。
「私が安全を保証します。状況はコントロールされています」
「汚染水は福島第一原発の0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」
「福島近海でのモニタリング数値は、最大でもWHO(世界保健機関)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ」
「健康に対する問題はない。今までも、現在も、これからもない」
東京五輪開催を望んでいる国民が、大多数だとしても、首相の発言を聞いて、「おいおい、いくら何でも言い過ぎでは?」と思った人は、少なくないだろう。
福島の人たちや、原発事故のその後に注目している人たちからみれば、明らかな「ウソ」があるのだ。
汚染水に関していえば、現在「打つ手がない」ことは明らかだ。
安倍首相が、自信満々に言ったことは、これまで東電が、汚染水に関して発表してきた事実とも、完全に異なる。
安倍首相が言及した、福島第一原発の専用港内の「0.3平方キロメートル」は、確かに、堤防や水中カーテンで仕切られている。
様々なルートから外洋に出ようとする汚染水を、こうした堤防などが、どこまでを「完全にブロック」できているものかあやしいものだが、
いろいろな議論があるので、ここでは問わないことにする。
ちなみに、新聞報道などを見る限り、東電も、「港湾内と外洋を水が行き来していること」を、認めているという。
最近、問題になった、地上タンクから漏れた高濃度の汚染水も、もしも流れ出た先が、この「0.3平方キロメートル」ならば、
水はひとまず、港内にとどまっているように思えるので、首相の発言にも、多少は根拠があるように聞こえそうだ。
ところが実際には、汚染水が流れ出た先は、「0.3平方キロメートルの港内」ではない。
その外の海なのだ。
タンクからの汚染水漏れに関する、東電のこれまでの会見によると、地上タンクからの排水路の側面に、水の流れた跡があり、
そこから高濃度の放射線が観測されていて、そこから水が流れた可能性があることを、東電も認めている。
その排水路がつながっている先は、「0.3平方キロメートルの港内」ではない。
外の海と、直接つながっているのだ。
この点で、安倍首相の説明は、間違っている。
さらに、「完全にブロック」がありえないことは、傍証からも明らかだ。
いろいろな調査で、福島沖の海底には、40カ所の、放射能のホットスポットが見つかっている。
「0.3平方キロメートルの港内」では、これまで、1キロあたりのセシウムが74万ベクレルという、アイナメが見つかっているが、
その港の外の、20キロ先で捕れたアイナメからも、2万5800ベクレルが検出されている。
また、東京湾でも、原発20キロ圏内と同じレベルの、汚染箇所が見つかっている。
こうした事実からみれば、安倍首相の発言は、「よく言うよ」という感じなのだ。
歴史的に見ても、これほど大量の高濃度の汚染水が、長期間漏れ続けている事態は、過去に例がない。
当の安倍政権が、政府主導で、汚染水対策の「基本方針」を打ち出したのは、最終プレゼンテーションのわずか5日ほど前に過ぎない。
五輪招致に合わせて、付け焼き刃で作成した、基本方針なのだ。
こうした現実を直視すると、誠実な人ならば、「状況はコントロールされている」などという表現を、安易に使わないだろう。
歴代首相で比較するなら、原発問題にもともと詳しく、かつ、ウソをつこうとすると顔に出てしまうタイプの菅直人元首相なら、
同じ表現はとてもできなかったか、すぐにばれてしまっただろう。
その意味では、笑顔さえ浮かべて、「私が安全を保証します」と言い切った安倍首相の厚顔は、なかなかのものだ。
一国のリーダーは、たとえ、多少ウソが混じっても、国益を守る責務がある。
今回のプレゼンテーションでは、日本という国、その首都・東京の対外的なイメージを、印象良いものにしていく責務があった。
五輪が開催されるかどうかは、日本という国にとっても、大きな岐路になることは間違いない。
人として、というより、国を率先してアピールするリーダーの立場として、安倍首相は、厚顔無恥なプレゼンテーションによって、役割を果たした、という皮肉な見方もできる。
五輪開催の決定には、さらに皮肉な効果もある。
それは、首相が国際的についた「ウソ」を、2020年に向けて、「マコト」にしなければならない宿命を背負った、ということだ。
これまで政府が、本気で取り組んでこなかった、汚染水や放射能汚染の広がりについて、
今後、解決できなければ、「首相の大ウソ」が、国際的に批判されかねない。
東京五輪に向けて、福島の問題は、世界のメディアからますます注目される。
もうこれ以上、ウソを上塗りすることはできなくなる。
また、東京都の猪瀬直樹知事らがメンバーとなる、東京五輪招致委員会は、「被災地の復興のため」にも東京で五輪を、と訴えてきた。
ところが、招致委員会の竹田恒和理事長が、IOC総会の開かれるブエノスアイレスで会見した際、
「東京は、福島から250キロも離れているから安全」と発言。
まるで、「東京が安全ならばよい」とも聞こえる、差別的な発言だとして、福島の関係者から強い批判を浴びた。
開催が決まった以上、原発事故の収拾に加えて、被災地の復興にも、本腰を入れてもらう必要がある。
もしできないなら、日本という国への国際的な信用が、地に落ちかねない。
五輪開催を喜ぶだけにみえる、メディアの反応を見て、マスコミのあり方もすごく気になる。
安倍首相は、最終プレゼンテーションで、IOC委員から、福島の汚染水問題について質問を受けた際、
「新聞のヘッドラインではなく、事実を見てほしい」と答えている。
つまり、日本のマスコミ報道を信じるな、というようなことを、国際的な公式の舞台で発言している。
このことに、日本のメディアは、もっと怒るべきではないか。
五輪開催の喜びに沸く報道一色のなかで、安倍首相の一連の発言に、「?」をつきつける報道が、テレビにも、新聞などのメディアにも見られないのはどうしたことか。
8日、午前中の、各局のテレビ番組や新聞社のホームページを見ている限り、テレビは歓迎ムード一色。
「経済効果は抜群」「若者に夢を与える」「被災地に元気を与える」などと、肯定的な評価ばかりが目につく。
他方、ツィッターの反応などを見ると、ネットでは、ややシニカルな見方が、多いように感じる。
「五輪より、もっと先にやるべきことがある」「浮かれるなかで、福島の問題を忘れてはならない」という論調だ。
私もそう感じている。
今も、15万人近い福島の人たちが、自宅に戻ることができない生活を、強いられている。
その人たちの帰還にも、影響を与える汚染水の問題が、五輪招致を目指す最終段階になってやっと、政府が対策に乗り出すという後手後手の対応が、明るみに出たのだ。
東京開催決定で、浮かれた報道をしている陰で、
本来、報道すべき現実が、報道されないままに放置されている。
水島宏明
法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
1957年生まれ。
東大卒。
札幌テレビで、生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や、准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。
ロンドン、ベルリン特派員を歴任。
日本テレビで、「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。
『ネットカフェ難民』の名づけ親として、貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。
芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。
2012年から、法政大学社会学部教授。