恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。
まず6月8日に掲載された「もみ消さないで!」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「『週刊文春』が報じた細田博之衆院議長のセクハラ疑惑は、どうして他社からの援護射撃的な続報が出ないのだろう。
この件のポイントは被害者が女性記者である点だ。2018年、『週刊新潮』が当時の福田淳一財務次官のセクハラを報じた際の被害者もテレビ局の女性記者で、しかしこの局は当初、記者の訴えを事実上退けていた。5月30日に地裁が市に損害賠償を命じた長崎市の幹部による性暴力事件(97年)も被害者は女性記者である。
細田氏の件を受けて各社は社内調査を行ったのか。『週刊文春』が大手新聞社やテレビ局など14社に送ったという社内調査に関する質問状の答えはどれも曖昧で、釈然としない思いが残る。政治家の呆(あき)れた言動はこれにとどまらない。
西村康稔前コロナ担当相が自身の公式サイトに上げていた「世界美人図鑑」。日本維新の会・石井章参院議員の女性候補に対する「顔で選んでっくれれば一番」発言。同じく維新の会・馬場伸幸共同代表の「かわいいので(名前を)間違えた」発言。いずれも女性を鑑賞の対象としてしか見ていない証拠。個人の資質以上に右のような文化を許す社会の体質が、セクハラ事件の温床になる。
当事者として、報道各社は徹底調査すべきではなかろうか。不信任案の提出を第三者ぶって報じている場合じゃないと思うけど。」
また、6月12日に掲載された「菱谷良一さん」と題された前川さんのコラム。
「講演のため訪れた旭川で、菱谷良一さんをご自宅にお訪ねした。公立夜間中学をつくる運動をしている中島啓幸さんがご案内くださった。
1941年に旭川師範学校の美術の教師だった熊田満佐吾氏とその教え子の美術部員が治安維持法違反で検挙され投獄された「生活図画事件」。菱谷さんはその美術部員の一人だった。
今年百一歳になる菱谷さんは、僕の両手をとって歓迎してくださった。その身のこなしは軽やかで、話しぶりはよどみない。ふいに立ち上がると、ご自身の画集と「生活図画事件━獄中記━」と題する冊子を奥の部屋へ取りに行かれ、さらさらと署名をして僕に下さった。「矍鑠(かくしゃく)」とはこういうことなのだろう。
菱谷さんの親友で、同じく検挙された松本五郎さんは、一昨年九十九歳で亡くなられた。菱谷さんのお宅の壁には松本さんの自画像も掲げてあった。「松本はすごい。僕とは比べものにならない」と、親友への畏敬の念を隠されなかった。
菱谷さんの「話し合う人」という絵は「共産主義を討論している」とされ、松本さんの「レコードコンサート」という絵は「民衆の味方だったベートーベンをかけて民衆を鼓舞した」とされたという。
文化を理解しない輩(やから)が権力を振り回す。そんな時代を繰り返してはいけない。」
そして、6月15日に掲載された「もはや昭和でない」と題する斎藤さんのコラム。
「14日、2022年版の「男女共同参画白書」が閣議決定された。特集は「人生100年時代における結婚と家族」。
全体的に目立つのは恋愛離れ、結婚離れの傾向だ。20代の女性の約五割、男性の7割が「配偶者、恋人はいない」と答え、三十代の独身率は女性で約四割、男性で約五割(2020年)。男女とも三十代独身者の四人に一人は「結婚の意思なし」だ。
親御さん世代の心配顔が目に浮かぶ。うちの子もコレだ、一生ひとりでいるつもりかしら。
それでもいいと私は思いますけどね。問題はむしろ二十~三十代とその親世代(特に男性)の意識の差だ。「事実婚や同棲より法律婚をすべきである」も「結婚したら夫婦同姓にすべきである」も二十~三十の女性は反対多数、逆に賛成がもっとも多いのは四十代以上の男性だ。一報で家事や育児を「配偶者と半分ずつ分担したい」と希望する人は二十~三十代で男女とも七割にのぼる。男女共同参画意識はかなり浸透しているのだ。
しかし、制度と親たちの意識がそれに追いついていない。だから結婚に希望が持てず、恋愛にも及び腰になる。こうなると国会議員の多数派を占める高齢男性の意識が結婚を阻害しているのではとさえ思えてくる。白書の巻頭言いわく「もはや昭和ではない」。結婚観を変えるべきは親世代なのよ。」
どれも一読すべき価値のある文章だと思いました。
まず6月8日に掲載された「もみ消さないで!」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「『週刊文春』が報じた細田博之衆院議長のセクハラ疑惑は、どうして他社からの援護射撃的な続報が出ないのだろう。
この件のポイントは被害者が女性記者である点だ。2018年、『週刊新潮』が当時の福田淳一財務次官のセクハラを報じた際の被害者もテレビ局の女性記者で、しかしこの局は当初、記者の訴えを事実上退けていた。5月30日に地裁が市に損害賠償を命じた長崎市の幹部による性暴力事件(97年)も被害者は女性記者である。
細田氏の件を受けて各社は社内調査を行ったのか。『週刊文春』が大手新聞社やテレビ局など14社に送ったという社内調査に関する質問状の答えはどれも曖昧で、釈然としない思いが残る。政治家の呆(あき)れた言動はこれにとどまらない。
西村康稔前コロナ担当相が自身の公式サイトに上げていた「世界美人図鑑」。日本維新の会・石井章参院議員の女性候補に対する「顔で選んでっくれれば一番」発言。同じく維新の会・馬場伸幸共同代表の「かわいいので(名前を)間違えた」発言。いずれも女性を鑑賞の対象としてしか見ていない証拠。個人の資質以上に右のような文化を許す社会の体質が、セクハラ事件の温床になる。
当事者として、報道各社は徹底調査すべきではなかろうか。不信任案の提出を第三者ぶって報じている場合じゃないと思うけど。」
また、6月12日に掲載された「菱谷良一さん」と題された前川さんのコラム。
「講演のため訪れた旭川で、菱谷良一さんをご自宅にお訪ねした。公立夜間中学をつくる運動をしている中島啓幸さんがご案内くださった。
1941年に旭川師範学校の美術の教師だった熊田満佐吾氏とその教え子の美術部員が治安維持法違反で検挙され投獄された「生活図画事件」。菱谷さんはその美術部員の一人だった。
今年百一歳になる菱谷さんは、僕の両手をとって歓迎してくださった。その身のこなしは軽やかで、話しぶりはよどみない。ふいに立ち上がると、ご自身の画集と「生活図画事件━獄中記━」と題する冊子を奥の部屋へ取りに行かれ、さらさらと署名をして僕に下さった。「矍鑠(かくしゃく)」とはこういうことなのだろう。
菱谷さんの親友で、同じく検挙された松本五郎さんは、一昨年九十九歳で亡くなられた。菱谷さんのお宅の壁には松本さんの自画像も掲げてあった。「松本はすごい。僕とは比べものにならない」と、親友への畏敬の念を隠されなかった。
菱谷さんの「話し合う人」という絵は「共産主義を討論している」とされ、松本さんの「レコードコンサート」という絵は「民衆の味方だったベートーベンをかけて民衆を鼓舞した」とされたという。
文化を理解しない輩(やから)が権力を振り回す。そんな時代を繰り返してはいけない。」
そして、6月15日に掲載された「もはや昭和でない」と題する斎藤さんのコラム。
「14日、2022年版の「男女共同参画白書」が閣議決定された。特集は「人生100年時代における結婚と家族」。
全体的に目立つのは恋愛離れ、結婚離れの傾向だ。20代の女性の約五割、男性の7割が「配偶者、恋人はいない」と答え、三十代の独身率は女性で約四割、男性で約五割(2020年)。男女とも三十代独身者の四人に一人は「結婚の意思なし」だ。
親御さん世代の心配顔が目に浮かぶ。うちの子もコレだ、一生ひとりでいるつもりかしら。
それでもいいと私は思いますけどね。問題はむしろ二十~三十代とその親世代(特に男性)の意識の差だ。「事実婚や同棲より法律婚をすべきである」も「結婚したら夫婦同姓にすべきである」も二十~三十の女性は反対多数、逆に賛成がもっとも多いのは四十代以上の男性だ。一報で家事や育児を「配偶者と半分ずつ分担したい」と希望する人は二十~三十代で男女とも七割にのぼる。男女共同参画意識はかなり浸透しているのだ。
しかし、制度と親たちの意識がそれに追いついていない。だから結婚に希望が持てず、恋愛にも及び腰になる。こうなると国会議員の多数派を占める高齢男性の意識が結婚を阻害しているのではとさえ思えてくる。白書の巻頭言いわく「もはや昭和ではない」。結婚観を変えるべきは親世代なのよ。」
どれも一読すべき価値のある文章だと思いました。