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朝日新聞取材班『自壊する官邸 「一強」の落とし穴』その1

2023-04-20 00:08:34 | 日記
 朝日新聞取材班が2021年に刊行した『自壊する官邸 「一強」の落とし穴』を読みました。

 内容を一部転載させていただくと、

・K9(ケーナイン)。そんな呼び名で霞が関が語られる官邸主導の成功例がある。
 史上初めて震度7を連続記録した2016年4月の熊本地震。現地に各府省の幹部が集まって連日会議を開いた。K9は熊本の頭文字Kと、幹部の人数を組み合わせた呼び名だ。
 初動対応は多岐にわたる。道路の復旧、避難所の設置、水やガスなど生活インフラの復旧、救援物資の輸送、被災者の健康管理、国から地方への財政援助……。
「K9の下、毎日会議を開催し、迅速な意思決定、省庁横断的支援を実践した。今後の災害対応のモデルとなり得る」 
 内閣府の熊本地震の初動対応に関する検証リポートがこう報告した。

・K9が稼働するきっかけは、首相官邸で事務の官房副長官を務める杉田和博の一声にあった。官僚機構のトップに立つ杉田は地震発生直後、経済産業省官房長だった嶋田隆に、被災地入りして各府省を束ねるチームの事務局長に就くよう指示した。
 官房長は省内の総合調整を行うなど、中枢を担う幹部の一人だ。「経産省が官房長を出しているのなら」と、各府省は局長や審議官といった幹部を現地に送った。メンバーの一人は「幹部が顔をつきあわせて毎日話して政策決定がスムーズだった。官邸主導でなければできなかった」と語る。
強い官邸は、平成の政治改革、行政改革がめざした目標であり、第2次安倍政権はその到達点でもあった。

・省益を追って縦割りに陥る官僚を国益に向かわせる狙いも平成の改革にはあった。安倍政権では各府庁の官僚の力は弱まる一方、府省から官邸に出向した官僚や府省を退官後に官邸で働く官僚、いわゆる「官邸官僚」たちが力を強めた。

・外交と内政での役割分担に加え、二人の違いは官僚の人事にあるという見方もある。
ある元事務次官は言う。
「安倍首相は自分の気に入った官僚を引き立てるが、人事で官僚全体を統治する思想は薄かった。皆さんは能力があっても異を唱える官僚は飛ばす。人事による恐怖を官僚統治に使っている」

・安保法制には集団的自衛権の行使を認める内容が盛り込まれていた。集団的自衛権とは、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に対する武力攻撃を実力をもって阻止する権利だ。歴代内閣は「行使は認められない」との立場だったが、首相の安倍晋三が14年7月、行使できるよう憲法解釈を変えた。

・解釈変更の実務は自民党副総裁の高村(こうむら)正彦や公明党副代表の北側一雄らが担ったが、高村らをサポートしたのが法制局長官・横畠(よこばたけ)裕介だった。横畠が長官に就くまで法制局は、集団的自衛権の行使を認めない内閣の理論的支柱だったが、それを横畠が変えた。

・2013年8月、安倍内閣は内閣法制局長官に、駐仏大使の小松一郎を充てる人事を閣議決定した。憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を成し遂げたい首相・安倍晋三の強い意志が示されたと受け止められた。小松が、もともと行使を認める考えだったことに加え、元外務官僚の小松を充てることが前例を覆す異例の人事だったからだ。

・反対の中心が当時法制局の第1部長や次長を務めていた横畠だった。藤村によると横畠は「自衛隊が武器を使用する、つまり、武力を行使する。日本は限定的にやってきた。駆けつけ警護を解禁するのは難しい」と政府内で主張していたという。藤村は朝日新聞の取材に「我々がやりたいことは実現しなかったが、当時の横畠さんの態度は官僚として立派だった」と振り返る。
 だが、第2次安倍政権で長官に就いた横畠は駆けつけ警護を簡単に認めた。藤村は言う。「首相や官房長官が人事を振りかざせば、本当に官僚の考え方を百八十度転換させる力があると分かった。官僚の悲哀だ」

・「安倍首相には実務経験を積み重ねさせて官僚を育てる発想がなかった」

・第2次政権では、担当閣僚の了承を得る前に検討会議のメンバーに人事案が諮られるようになった。事情を知る省庁幹部によると、担当閣僚が「〇」を出した人事案を官邸サイドで覆すことが続いたためだという。

・省庁の人事権は閣僚が持つと法的に定められているのに、事実上は、各省の現職官僚、そしてOBが決める霞が関の体質を菅は嫌っていた。

・府省幹部の人事を了承するための鑑定の閣議人事検討会議が生まれたのは1997年。この会議をフル活用した最初の政治家が菅だった。さらに2014年に内閣人事局ができて以降、菅の影響力はさらに強まった。

・官邸官僚の象徴的な存在が、先にも触れた、首相秘書官を務めた今井尚哉だった。

(明日へ続きます……)


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