市民の市民による市民のための、みんなでつくるニュースブログ『JANJAN Blog』に、
今年の1月25日と8月28日に投稿された、三上英次氏の記事を、転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ(文字の強調、色分けは、わたしがしました)
血液検査データ公表せず、そして、小児ガン増加をひそかに予見する県と国
2013年1月25日
■重要な情報を隠す
■事故そのものを小さく見せる
■安全に関する基準値をあげる
この3つが、福島の原発事故で行われていることです。
これは、福島の原発事故以降の福島県や国の対応を評した、〈ふくしま集団疎開裁判〉弁護団、柳原敏夫弁護士の言葉だ。
この3月で、原発事故から2年(1月現在)、水面下では、子どもたちへの深刻な健康被害を、何とか食い止めようとする人たちと、
健康被害そのものをおもてに出さずに、もみ消そうとするグループとの、せめぎ合いが続いている。
文部科学省前、1月25日の集会でのプラカード (撮影・三上英次 以下同じ)
1月25日(金)、文部科学省前の抗議集会(18時~)では、
21日に仙台高裁で行なわれた、第3回審尋について、光前幸一弁護士から報告があった。
「仙台高裁に入る前に、市内でデモ行進をしましたが、沿道からわざわざ声を掛けてくれる人もいて、
ようやくここに来て、〈ふくしま集団疎開裁判〉も注目されて来たな、という印象です」
「ただ、仙台高裁は、私たちが、仮処分という簡易な手続きを求めたことから、
裁判所としても簡便に、つまり、被ばくという具体的なことにはあまり踏み込まずに、この裁判を終わらせたいという意向もうかがえました。
見通しとしては、どうやら、3月中に結論を出したいということのようです。
ですから、私たちもそれまでに、もうひとふんばりで、さらに詳しい資料を、裁判所に提出したいと思います」
その後、集会では、第3回審尋で、それぞれ意見書や報告書を提出した松本幸道医師、郡山在住の武本泰氏と、電話中継で質疑応答などが行なわれた。
《松崎幸道医師による「意見書」》
松崎医師は、1月21日に、仙台高裁宛てに提出した「意見書(4)」において、
チェルノブイリ周辺地区で、原発事故以後、小児の血液疾患が、4年後に9倍、10年後には20倍にも増加した事実を挙げ、こう警鐘を鳴らす。
「福島県内には、チェルノブイリのゴメリのような、高度汚染地区に匹敵する、セシウムによる土壌汚染のある地域も多いため、
子どもたちへの健康影響が、とても心配されます」
ところが、その同じ意見書で同医師は、
2011年12月までに、全体の7割近く終わっている福島の子どもたちの、血液検査の結果が公表されていない事実を指摘している(注:おとなの血液検査結果は公表されている)。
この血液検査とは別に、すでに厚生労働省は、
3年ごとに全国的に行っている〈患者調査〉を、平成23年度実施分から、福島県全域と宮城県の一部を、除外することを決めている。
この〈患者調査〉は、脳卒中、心臓病など、多くの疾病に関する発生状況を、各病院に尋ねるものだが、その項目には、白血病や甲状腺異常も含まれている。
その聞き取り調査から、福島県と宮城県の一部を外そうというのだ。
「健康被害隠し」との批判が、多くあがるのも無理からぬ話だろう。
ふたたび、「意見書(4)」に返れば、松崎医師は、血液検査の結果が公表されていないことについて、こう述べる。
「福島中通りに匹敵する、放射能汚染地帯に居住するチェルノブイリの子どもたちでは、
放射線被ばくによって起きたとみられる貧血、白血球数低下、血小板数低下等がはっきり現れていました。
事故直後の福島の子どもたちの、血液検査がどうなっていたのかを知ることは、
被ばくの影響の大きさを知った上で、適切な対策の行われることを切望している住民の、基本的権利です」
急性白血病の発症率は、人口10万人あたり3~4人だというが、それよりはるかに高い割合で、福島県のある自治体では、白血病による死亡が報告される等、
原発事故から2年、健康被害は「懸念される状態」から、「目に見える脅威」になりつつある。
3年ごとに全国的に行っている〈患者調査〉の、福島県除外、そして子どもたちの血液検査の非公表と、
もっともオープンにされなければいけないデータ隠しは、福島県での事態の深刻さを語っている。
松崎医師、武本氏との電話中継に耳を傾ける集会参加者ら (1月25日)
《武本泰氏からの報告》
松崎医師の「意見書(4)」とともに、「報告書(3)―放射性物質に囲まれて生活する郡山の子どもたち―」を仙台高裁に提出したのが、郡山市在住の武本泰氏だ。
武本氏は、行政が、
「県外への人口流出防止や、県内への帰還促進対策、そして、地元産業の風評被害対策を積極的に展開し、
他方、低線量被ばくによる健康被害については、予防よりも、治療を優先した施策を打ち出している」現状を紹介している。
「報告書(3)」によれば、
2011年12月に郡山市にオープンした「ペップキッズこおりやま」は、小学生らを対象にする、東北最大級の屋内遊び場で、
1日当たりの入場者数は「平日で1000人、週末で1500人」にのぼるという。
そうした施設はまだ、「福島県中通りに、大型の屋内運動場や屋内プールを、数か所建設予定」とのことで、そうした動きを武本氏はこう評している。
「子どもたちの外遊びが不足し、心身の成長・発育に、深刻な影響が懸念される中で、その代償として、屋内遊び場等のさらなる建設が予定されています。
正に、これこそ、依然、外遊びが安全と言えない証でありましょう」
さらに武本氏は、同報告書で、福島県が、2014年からの5年間で、「次期県がん対策推進計画」を定め、
その基本方針として、
「東日本大震災の影響に配慮したがん対策の実施」や「小児がんの医療体制強化・連携」を据えていること、
具体的な施策として、
「小児がん対策として、福島医大を中心に、人材育成、県内各地の医療機関の連携を強化し、福島医大は、国が全国10カ所程度に設ける〈小児がん拠点病院〉の指定を目指す」としていることについて、
それらの施策は、これまでの、「低線量被ばくによる健康被害は考えられない」という、政府や福島県の説明と矛盾するものだとして、次のように厳しく指弾している。
「福島原発事故時に、18歳以下の子どもたちの生涯の医療費無償化の方針や、小児がん医療体制の強化なども併せて考慮すると、
もはや政府や福島県は、低線量被ばくによる健康被害を、まちがいなく予見していると、類推せざるを得ません」
こちらは国会前の反原発抗議行動でのプラカード (1月25日)
松崎医師や武本氏らの指摘する福島県での現状は、まさに冒頭に紹介した「重要な情報隠し」の典型である。
すでに、急性白血病などの血液疾患、心臓病疾患等が、水面下で発生していることが、現地から伝えられている。
それらの、深刻な健康被害を隠し切れなくなった時に、県や国は何と言うだろうか――。
「現場での混乱や不安を考えて、公表を控えた」
「急性白血病の発生は事実だが、原発事故との因果関係は明らかにされていない」
「急性白血病の急増と原発事故とは、相当の因果関係が認められるが、当時は、そのことについて予見するだけの、科学的根拠は十分ではなかった」
過去の公害、薬害問題などで、多くの患者が〈泣き寝入り〉を強いられてきた。
再びそのような惨禍を起こさないためにも、健康被害に関する、徹底した情報の公開が求められる。(了)
国会前抗議行動は、国際色豊か (1月25日)
《関連サイト》
◎福島原発告訴団
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
◎子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
http://kodomofukushima.net/
◎原発いらない・福島の女たち
http://onna100nin.seesaa.net/
◎ふくしま集団疎開裁判
同裁判弁護団は、現地での健康被害等の情報提供を求めている。情報の提供は下記サイトから。
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
こちらも国会前にて。日本語の上手なふたり組 (1月25日)
《参考サイト》
「マガジン9」のサイトで、厚生労働省に「なぜ、患者調査を福島県全域と宮城県の一部を除外するのか」を電話で問い合わせた時のやりとりが紹介されている。
http://www.magazine9.jp/oshidori/111209/index.php
《関連記事》
◎「一寸先は闇――時代を開く〈ふくしま集団疎開裁判〉」
http://www.janjanblog.com/archives/88475
※本記事に対するご意見・お問い合わせは下記まで
pen5362@yahoo.co.jp (三上英次/現代報道フォーラム)
〈フクシマの悪夢〉―増え続ける小児甲状腺がん―
2013年8月28日
この国では、24時間コンビニが開いていて、必要なものはすぐ買える。
映画も見られるし、DVDショップのラインナップも豊富だ。
119番をすれば、消防車は来てくれる。
子どもは学校に通える。
国会議事堂はあるし、最高裁の建物も立派だ。
だが……それらはうわべだけのことで、本当はこの国は、すでに〈国家〉の体(てい)を成していないのではないだろうか――。
ふとそんな思いにとらわれるのも、〈3.11〉による原発事故以降、
○ 10数万人の人たちがふるさとを追われ、
○ 除染対策とやらで、大手ゼネコンだけが潤い、原発労働者は使い捨て、
○ 復興予算が不正流用され、
○ 形だけの「子ども被災者支援法」は、作られたまま放置。
○ 原発の汚染水流出には、有効な手立てが見つからない。
というのが、2年5ヵ月前から今までの状況だからである。
さらに、「脱原発」の声をあげる国民(主権者)に、公務員ら(下僕)が、SLAPP訴訟をしかける。
「美しい国」を標榜する総理大臣が、放射能にまみれた国土をそのままに、海外での原発“訪問販売”に奔走する。
そして、一部報道に見られるように、
「巨悪を眠らせない」はずの検察が、原発事故の責任を問われるべき原子力ムラの関係者らを、不起訴にしようとしている。
もし〈国〉といったものがあるのならば、その〈国〉が、他のすべてを投げ打ってでも、最優先で取り組まなければならない原発問題に、
何ひとつ有効な手が打たれず、時間だけが過ぎて行っているようにも思われる。
いくつかの放置されたままの問題の中で、最も許しがたいのは、
〈年間1ミリシーベルト〉までという被ばく基準が、原発事故後に、20倍の〈年間20ミリシーベルト〉にまで引き上げられたことだろう。
そのために、チェルノブイリ原発事故の場合ですら、〈年間5ミリシーベルト〉で、人々は強制避難となったのに、
日本では、「放射線管理区域」と同レベルの場所で、人々がものを食べ、そこで眠り、日々被ばくを繰り返しているのである。
バスに分乗して上京し、東京地検前で、起訴を求めるボードを掲げる福島の人たち〔2013年2月22日〕 (撮影・三上英次 以下同じ)
朝日新聞に続いて、菅元首相らの「不起訴」見通しを1面に掲載する8月25日付読売新聞
その結果、どうなったか――。
それは、とどまることのない、小児甲状腺がんの発生である。
福島県「県民健康管理調査」検討委員会が、8月20日に発表したデータによれば、同調査で、
小児甲状腺がんと診断された子どもは、前回6月の12人から6人増えて18人になり、
「がんの疑いが強い」とされた子どもは、15人から10人増えて、25人にまで増加してしまった。
これは、検査対象36万人のうち、7月までに検査を終えた21万7千人の中からの〈18人/25人〉であるが、
「小児がんの確定者とその疑いのある者」は、「3人/7人」(2013年2月)から「9人/15人」(2013年6月)、
そして8月発表の「18人/25人」と、増加の一途をたどっている。
安倍総理に〈収束宣言〉の撤回と、「非常事態宣言」とを求める市民グループは、24日(土)から官邸前での座り込みを始めた。
ちなみに、チェルノブイリ原発事故(1986)での小児甲状腺がん発生件数は、
1986年に2件、1987年に4件、1988年が5件、翌年7件(1989)と微増していき、事故後4年で【29件】に激増する。
そして、その後も59件(1991)、66件(1992)、79件(1993)、82件(1994)と増加を続けていくが、
日本は、2年数ヵ月で、小児甲状腺がんが(その疑いの強い者を含めて)【43件】である。
福島県立医科大学の鈴木眞一教授らは、
「チェルノブイリでは、小児甲状腺がんの発生は4年後」といった、事実ではないことを口にして、
いまの時期の小児甲状腺がんと、原発事故による被ばくの因果関係を、否定するのに躍起になっている――。
では、あと1年半経ってからの、つまり、原発事故後4年の―小児甲状腺がんについては、
「原発事故後の被曝の影響によるもの」だと、因果関係(とその責任)を認めるのだろうか?
◇
こうした危機的な状況に対して、8月24日、安倍総理大臣に、「非常事態宣言」を求める人たちが現れた。
その中の、港区から官邸前に駆けつけた女性(65)は、マイクを握って、次のように呼びかけた。
――福島にまつわることを聞いて、座り込みに来ました。
どうして私たちが、このような行動に出なくてはいけないのでしょうか。
いま、漏れ出た放射能の汚染水が、そのまま海に流れ出ています。
340基もある汚染水タンク(注:汚染水タンクは全体で1000基あるが、汚染水漏れが疑われているタイプのタンクが約340基ある)、
東電はいったい、何をしているのですか?
――レベル7以上の原発事故を起こして、原因追求や補償等が終わらないままに再稼動を企てて……、
まずは、事故の収束や補償が(再稼動よりも)先ではないですか?
そして何よりも、汚染地域から子どもたちを逃がすことが、最優先されるべきではありませんか?
――事故は、現在進行形でいまも起きています。
いまも起きていることについて、目をつぶらないで下さい。
耳をふさがないでください。
年間の被曝基準を、それまでの20倍にも引き上げて、政府は子どもたちを殺す気ですか!
――このような現実を、私たちは見過ごしてはいけないと思います。
汚染地域の子どもたちを気にかけなくなったら、私たちはヒトではなくなってしまいます。
前回の発表から、およそ3ヵ月で、小児甲状腺がんは6名増えて、18名になってしまいました。
原発事故が起きるまでは、子どもの甲状腺がんは、「きわめてまれ」と言われて来たのです。
2年ちょっとで、甲状腺がんと確定した子どもたちが、18人もいるのです。
いまの事態を放っておくということは、子どもたちの〈見殺し〉に他なりません。
東京・有楽町(銀座)にある数寄屋橋交差点近くで、子どもたちの、福島からの避難を呼びかける「ふくしま集団疎開裁判の会」のメンバー。
同じく24日、東京・有楽町では、「ふくしま集団疎開裁判の会」のメンバーが、やはり、子どもたちの、放射能汚染地域からの避難の必要性を訴えていた。
――福島の子どもたちに、もうこれ以上被ばくをさせてはいけない、という思いでやって来ましたが、
福島では、もう、小児甲状腺がんが18名も出てしまいました。
こんな危機的な状況なのに、「除染」「安全」「復興」キャンペーン等で、人々が、危険な地域に帰されようとしています。
危険は去ったというキャンペーンのもとで、人々を避難させず、“彼ら”はデータだけをとっているのです。
福島の子どもたちを、モルモット実験の餌食にさせてはいけません。
◇
さて、福島県「県民健康管理調査」検討委員会が、8月20日に、「福島で小児甲状腺がん18名」を発表した翌21日、
お昼のNHKニュースは、これまで通り、そのニュースには一切ふれず、むしろ次のような、“時間つぶし”としか思えないニュースを流し続けていた。
○ 松阪投手、自由契約に
○ 海外の学生対象の就職面接会開催
○ パキスタンの神学校、アメリカの制裁対象に
○ サバの水揚げ、昨年の倍近くに
子どもたちを見殺しにするような〈国〉、いまだ何ひとつ収束していない中で、なお原発「再稼動」を画策するような〈国〉、
これが本当に「美しい国」などと呼べるのだろうか。(了)
8月24日、官邸に向けてマイクを握る女性(右)
《備 考》
◎官邸前での座り込み抗議
8月25日以降、朝6時~22時の間で、参加者2名以上2時間単位で官邸前座り込みが行われている。
参加希望者は、ツイッター@isuwarikomi に書き込むか、メールで royryo20110311@gmail.com まで連絡を。
《関連サイト》
◎「福島原発告訴団」
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
◎「ふくしま集団疎開の会」
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
《関連記事》
◎「原発利権には屈しない」―吉沢さんの呼びかけ―
http://www.janjanblog.com/archives/96774
◎「あさこはうす」の闘い
http://www.janjanblog.com/archives/98702
※本記事に対するご意見・お問い合わせは下記まで
pen5362@yahoo.co.jp (三上英次/現代報道フォーラム)
今年の1月25日と8月28日に投稿された、三上英次氏の記事を、転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ(文字の強調、色分けは、わたしがしました)
血液検査データ公表せず、そして、小児ガン増加をひそかに予見する県と国
2013年1月25日
■重要な情報を隠す
■事故そのものを小さく見せる
■安全に関する基準値をあげる
この3つが、福島の原発事故で行われていることです。
これは、福島の原発事故以降の福島県や国の対応を評した、〈ふくしま集団疎開裁判〉弁護団、柳原敏夫弁護士の言葉だ。
この3月で、原発事故から2年(1月現在)、水面下では、子どもたちへの深刻な健康被害を、何とか食い止めようとする人たちと、
健康被害そのものをおもてに出さずに、もみ消そうとするグループとの、せめぎ合いが続いている。
文部科学省前、1月25日の集会でのプラカード (撮影・三上英次 以下同じ)
1月25日(金)、文部科学省前の抗議集会(18時~)では、
21日に仙台高裁で行なわれた、第3回審尋について、光前幸一弁護士から報告があった。
「仙台高裁に入る前に、市内でデモ行進をしましたが、沿道からわざわざ声を掛けてくれる人もいて、
ようやくここに来て、〈ふくしま集団疎開裁判〉も注目されて来たな、という印象です」
「ただ、仙台高裁は、私たちが、仮処分という簡易な手続きを求めたことから、
裁判所としても簡便に、つまり、被ばくという具体的なことにはあまり踏み込まずに、この裁判を終わらせたいという意向もうかがえました。
見通しとしては、どうやら、3月中に結論を出したいということのようです。
ですから、私たちもそれまでに、もうひとふんばりで、さらに詳しい資料を、裁判所に提出したいと思います」
その後、集会では、第3回審尋で、それぞれ意見書や報告書を提出した松本幸道医師、郡山在住の武本泰氏と、電話中継で質疑応答などが行なわれた。
《松崎幸道医師による「意見書」》
松崎医師は、1月21日に、仙台高裁宛てに提出した「意見書(4)」において、
チェルノブイリ周辺地区で、原発事故以後、小児の血液疾患が、4年後に9倍、10年後には20倍にも増加した事実を挙げ、こう警鐘を鳴らす。
「福島県内には、チェルノブイリのゴメリのような、高度汚染地区に匹敵する、セシウムによる土壌汚染のある地域も多いため、
子どもたちへの健康影響が、とても心配されます」
ところが、その同じ意見書で同医師は、
2011年12月までに、全体の7割近く終わっている福島の子どもたちの、血液検査の結果が公表されていない事実を指摘している(注:おとなの血液検査結果は公表されている)。
この血液検査とは別に、すでに厚生労働省は、
3年ごとに全国的に行っている〈患者調査〉を、平成23年度実施分から、福島県全域と宮城県の一部を、除外することを決めている。
この〈患者調査〉は、脳卒中、心臓病など、多くの疾病に関する発生状況を、各病院に尋ねるものだが、その項目には、白血病や甲状腺異常も含まれている。
その聞き取り調査から、福島県と宮城県の一部を外そうというのだ。
「健康被害隠し」との批判が、多くあがるのも無理からぬ話だろう。
ふたたび、「意見書(4)」に返れば、松崎医師は、血液検査の結果が公表されていないことについて、こう述べる。
「福島中通りに匹敵する、放射能汚染地帯に居住するチェルノブイリの子どもたちでは、
放射線被ばくによって起きたとみられる貧血、白血球数低下、血小板数低下等がはっきり現れていました。
事故直後の福島の子どもたちの、血液検査がどうなっていたのかを知ることは、
被ばくの影響の大きさを知った上で、適切な対策の行われることを切望している住民の、基本的権利です」
急性白血病の発症率は、人口10万人あたり3~4人だというが、それよりはるかに高い割合で、福島県のある自治体では、白血病による死亡が報告される等、
原発事故から2年、健康被害は「懸念される状態」から、「目に見える脅威」になりつつある。
3年ごとに全国的に行っている〈患者調査〉の、福島県除外、そして子どもたちの血液検査の非公表と、
もっともオープンにされなければいけないデータ隠しは、福島県での事態の深刻さを語っている。
松崎医師、武本氏との電話中継に耳を傾ける集会参加者ら (1月25日)
《武本泰氏からの報告》
松崎医師の「意見書(4)」とともに、「報告書(3)―放射性物質に囲まれて生活する郡山の子どもたち―」を仙台高裁に提出したのが、郡山市在住の武本泰氏だ。
武本氏は、行政が、
「県外への人口流出防止や、県内への帰還促進対策、そして、地元産業の風評被害対策を積極的に展開し、
他方、低線量被ばくによる健康被害については、予防よりも、治療を優先した施策を打ち出している」現状を紹介している。
「報告書(3)」によれば、
2011年12月に郡山市にオープンした「ペップキッズこおりやま」は、小学生らを対象にする、東北最大級の屋内遊び場で、
1日当たりの入場者数は「平日で1000人、週末で1500人」にのぼるという。
そうした施設はまだ、「福島県中通りに、大型の屋内運動場や屋内プールを、数か所建設予定」とのことで、そうした動きを武本氏はこう評している。
「子どもたちの外遊びが不足し、心身の成長・発育に、深刻な影響が懸念される中で、その代償として、屋内遊び場等のさらなる建設が予定されています。
正に、これこそ、依然、外遊びが安全と言えない証でありましょう」
さらに武本氏は、同報告書で、福島県が、2014年からの5年間で、「次期県がん対策推進計画」を定め、
その基本方針として、
「東日本大震災の影響に配慮したがん対策の実施」や「小児がんの医療体制強化・連携」を据えていること、
具体的な施策として、
「小児がん対策として、福島医大を中心に、人材育成、県内各地の医療機関の連携を強化し、福島医大は、国が全国10カ所程度に設ける〈小児がん拠点病院〉の指定を目指す」としていることについて、
それらの施策は、これまでの、「低線量被ばくによる健康被害は考えられない」という、政府や福島県の説明と矛盾するものだとして、次のように厳しく指弾している。
「福島原発事故時に、18歳以下の子どもたちの生涯の医療費無償化の方針や、小児がん医療体制の強化なども併せて考慮すると、
もはや政府や福島県は、低線量被ばくによる健康被害を、まちがいなく予見していると、類推せざるを得ません」
こちらは国会前の反原発抗議行動でのプラカード (1月25日)
松崎医師や武本氏らの指摘する福島県での現状は、まさに冒頭に紹介した「重要な情報隠し」の典型である。
すでに、急性白血病などの血液疾患、心臓病疾患等が、水面下で発生していることが、現地から伝えられている。
それらの、深刻な健康被害を隠し切れなくなった時に、県や国は何と言うだろうか――。
「現場での混乱や不安を考えて、公表を控えた」
「急性白血病の発生は事実だが、原発事故との因果関係は明らかにされていない」
「急性白血病の急増と原発事故とは、相当の因果関係が認められるが、当時は、そのことについて予見するだけの、科学的根拠は十分ではなかった」
過去の公害、薬害問題などで、多くの患者が〈泣き寝入り〉を強いられてきた。
再びそのような惨禍を起こさないためにも、健康被害に関する、徹底した情報の公開が求められる。(了)
国会前抗議行動は、国際色豊か (1月25日)
《関連サイト》
◎福島原発告訴団
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
◎子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
http://kodomofukushima.net/
◎原発いらない・福島の女たち
http://onna100nin.seesaa.net/
◎ふくしま集団疎開裁判
同裁判弁護団は、現地での健康被害等の情報提供を求めている。情報の提供は下記サイトから。
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
こちらも国会前にて。日本語の上手なふたり組 (1月25日)
《参考サイト》
「マガジン9」のサイトで、厚生労働省に「なぜ、患者調査を福島県全域と宮城県の一部を除外するのか」を電話で問い合わせた時のやりとりが紹介されている。
http://www.magazine9.jp/oshidori/111209/index.php
《関連記事》
◎「一寸先は闇――時代を開く〈ふくしま集団疎開裁判〉」
http://www.janjanblog.com/archives/88475
※本記事に対するご意見・お問い合わせは下記まで
pen5362@yahoo.co.jp (三上英次/現代報道フォーラム)
〈フクシマの悪夢〉―増え続ける小児甲状腺がん―
2013年8月28日
この国では、24時間コンビニが開いていて、必要なものはすぐ買える。
映画も見られるし、DVDショップのラインナップも豊富だ。
119番をすれば、消防車は来てくれる。
子どもは学校に通える。
国会議事堂はあるし、最高裁の建物も立派だ。
だが……それらはうわべだけのことで、本当はこの国は、すでに〈国家〉の体(てい)を成していないのではないだろうか――。
ふとそんな思いにとらわれるのも、〈3.11〉による原発事故以降、
○ 10数万人の人たちがふるさとを追われ、
○ 除染対策とやらで、大手ゼネコンだけが潤い、原発労働者は使い捨て、
○ 復興予算が不正流用され、
○ 形だけの「子ども被災者支援法」は、作られたまま放置。
○ 原発の汚染水流出には、有効な手立てが見つからない。
というのが、2年5ヵ月前から今までの状況だからである。
さらに、「脱原発」の声をあげる国民(主権者)に、公務員ら(下僕)が、SLAPP訴訟をしかける。
「美しい国」を標榜する総理大臣が、放射能にまみれた国土をそのままに、海外での原発“訪問販売”に奔走する。
そして、一部報道に見られるように、
「巨悪を眠らせない」はずの検察が、原発事故の責任を問われるべき原子力ムラの関係者らを、不起訴にしようとしている。
もし〈国〉といったものがあるのならば、その〈国〉が、他のすべてを投げ打ってでも、最優先で取り組まなければならない原発問題に、
何ひとつ有効な手が打たれず、時間だけが過ぎて行っているようにも思われる。
いくつかの放置されたままの問題の中で、最も許しがたいのは、
〈年間1ミリシーベルト〉までという被ばく基準が、原発事故後に、20倍の〈年間20ミリシーベルト〉にまで引き上げられたことだろう。
そのために、チェルノブイリ原発事故の場合ですら、〈年間5ミリシーベルト〉で、人々は強制避難となったのに、
日本では、「放射線管理区域」と同レベルの場所で、人々がものを食べ、そこで眠り、日々被ばくを繰り返しているのである。
バスに分乗して上京し、東京地検前で、起訴を求めるボードを掲げる福島の人たち〔2013年2月22日〕 (撮影・三上英次 以下同じ)
朝日新聞に続いて、菅元首相らの「不起訴」見通しを1面に掲載する8月25日付読売新聞
その結果、どうなったか――。
それは、とどまることのない、小児甲状腺がんの発生である。
福島県「県民健康管理調査」検討委員会が、8月20日に発表したデータによれば、同調査で、
小児甲状腺がんと診断された子どもは、前回6月の12人から6人増えて18人になり、
「がんの疑いが強い」とされた子どもは、15人から10人増えて、25人にまで増加してしまった。
これは、検査対象36万人のうち、7月までに検査を終えた21万7千人の中からの〈18人/25人〉であるが、
「小児がんの確定者とその疑いのある者」は、「3人/7人」(2013年2月)から「9人/15人」(2013年6月)、
そして8月発表の「18人/25人」と、増加の一途をたどっている。
安倍総理に〈収束宣言〉の撤回と、「非常事態宣言」とを求める市民グループは、24日(土)から官邸前での座り込みを始めた。
ちなみに、チェルノブイリ原発事故(1986)での小児甲状腺がん発生件数は、
1986年に2件、1987年に4件、1988年が5件、翌年7件(1989)と微増していき、事故後4年で【29件】に激増する。
そして、その後も59件(1991)、66件(1992)、79件(1993)、82件(1994)と増加を続けていくが、
日本は、2年数ヵ月で、小児甲状腺がんが(その疑いの強い者を含めて)【43件】である。
福島県立医科大学の鈴木眞一教授らは、
「チェルノブイリでは、小児甲状腺がんの発生は4年後」といった、事実ではないことを口にして、
いまの時期の小児甲状腺がんと、原発事故による被ばくの因果関係を、否定するのに躍起になっている――。
では、あと1年半経ってからの、つまり、原発事故後4年の―小児甲状腺がんについては、
「原発事故後の被曝の影響によるもの」だと、因果関係(とその責任)を認めるのだろうか?
◇
こうした危機的な状況に対して、8月24日、安倍総理大臣に、「非常事態宣言」を求める人たちが現れた。
その中の、港区から官邸前に駆けつけた女性(65)は、マイクを握って、次のように呼びかけた。
――福島にまつわることを聞いて、座り込みに来ました。
どうして私たちが、このような行動に出なくてはいけないのでしょうか。
いま、漏れ出た放射能の汚染水が、そのまま海に流れ出ています。
340基もある汚染水タンク(注:汚染水タンクは全体で1000基あるが、汚染水漏れが疑われているタイプのタンクが約340基ある)、
東電はいったい、何をしているのですか?
――レベル7以上の原発事故を起こして、原因追求や補償等が終わらないままに再稼動を企てて……、
まずは、事故の収束や補償が(再稼動よりも)先ではないですか?
そして何よりも、汚染地域から子どもたちを逃がすことが、最優先されるべきではありませんか?
――事故は、現在進行形でいまも起きています。
いまも起きていることについて、目をつぶらないで下さい。
耳をふさがないでください。
年間の被曝基準を、それまでの20倍にも引き上げて、政府は子どもたちを殺す気ですか!
――このような現実を、私たちは見過ごしてはいけないと思います。
汚染地域の子どもたちを気にかけなくなったら、私たちはヒトではなくなってしまいます。
前回の発表から、およそ3ヵ月で、小児甲状腺がんは6名増えて、18名になってしまいました。
原発事故が起きるまでは、子どもの甲状腺がんは、「きわめてまれ」と言われて来たのです。
2年ちょっとで、甲状腺がんと確定した子どもたちが、18人もいるのです。
いまの事態を放っておくということは、子どもたちの〈見殺し〉に他なりません。
東京・有楽町(銀座)にある数寄屋橋交差点近くで、子どもたちの、福島からの避難を呼びかける「ふくしま集団疎開裁判の会」のメンバー。
同じく24日、東京・有楽町では、「ふくしま集団疎開裁判の会」のメンバーが、やはり、子どもたちの、放射能汚染地域からの避難の必要性を訴えていた。
――福島の子どもたちに、もうこれ以上被ばくをさせてはいけない、という思いでやって来ましたが、
福島では、もう、小児甲状腺がんが18名も出てしまいました。
こんな危機的な状況なのに、「除染」「安全」「復興」キャンペーン等で、人々が、危険な地域に帰されようとしています。
危険は去ったというキャンペーンのもとで、人々を避難させず、“彼ら”はデータだけをとっているのです。
福島の子どもたちを、モルモット実験の餌食にさせてはいけません。
◇
さて、福島県「県民健康管理調査」検討委員会が、8月20日に、「福島で小児甲状腺がん18名」を発表した翌21日、
お昼のNHKニュースは、これまで通り、そのニュースには一切ふれず、むしろ次のような、“時間つぶし”としか思えないニュースを流し続けていた。
○ 松阪投手、自由契約に
○ 海外の学生対象の就職面接会開催
○ パキスタンの神学校、アメリカの制裁対象に
○ サバの水揚げ、昨年の倍近くに
子どもたちを見殺しにするような〈国〉、いまだ何ひとつ収束していない中で、なお原発「再稼動」を画策するような〈国〉、
これが本当に「美しい国」などと呼べるのだろうか。(了)
8月24日、官邸に向けてマイクを握る女性(右)
《備 考》
◎官邸前での座り込み抗議
8月25日以降、朝6時~22時の間で、参加者2名以上2時間単位で官邸前座り込みが行われている。
参加希望者は、ツイッター@isuwarikomi に書き込むか、メールで royryo20110311@gmail.com まで連絡を。
《関連サイト》
◎「福島原発告訴団」
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
◎「ふくしま集団疎開の会」
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/
《関連記事》
◎「原発利権には屈しない」―吉沢さんの呼びかけ―
http://www.janjanblog.com/archives/96774
◎「あさこはうす」の闘い
http://www.janjanblog.com/archives/98702
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