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豊島ミホ『夜の朝顔』

2007-04-29 16:07:14 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホ作品は7作目の「夜の朝顔」です。この7編の短編からなる本は、すべて小学生が主人公の話です。豊島さんは「最初から、誰にとっても小学生時代のアルバムになるように」というコンセプトのもと執筆されましたが、結果的に「しこり」のある話が多くなり、この本の読者がランドセルを背負った子どもたちを見かけた時、「ああ、あの子たちも楽じゃないんだよなあ」「子どもって単純じゃないよなあ」と思ってほしい、とあとがきに書かれています。登場人物の名前は皆同じで、主人公がセン(千里)、妹がチエミ、友人が茜と塔子、男の子がともっぺ、イシバタ。ただし、同一人物かどうかは定かではありません。学年も話によって違っているかもしれません。ただ、名前が同じなので、一話ずつ名前を覚え直す手間は省けます。と、くだらないおしゃべりはこの辺までにして、さっそく、あらすじを紹介していきましょう。
 第一話「入道雲が消えないように」では、海の近くに住む小1の私は、ぜんそく持ちの妹のため、遠くに友人と一緒に遊びに行けないのですが、夏のお盆の時だけは親戚のマリさんが妹の面倒を見てくれるので、マリさんの弟で小6の恍兄と遊びに行けます。ところが、今年の3日でマリさんは一人で帰ってしまったので、私は恍兄と遊びに行けなくなります。皆が帰って行った後「マリちゃん、もう来ないよね」と妹は泣き、私は妹の手を兄がしてくれたように、しっかり握り続けました、という話。
 第二話「ビニールの下の女の子」では、隣町の小2の女の子が行方不明になります。友人が竹林でビニール袋を見つけ、中身が女の子なのでは、と言います。私は翌朝ビニール袋の中身を確かめると注射器の束でした。女の子も見つかり、また日常が始まります、という話。
 第三話「ヒナを落とす」では、シノくんは気味が悪く、クラスの玩具にされています。新学期の初日、シノくんが鳥のヒナを拾い、学校へ持って行き、クラスで飼う事になり、その日だけはシノくんはクラスの玩具ではありませんでした。しかし、ヒナは翌日には死に、シノくんはまた玩具に戻ります。そして彼の家は火事で全焼し、引っ越してしまいます。私はシノくんにまつわる全てのことを早く忘れてしまいたいと思います、という話。
 第四話「五月の虫歯」では、五月の定期検診で、また多くの虫歯を発見されてしまった私は、両親の運転する車で日曜日に隣町のモダンな歯医者に行くことになります。診療後、隣の公園で、アザミという色の黒い子が話し掛けて来ます。母は外国の歌手で、両親はトーキョーで出会い、自分も早くトーキョーに行って、アイドルになりたいと言います。次の日曜日、アザミと同じ学校の子が、彼女は嘘つきだから気をつけるように、と警告します。公園に行くとアザミがいて、アザミを悪く言う人たちのグループと五分に渡り合っているのを見て、感心します。次の日曜日は雨でしたが、アザミはいました。彼女はママが歌っていた歌を歌ってあげると言い、「東京ブギウギ」を歌います。迎えに来たお母さんは、アザミの痣を見て、私に彼女のことを注意して見てあげるように言います。そして次の日曜日、また雨でしたが、アザミは千円札を一枚持ち、これでトーキョーに行こう、と歩き出します。ズブ濡れになって道を歩いているところを両親の車に拾われ、アザミは公園で降り、笑顔で別れますが、アザミの痣だらけの体を見て、私の両親は児童相談所へ行く話をしています。次の日曜日、私の虫歯治療の最終日、アザミは現れませんでした、という話。
 第五話「だって星はめぐるから」では、私は眠りの淵にかかると、いつも聞こえる歌があります。私と茜ちゃんと塔子ちゃんは、カツラがまた万引きの自慢話をしているのを聞きます。帰りに、茜ちゃんと塔子ちゃんはカツラのゲタ箱から靴を放り出します。翌朝、今度は茜ちゃんと塔子ちゃんの内ばきが校庭に転がっていました。茜ちゃんは汚れた内ばきをカツラの机にドンと置き、カツラと大げんかになります。先生が来て一応収まりますが、茜ちゃんは女の子たちにカツラをシカトするように言って回ります。カツラは私がノートに書いた例の歌の歌詞を見て「星座じゃない?」と言います。妹に聞くと、あっけなく「そうだよ」と言い、外に出られなかった頃、よくお母さんが歌ってくれて、天井にも蛍光塗料で北斗七星を書いてくれたことを話してくれました。私は人が知らない顔をまだいっぱい持っていることに気付く、という話。
 第六話「先生のお気に入り」では、4年生から担任の大場先生は「先生」らしくなく、25才ぐらいなのに覇気もないし、「ムダ話」が多くて面白い先生だ。バレンタインの日、茜は先生に受け取りを拒否されたと大騒ぎしています。昼食後、先生と二人きりになった私は、去年義理チョコをもらって帰ったら、彼女にひどく怒られたんで、今年から一切もらわないことにした、と言われます。しょうがないので、私は先生からタバコを吸わせてもらい、出る涙を先生にふいてもらいます。私は「私はとびきり良い子になろう。そうして、先生のお気に入りになるんだ」と誓うのでした、という話。
 第七話「夜の朝顔」では、クラスメイトの杳一郎の夢を見ます。杳一郎は体育が得意で、私はいつもボロクソに言われてるのに、夢に出てくるなんて、私は杳一郎が好きなのか?と自問する私。夢から覚めると、私の寝癖に話が及びます。しきりに寝癖を気にしながら学校に着くと、杳一郎が私の動作に目を付けて「それそれ、いっつもすごいよなあ、寝ぐせ」と言って爆笑します。するとチコちゃんが洗面所で櫛を入れてサラサラの寝癖のない髪にしてくれます。杳一郎に「私、朝と違うところない?」と聞くと「髪だろ。きれいんなった」の答え。しかし1時間目の体育で、杳一郎から散々けなされた上、私は悔しさで泣き出し、寝癖も復活してしまいます。私は帰りにチコちゃんと寄り道し、しろい櫛を買うことを決心するのでした、という話。

 この中で一番インパクトがあったのは「五月の虫歯」でした。虐待されている子が、どのような夢を持って現実の苦しさを逃れようとしているのか、その子の気持ちがひしひしと伝わって来ました。虐待の事実があざだけで表現されていること、その子が友人の前では明るく振るまい、大人の前では気が抜けたようになってしまうこと、こうした細部の積み重ねで、虐待の事実を表しているのですが、実際私たちが目にする虐待も、こうした形でした目にしないのだろうなあ、と思いました。最近まで子どもの虐待を扱うことが多い天童荒太氏の本を読んでいたので、余計こうした虐待の描写が新鮮に感じたのかもしれません。なおより正確なあらすじは「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のところにアップしてありますので、興味のある方はご覧ください。

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