宮田珠己さんが著書『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』の中で紹介していた、トニー・ロビンソンの'04年作品『図説“最悪”の仕事の歴史』を読みました。英国テレビ局「チャンネル4」の体験番組『ザ・ワースト・ジョブズ・イン・ヒストリー」は、2004年8~10月に放映された第1シリーズ(6回)で時代ごとに(ローマ、アングロ・サクソン、中世、チューダー、スチュアート、ジョージ、ヴィクトリアの各時代ごと)、2006年4月からの第2シリーズでは環境ごとに(都市部、王室、産業界、海上、田園地域に分けて)?最悪の仕事?をまとめ、人気を博しました。その第1シリーズを本にしたのが本書です。
「番組では、人気俳優のロビンソン自身がそれぞれの仕事を再現し、本当に体験してみせました。たとえば“ウミガラスの卵採り”では実際に海抜百メートルの崖で懸垂下降をしたし、“縮絨(しゅくじゅう)職人”では、なんと尿の入った桶にはだしで入り、生地を踏む作業をしました。さらに、“魚売り女”および“がみがみ女”では、鋏製の轡をはめられての市中引き回しと水責め椅子の刑を体験し、“絵画モデル”では、女性も含む美術学生の前で全裸でアポロンのポーズをとったのでした。もちろん、ヒキガエルを呑んだり死体を発掘したりという、実際には行えないこともありますが、再現ドラマや現地ロケで、さまざまなワースト・ジョブをフォローしました。」(以上は「訳者あとがき」からの引用)
ここで宮田さんの文章も引用させていただくと、「(前略)かつてヨーロッパには、現代では想像もできないような奇妙な仕事がどっさりあった。沼地の鉄収集人、コイン奴隷、焼き串少年(スピット・ボーイ)、泥ひばり(マッド・ラーク)、踏み車漕ぎ、ヒキガエル喰いなどと列挙された職種名を見て、いったいそれがどんな仕事か理解できる人はそうそういないだろう。みなそれぞれに最悪なのだが、本書の冒頭で紹介される反吐収集人などは、実に最悪だ。
ローマ時代、人は食べては吐き、食べては吐きしながら食事をしていたという。それ自体意味がわからんが、その吐いた反吐を掃除するのが奴隷の仕事のひとつだったというから、虚しいにもほどがある。臭いし汚いし、吐くんだったらおれにくれよ、と文句のひとつも言いたかっただろう。
さらに驚いたのは、武具甲冑従者である。
武具甲冑従者は、常に騎士のそばにいて、甲冑を清潔に磨き、その状態を整えておくのが仕事だった。それはわかる。問題は、騎士は、戦闘中、甲冑を脱ぐことはできないので、用を足したくなったら、そのまま甲冑の中にしたということである。(中略)甲冑の中での小便、いや、それどころか大のほうに至っては、一切誤魔化しようがなかったはずだ。従者はその掃除も担当した。
蛭採取人は、裸足で沼地の中を歩き回って蛭を集める仕事である。蛭に悪い血を吸わせるのは、当時の医療行為のひとつだった。なので、大量の蛭を供給するため、全国の沼地を歩き回り、自分の体に蛭を吸い付かせて集めたのである。
このほかにも、王の便をなめて健康状態を調べる御便器番だの、死刑執行人だの、(中略)、カツラのシラミとりだの、金の採掘だの、皮のなめし職人だのといった最悪の仕事が列挙されるなか、ひときわ私の目を引いたのは、隠遁者という仕事である。
18世紀の英国ではヨーロッパ本土への旅行が大ブームとなり、金持ちたちは、自分の屋敷や庭園に、そのとき体験したエキゾチズムを投影しようとして屋敷をローマ神殿ふうに改築したり、庭園を古典的な田園風景に作り変えていった。このとき、そんな庭にプロの隠遁者を雇ったのである。人生の儚さや、富の虚しさを瞑想する風雅で賢い苦行者が、庭園の隅にうろついていなければ、その景色は完成しないと考えられたからだった。(後略)」
英国でのそれぞれの時代の最悪な仕事が挙げられていて、上記以外にも火薬を運んだり、機械に巻き込まれる危険があったりと、命にかかわる最悪な仕事も沢山紹介されていました。当時の最底辺で生きる人々の生活を知る一助となる本だと思います。
→Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
「番組では、人気俳優のロビンソン自身がそれぞれの仕事を再現し、本当に体験してみせました。たとえば“ウミガラスの卵採り”では実際に海抜百メートルの崖で懸垂下降をしたし、“縮絨(しゅくじゅう)職人”では、なんと尿の入った桶にはだしで入り、生地を踏む作業をしました。さらに、“魚売り女”および“がみがみ女”では、鋏製の轡をはめられての市中引き回しと水責め椅子の刑を体験し、“絵画モデル”では、女性も含む美術学生の前で全裸でアポロンのポーズをとったのでした。もちろん、ヒキガエルを呑んだり死体を発掘したりという、実際には行えないこともありますが、再現ドラマや現地ロケで、さまざまなワースト・ジョブをフォローしました。」(以上は「訳者あとがき」からの引用)
ここで宮田さんの文章も引用させていただくと、「(前略)かつてヨーロッパには、現代では想像もできないような奇妙な仕事がどっさりあった。沼地の鉄収集人、コイン奴隷、焼き串少年(スピット・ボーイ)、泥ひばり(マッド・ラーク)、踏み車漕ぎ、ヒキガエル喰いなどと列挙された職種名を見て、いったいそれがどんな仕事か理解できる人はそうそういないだろう。みなそれぞれに最悪なのだが、本書の冒頭で紹介される反吐収集人などは、実に最悪だ。
ローマ時代、人は食べては吐き、食べては吐きしながら食事をしていたという。それ自体意味がわからんが、その吐いた反吐を掃除するのが奴隷の仕事のひとつだったというから、虚しいにもほどがある。臭いし汚いし、吐くんだったらおれにくれよ、と文句のひとつも言いたかっただろう。
さらに驚いたのは、武具甲冑従者である。
武具甲冑従者は、常に騎士のそばにいて、甲冑を清潔に磨き、その状態を整えておくのが仕事だった。それはわかる。問題は、騎士は、戦闘中、甲冑を脱ぐことはできないので、用を足したくなったら、そのまま甲冑の中にしたということである。(中略)甲冑の中での小便、いや、それどころか大のほうに至っては、一切誤魔化しようがなかったはずだ。従者はその掃除も担当した。
蛭採取人は、裸足で沼地の中を歩き回って蛭を集める仕事である。蛭に悪い血を吸わせるのは、当時の医療行為のひとつだった。なので、大量の蛭を供給するため、全国の沼地を歩き回り、自分の体に蛭を吸い付かせて集めたのである。
このほかにも、王の便をなめて健康状態を調べる御便器番だの、死刑執行人だの、(中略)、カツラのシラミとりだの、金の採掘だの、皮のなめし職人だのといった最悪の仕事が列挙されるなか、ひときわ私の目を引いたのは、隠遁者という仕事である。
18世紀の英国ではヨーロッパ本土への旅行が大ブームとなり、金持ちたちは、自分の屋敷や庭園に、そのとき体験したエキゾチズムを投影しようとして屋敷をローマ神殿ふうに改築したり、庭園を古典的な田園風景に作り変えていった。このとき、そんな庭にプロの隠遁者を雇ったのである。人生の儚さや、富の虚しさを瞑想する風雅で賢い苦行者が、庭園の隅にうろついていなければ、その景色は完成しないと考えられたからだった。(後略)」
英国でのそれぞれの時代の最悪な仕事が挙げられていて、上記以外にも火薬を運んだり、機械に巻き込まれる危険があったりと、命にかかわる最悪な仕事も沢山紹介されていました。当時の最底辺で生きる人々の生活を知る一助となる本だと思います。
→Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
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