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宮田珠己『旅はときどき奇妙な匂いがする アジア沈殿旅日記』

2015-02-07 12:55:00 | ノンジャンル
 宮田珠己さんの‘14年作品『旅はときどき奇妙な匂いがする アジア沈殿旅日記』を読みました。著者が「旅」そのものについて語ろうと思って書いた本です。
 著者は数年前から、夜になると、右足の表面がヒリヒリ痛むという謎の症状に悩まされるようになる。名付けて〈ペリー〉。やがて、昼にも症状が現れるのは、きまって気が張って疲れているときか、もしくは睡眠不足のときであること、〈ペリー〉に対抗するには、熱い風呂か温泉、もしくは睡眠が効くということ、すなわちつねに心身ともにリラックスした状態を保つことが必要不可欠であることが、解明されてきた。著者は〈ペリー〉による苦痛を軽減するために、休暇旅行に出ることにする。
 まず向かったのは台湾。冬の日本を脱して暖かいところに行きたいというのと、地平線が見えるような茫洋とした場所には行きたくないという、ふたつのふるいにかけて対象を絞りこんだ結果だった。著者は旅にはすでに読んで気に入っている1冊を含めて文庫本を何冊か必ず持って行き、手持ち無沙汰なときにランダムに読み、余白はメモに使う。一泊目の宿はただ安いだけがメリットのボロ宿だったりするが、そういうボロ宿ならではの、自分が世界から隔絶されているような味わいは、むしろ旅の始まりにもってこいである。町じゅうで看板を展示即売しているような道路上の光景は、中華文化圏の町の特徴だ。また著者は、どこへ行こうと、その土地における“日常から脱出する回路”のようなものに惹かれてしまう。
 次に向かったのはマレーシア。旅行中、どんな状態でいるときが一番リラックスしているか選手権というものがあったなら、シュノーケリングの最中というのは、間違いなく決勝トーナメントに勝ち上がり、それどころか最低でもベスト4進出は固いだろう。ボートツアーで行けば、水中で出会うことのできる面白い生き物、たとえば水中にモビールのように吊るされたアオリイカや、虹の手榴弾のようなクシクラゲ、海底には完全犯罪を目論むエイの姿が見られたりするだろう。何か込み入った感じのものが見たい著者は、それが大抵の場合、宗教や信仰にまつわる何かであることを知っており、イポー郊外の洞窟寺院を見に行き、大仏を格納している六角形のビルにも出会う。そのビルは内部の吹き抜けも無数の六角形に満ちていて、込み入ったものを見ているという感動が、胸いっぱいに広がっていく。
 3番目に向かったのはチベットのラダック。著者の旅の原風景が、森林限界を越えた、ほとんど草木の生えていないような高原だということで、決まった行き先だ。インドへ向かう飛行機のなかで、機内誌を読んで「中国の奥地で、未知の鉄道発見!」というニュースを知る。著者は単純に人物写真より風景写真のほうが好きだ。
 最後に向かったのは熊本。杖立温泉の背戸屋と呼ばれる入り組んだ裏道に行く。期待の質に達していない風景に失望し、目を背けることは容易だけれど、著者には、時々、そのような風景こそが面白く感じられるときがある。
 この本を読んでいて「へえ~」と思ったことは、アナウンスこそが空港であり、空港の大きな建物は、アナウンスを反響させるために建てられていること、旅はこのアナウンスを耳にした瞬間に始まり、非日常の時間へ向かうこと、よほどの冒険旅行でない限り、宿は旅の土台であり、休暇旅行となれば、旅の印象の50パーセントを左右するものと言ってもいいこと、現地人の人たちが暮らす日常の町の風景が、観光地よりはるかに彩りに満ち、複雑な機微を備えているというようなことは、ないわけではないが、滅多にめぐり合えることではないこと、体の痛みにも二種類あり、いずれ治まることがわかっている痛みと、いつ治まるかわからない、場合によっては一生治まらない痛みがあること、宿にいるときを除けば、移動手段の座席に座って車窓を眺めている時間が一番リラックスしていられるときかもしれないこと、などでした。……
とにかく楽しめる本です。手に取って読まれることをお勧めします。なお、上記以外の本の内容については、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Books」の「宮田珠己著『東南アジア四次元日記』」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/