今日紹介する豊島ミホ作品は「日傘のお兄さん」です。これは4編の短編と1編の中編「日傘にお兄さん」からなる短編集です。
第一話「バイバイラジオスター」では、就職活動中の私は、昔の彼の声が急に聞こえて驚きます。それはラジオのパーソナリティーの声でした。彼はラジオ局に就職してたのです。就職のため、東京に向かう車の中で、私のリクエスト曲・カーペンターズの「スーパースター」がかかります。今はスーパースターになって、ラジオでしか聞けなくなったあなたの声、という曲。私の思いは彼に通じたようです。泣きながら、やっぱり彼はいい声だなあ、と思う、というちょっといい話。
第二話「すこやかなのぞみ」は、神主の娘で神を信じる私は今まで何不自由なく人生を謳歌してきました。が、小6から付き合っている彼との初体験に挑むと、彼から病気の後遺症でインポであることを告白され、別れてくれ、と言われます。私は神社に行って、彼と私が望んでいることを考え、お祈りし、「さわって、私の体をさわって」と言い、ペッティングをし(ここの描写はちょっと刺激的)、幸福感に浸る、という話。
第三話「あわになる」では、交通事故で死んだ私は幽霊になり、私が死んだ日に結婚した、15才の時大好きだったタマオちゃんの家に居着きます。タマオちゃんの妻は、私のことが見えていて、今妊娠中の子どもに生まれ変わらないか、と勧められ、その決心をすると、胎児の意識の中にあわとなって散っていく、という話。
第四話「日傘のお兄さん」では、竹林の中の小屋で幼稚園生だった私は、白い日傘を持った優しいお兄さんと毎日のように遊んでいました。が、小学校に上がる頃に、お兄さんは急にいなくなり、私も離婚した母に連れられて東京に行きます。15才になったある日、家に帰ると、玄関にうずくまるお兄ちゃんがいました。追われているので味方になってほしいと言います。そこで、母のいる夜は外で過ごしてもらい、昼は家で過ごしてもらうことにします。
ある日登校すると、近所に幼女をかまう日傘おとこが出現している、というネット上での話題で盛り上がっていて、写真まで公開されていました。家に帰ってお兄ちゃんに告げると、一緒に旅にでようと言います。私はお兄ちゃんと遊んだあの竹林の小屋でもう一度楽しい時間を過ごしたくて、島根に行きたいと言います。
途中で、日傘おとこだ、と見破られるピンチをしのぎ、田舎の温泉宿に一泊します。翌朝、彼の口から、太陽光アレルギーで日傘が手放せない事、そのことでイジメに合い不登校になったという経歴を告白されます。私を訪ねて来たのも、どうせ僕の事なんか忘れている私を殺しにやってきたのだ、と言い、私の首を絞めます。私は頭突きで逃れ、「歪んでて醜いお兄ちゃんでもいいよ」と言って、お兄さんの心をほぐしてあげます。
目的地に着くと、彼は午前中はここで昼寝をし、午後は私と遊んでいた、と言います。ある日気付くと、彼の腹を枕にして私が眠っていて、起こすと可哀想なので、そのまま我慢してるうちに太陽光アレルギーで額にひどい火傷を負い、今もその痕が残っているのだ、と教えてくれました。またその時「よこしなな心で、私を触っちゃった。ごめんね。」と綺麗な瞳で告白されます。私はお兄さんの胸に頭を乗せ、お兄さんに尋ねます。「嬉しい?」「嬉しい」「よこしま?」「よこしま」「触ったらダメだよ」「ケチだな」と、ここで私は起き上がり「ケチとか言うな、幼女わいせつ犯!」と言い、竹の葉をお兄さんの上に蹴散らし、お兄さんも手探りに枯葉を掴んで私に投げ付け、私たちは楽しくて声を立てて笑いました。笑いが収まったところで、お兄ちゃんは、睡眠導入剤を私に飲ませて眠らせ、自分はそれを大量に飲んで、太陽光アレルギーによる火傷で自殺を図ります。
私は意識が回復すると、ヒステリー気味のママと無口のパパと、ひたすら謝るお兄ちゃんの父で、今私が入院している病院の院長先生に囲まれていました。お兄ちゃんは命を取り留めたようです。私はお兄ちゃんのことを弁護します。
私はその日のうちに退院し、刑事に粘り強くお願いして、お兄さんと会わせてもらえることになります。彼の部屋に入って行くと「一人にしてくれ、って何度言ったらわかるんですか」と不機嫌な声。「やっぱりスネてる」と私が笑い声をたてると、毛布がぴくりと動きました。それからは打ち解けて会話ができ、「もう私を捨てないんだよ」と私はくぎを刺します。そして「忘れないでね」とお互いに言い、別れました。
終業式の日、私は顔見せに登校すると、日傘ネタでさんざんからかわれ、私は嬉しくなります。親友のみっちゃんは私に抱きついて泣きます。お兄さんの話をすべてすると、彼女はケロっとした顔で「ていうか、夏美が大学は言ったら『お兄さん』30じゃん。おっさんじゃん」と言います。「だって、お兄さんはお兄さんだもん」と言うと、彼女は「ふ~ん、内緒にするね」とにっこり笑いました、という話。
第五話「猫のように」では、有名な画家の父から送られてくる多めの生活費で、私はこれまで定職にも就かず好き放題にやってきました。一人でいるのが好きでした。大学時代、唯一つきあった彼女は別れぎわ「淋しい人ね」と言います。父が死に、私に絵の具を残してくれますが、遺言にはただ一言「淋しい」と書いてありました。私は庭に咲いていた花をすべて切って、なじみのソープ嬢にプロポーズしますが、「彼氏いるんだよ。普通に考れば分かるじゃん」と泣きながら言われます。帰りに、家で餌をやっていた野良猫が年老いて路地で死んでいました。俺の人生も、猫みたいなものなんだろうな、と思うという話。
この5つの話の中では、4話の中編「日傘のお兄さん」が群を抜いて傑作です。冒頭の日傘のお兄さんが謎めいていて、彼が再登場し二人旅が始まるところからは、インターネットを敵にまわしての逃亡劇に手に汗握ります。そして活動的で純粋な思いやりのある主人公の女の子のキャラクターが、とても魅力的で、お兄さんと彼女の会話も、しゃれっ気があって面白く読めました。上のあらすじには書けませんでしたが、クラスの男子でぶっきらぼうな癖に主人公のことが好きなのがバレバレで、インターネット上で彼女を守る竹本君の話など、いい話がいくつかあります。
なお、この本のより詳しいあらすじは「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のところに掲載してありますので、興味のある方は是非ご覧ください。
第一話「バイバイラジオスター」では、就職活動中の私は、昔の彼の声が急に聞こえて驚きます。それはラジオのパーソナリティーの声でした。彼はラジオ局に就職してたのです。就職のため、東京に向かう車の中で、私のリクエスト曲・カーペンターズの「スーパースター」がかかります。今はスーパースターになって、ラジオでしか聞けなくなったあなたの声、という曲。私の思いは彼に通じたようです。泣きながら、やっぱり彼はいい声だなあ、と思う、というちょっといい話。
第二話「すこやかなのぞみ」は、神主の娘で神を信じる私は今まで何不自由なく人生を謳歌してきました。が、小6から付き合っている彼との初体験に挑むと、彼から病気の後遺症でインポであることを告白され、別れてくれ、と言われます。私は神社に行って、彼と私が望んでいることを考え、お祈りし、「さわって、私の体をさわって」と言い、ペッティングをし(ここの描写はちょっと刺激的)、幸福感に浸る、という話。
第三話「あわになる」では、交通事故で死んだ私は幽霊になり、私が死んだ日に結婚した、15才の時大好きだったタマオちゃんの家に居着きます。タマオちゃんの妻は、私のことが見えていて、今妊娠中の子どもに生まれ変わらないか、と勧められ、その決心をすると、胎児の意識の中にあわとなって散っていく、という話。
第四話「日傘のお兄さん」では、竹林の中の小屋で幼稚園生だった私は、白い日傘を持った優しいお兄さんと毎日のように遊んでいました。が、小学校に上がる頃に、お兄さんは急にいなくなり、私も離婚した母に連れられて東京に行きます。15才になったある日、家に帰ると、玄関にうずくまるお兄ちゃんがいました。追われているので味方になってほしいと言います。そこで、母のいる夜は外で過ごしてもらい、昼は家で過ごしてもらうことにします。
ある日登校すると、近所に幼女をかまう日傘おとこが出現している、というネット上での話題で盛り上がっていて、写真まで公開されていました。家に帰ってお兄ちゃんに告げると、一緒に旅にでようと言います。私はお兄ちゃんと遊んだあの竹林の小屋でもう一度楽しい時間を過ごしたくて、島根に行きたいと言います。
途中で、日傘おとこだ、と見破られるピンチをしのぎ、田舎の温泉宿に一泊します。翌朝、彼の口から、太陽光アレルギーで日傘が手放せない事、そのことでイジメに合い不登校になったという経歴を告白されます。私を訪ねて来たのも、どうせ僕の事なんか忘れている私を殺しにやってきたのだ、と言い、私の首を絞めます。私は頭突きで逃れ、「歪んでて醜いお兄ちゃんでもいいよ」と言って、お兄さんの心をほぐしてあげます。
目的地に着くと、彼は午前中はここで昼寝をし、午後は私と遊んでいた、と言います。ある日気付くと、彼の腹を枕にして私が眠っていて、起こすと可哀想なので、そのまま我慢してるうちに太陽光アレルギーで額にひどい火傷を負い、今もその痕が残っているのだ、と教えてくれました。またその時「よこしなな心で、私を触っちゃった。ごめんね。」と綺麗な瞳で告白されます。私はお兄さんの胸に頭を乗せ、お兄さんに尋ねます。「嬉しい?」「嬉しい」「よこしま?」「よこしま」「触ったらダメだよ」「ケチだな」と、ここで私は起き上がり「ケチとか言うな、幼女わいせつ犯!」と言い、竹の葉をお兄さんの上に蹴散らし、お兄さんも手探りに枯葉を掴んで私に投げ付け、私たちは楽しくて声を立てて笑いました。笑いが収まったところで、お兄ちゃんは、睡眠導入剤を私に飲ませて眠らせ、自分はそれを大量に飲んで、太陽光アレルギーによる火傷で自殺を図ります。
私は意識が回復すると、ヒステリー気味のママと無口のパパと、ひたすら謝るお兄ちゃんの父で、今私が入院している病院の院長先生に囲まれていました。お兄ちゃんは命を取り留めたようです。私はお兄ちゃんのことを弁護します。
私はその日のうちに退院し、刑事に粘り強くお願いして、お兄さんと会わせてもらえることになります。彼の部屋に入って行くと「一人にしてくれ、って何度言ったらわかるんですか」と不機嫌な声。「やっぱりスネてる」と私が笑い声をたてると、毛布がぴくりと動きました。それからは打ち解けて会話ができ、「もう私を捨てないんだよ」と私はくぎを刺します。そして「忘れないでね」とお互いに言い、別れました。
終業式の日、私は顔見せに登校すると、日傘ネタでさんざんからかわれ、私は嬉しくなります。親友のみっちゃんは私に抱きついて泣きます。お兄さんの話をすべてすると、彼女はケロっとした顔で「ていうか、夏美が大学は言ったら『お兄さん』30じゃん。おっさんじゃん」と言います。「だって、お兄さんはお兄さんだもん」と言うと、彼女は「ふ~ん、内緒にするね」とにっこり笑いました、という話。
第五話「猫のように」では、有名な画家の父から送られてくる多めの生活費で、私はこれまで定職にも就かず好き放題にやってきました。一人でいるのが好きでした。大学時代、唯一つきあった彼女は別れぎわ「淋しい人ね」と言います。父が死に、私に絵の具を残してくれますが、遺言にはただ一言「淋しい」と書いてありました。私は庭に咲いていた花をすべて切って、なじみのソープ嬢にプロポーズしますが、「彼氏いるんだよ。普通に考れば分かるじゃん」と泣きながら言われます。帰りに、家で餌をやっていた野良猫が年老いて路地で死んでいました。俺の人生も、猫みたいなものなんだろうな、と思うという話。
この5つの話の中では、4話の中編「日傘のお兄さん」が群を抜いて傑作です。冒頭の日傘のお兄さんが謎めいていて、彼が再登場し二人旅が始まるところからは、インターネットを敵にまわしての逃亡劇に手に汗握ります。そして活動的で純粋な思いやりのある主人公の女の子のキャラクターが、とても魅力的で、お兄さんと彼女の会話も、しゃれっ気があって面白く読めました。上のあらすじには書けませんでしたが、クラスの男子でぶっきらぼうな癖に主人公のことが好きなのがバレバレで、インターネット上で彼女を守る竹本君の話など、いい話がいくつかあります。
なお、この本のより詳しいあらすじは「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のところに掲載してありますので、興味のある方は是非ご覧ください。
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