2) 十四代今右衛門(今泉雅登): 1949年(昭和24) ~
① 経歴
) 佐賀県有田町に十三代今右衛門の次男として生まれます。
1985年 武蔵野美術大学、工芸工業デザイン学科(金工専攻)を卒業します。
1988年 京都の陶芸家、鈴木治氏に師事します。
) 1990年 有田に帰郷し、十三代今泉今右衛門の下で家業に従事し、色絵磁器の世界に
入り、色鍋島の文様、空間の取り方など、色鍋島全般について勉強、修行します。
1998年 日本伝統工芸展で、「染付墨はじき梅花文鉢」で工芸会会長賞を受賞します。
) 2002年 前年父の他界により、十四代代今泉今右衛門を襲名します。
同時に、「色鍋島今右衛門技術保存会」の会長に就任します。
2003年 十四代今泉今右衛門襲名披露展を、日本橋三越などで開催します。
2004年 日本伝統工芸展で、東京都知事賞を受賞します。
2010年 個展「十四代今泉今右衛門展」を開催します。
2011年 イタリア、ローマ、フォリ・インペリアーリ博物館で「ラ・ルーチェ展」に出品されるなど、
国内外で活躍しています。 又 平成23年度 日本陶磁協会賞を受賞しています。
② 十四代今右衛門の陶芸
磁器に白化粧を用いる「雪花墨はじき」の技法や、新たな上絵技法「プラチナ彩」など、
伝統に自らの創意を吹き込み、現代における色鍋島を精力的に追及しています。
) 1990年に帰郷するまで、主に立体的、オブジェ的な作品を作っていましたが、
家業を手伝う様に成ると、平面的な絵画である上絵付けの仕事をする様になります。
) 墨弾き(すみはじき)技法: 2003年の襲名披露展で、初めて発表します。
a) 素地(きじ)に墨で文様を描き、その上に呉須を塗ると、墨に含まれる膠(にかわ)分が
撥水剤の役割を果たし、これを素焼き程度の温度で焼成すると、墨が飛んで白抜きに
成ります。その後、透明釉を掛けて本焼きします。
b) この技法は、江戸期より鍋島で使われ、鍋島藩窯では青海波文や紗綾形(さやがた)文など
細かい連続文様が多いです。主文様として使われる事は少なく、地文様(背景)として
使われる事が多く、脇役としての表現になります。
・ 注:紗綾形文とは、卍(まんじ)つなぎの一種で、卍を斜めに連ねた連続文様です。
紗綾の織りに、多く用いられるところから名付けるらます。
c) この「墨はじき」の技法を、現代の色鍋島の制作に取込みます。
更に、脇役であったものを主文様として、取り扱う様になります。
d) 「藍色墨はじき」「墨色墨はじき」、更には墨はじきを重ねていく「層々墨はじき」や、
微妙な白の雰囲気の「雪花墨はじき」と意欲的に作品作りに励み、品格の高い現代の
色鍋島を作りだしています。
・ 注: 「雪花墨はじき」は、磁器に白化粧土を用いて白の微妙な世界を表現し、雪の結晶が
白く浮き出て見える様な美しい作品です。 「色絵雪花墨はじき菊唐花文蓋物」など。
e) 十三代が創案した「薄墨」技法と組合わせた、「薄墨黒はじき」の作品も作っています。
「色絵薄墨墨はじき雪文鉢」、 「色絵薄墨墨はじき草花更紗文額皿」: 高さ6.4 X 径38.0㎝、
「色絵薄墨墨はじき果実文花瓶」、「色絵薄墨墨はじき四季花文花瓶」等があります。
) 鍋島の作品は、従来より目に見えない所に、心配りをしています。
高い高台、櫛目などの高台文、表文様に匹敵する程の裏文様、緊張感のある筆致、
斬新且つ精巧な構図など、細かい神経と手間隙をかけて、最高の色絵磁器が創り出さ
れています。十四代も例外では有りません。
) 「プラチナ彩」:上絵付にプラチナを用い銀色に発色させる方法で、積極的に使用しています。
「色絵雪花藍色はじき唐花更紗文ぐい呑」(高 5.6 X 径 5.8cm) :「雪花」という白い地紋に
プラチナ彩が施されてるぐい呑です。 「色絵雪花墨はじき菊唐花文蓋物」の桃形の蓋の
摘み部にプラチナ彩が使われています。
以下次回(柳原睦夫)に続きます。