また昨日の続きです。
彼はできるだけ早く劇場を去ろうとした。つらい体験に打ちひしがれ、自信も自尊心も消えていた。(中略)家に帰ると、テリーは熱いマリガンシチューを作って彼を待っていた。しかしカルヴェロはいらないと言った。「すべて終わりなんだよ……」「何ですって?」「今夜のことなんだ」(中略)「私に話してくれたこと、覚えていますか? 黄昏時の窓際で……あのとき何を言ったか覚えてます? 地球を動かしたり、木々を育てたりする宇宙の力について! そして人の内部にある力について━━それを使う勇気さえあればいいんだって!」自分でも気づかずに、彼女は 椅子から立ち上がり、彼のほうに歩いて行った。「いまこそ、あなたが教えてくれたことを実践するときよ━━その力を使うの━━そして戦うの━━」。そこで彼女ははっとしたように言葉を止めた……「カルヴェロ!」と彼女は叫んだ。「見て! 私が何をしているか見て! 歩いているの!━━歩いているのよ!」
(中略)「ねえ、カルヴェロ、私たちは幸運よ! これからは私が助けるわ。あなたがうまくいくまで」(中略)「まあ、アイデアはいくらでもあるさ!」と彼は遮るように言った。「それよ! それよ!」と彼女は繰り返した。興奮を抑えられなかった。「そのあいだに私は仕事に就くわ。エンパイア・バレエ団に戻ることもできる。まだ縁が切れたわけではないから」
(中略)テリーの予言は的中した。『ステージ』という劇場情報誌の求人広告に応え、エンパイアの仕事に申し込んで、ボダリング氏によって採用されたのだ。このダンス部門の監督は彼女のことを覚えていて、再会できたことを喜んでいた。(中略)カルヴェロはどうしていたかというと、ミドルセックスで失敗して以来、陰鬱な物思いに耽るようになった。あらゆる意欲を失い、また酒を飲み始め、すっかり老け込んだ。(中略)舞台から降り、鉄の扉を通り過ぎるとき、テリーは立ち止まって掲示板を読んだ。(中略)彼女が告知を読んでいると、ボダリング氏が現れた。「君の楽屋にメモを残したところだ。カルヴェロのことでね」とボダリング氏は彼女に言った。「明日の朝、リハーサル前に、カルヴェロを私のオフィスに来させてくれ━━九時半に。彼にぴったりの役があるんだ」「素晴らしいわ!」とテリーは言った。
(中略)カルヴェロ「しかし、私は興味がない。劇場とは縁を切った。〈クイーンズヘッド〉には近づかんぞ。あそこで私はじろじろ見られ……“過去の人”だって指さされるんだ! 嫌だ! しかも、私はもう面白くない! 喜劇役者を引退したんだ」彼女は彼の靴紐を解き終わると、微笑んだ。「明日になれば、また感じ方も変わるわ」
(中略)「ギャラは大したことはないけどね」と彼(カルヴェロ)は言い、指を三本立てた。テリーは嬉しそうに驚いた声を出した。「3ポンド!」カルヴェロは肩をすくめた。「これは最初の一歩だよ。もちろん、カルヴェロの名は使わないと言ったし、彼は同意した。あのボダリングってのはいいやつだ」。(中略)
リハーサルが始まってすでに2週間が過ぎていた。この日はカルヴェロが昼休みを使って新しいアパートを探しに行ったので、テリーは一人で待っていた。待っているあいだ、ふと振り返ると、ネヴィルが近くに立っていた。彼もテリーを見て驚き、微笑んだ。(中略)「私を知っている?」「ええ……つまり……許してください……以前会ったことがあるって確信はしてるんです」(中略)「どういう人かしら?」(中略)「文房具店で働いていた女性です。そこに僕は五線紙を買いに行ってたんです(中略)彼女は僕の最初の交響曲の初演に来てくれました。コンサートのあと、一瞬だけ彼女を見かけたんです。話しかけたかったのですが、チャンスがありませんでした。次の日、文房具店に行ってみましたが、彼女は何か月も前に辞めたと言われました。残念で……もう一度どうしても会いたかったのに……」「会いましたわ……」彼女の顔から血の気が引いた。(中略)「でも、彼女はそのときとても若くて、とても不幸せだったんです」とテリーは言った。「そしていまは?」「ずっと歳を取りました」彼は微笑んだ。「2歳だけですよ」(中略)「しかし、この瞬間(私は)ものすごく幸せなんです」と彼女は考え込むように言った。「そうなんですか?」「ええ、近く結婚するんです」「そうでしたか……それはどうも、おめでとうございます」(中略)
(また明日へ続きます……)
→サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
彼はできるだけ早く劇場を去ろうとした。つらい体験に打ちひしがれ、自信も自尊心も消えていた。(中略)家に帰ると、テリーは熱いマリガンシチューを作って彼を待っていた。しかしカルヴェロはいらないと言った。「すべて終わりなんだよ……」「何ですって?」「今夜のことなんだ」(中略)「私に話してくれたこと、覚えていますか? 黄昏時の窓際で……あのとき何を言ったか覚えてます? 地球を動かしたり、木々を育てたりする宇宙の力について! そして人の内部にある力について━━それを使う勇気さえあればいいんだって!」自分でも気づかずに、彼女は 椅子から立ち上がり、彼のほうに歩いて行った。「いまこそ、あなたが教えてくれたことを実践するときよ━━その力を使うの━━そして戦うの━━」。そこで彼女ははっとしたように言葉を止めた……「カルヴェロ!」と彼女は叫んだ。「見て! 私が何をしているか見て! 歩いているの!━━歩いているのよ!」
(中略)「ねえ、カルヴェロ、私たちは幸運よ! これからは私が助けるわ。あなたがうまくいくまで」(中略)「まあ、アイデアはいくらでもあるさ!」と彼は遮るように言った。「それよ! それよ!」と彼女は繰り返した。興奮を抑えられなかった。「そのあいだに私は仕事に就くわ。エンパイア・バレエ団に戻ることもできる。まだ縁が切れたわけではないから」
(中略)テリーの予言は的中した。『ステージ』という劇場情報誌の求人広告に応え、エンパイアの仕事に申し込んで、ボダリング氏によって採用されたのだ。このダンス部門の監督は彼女のことを覚えていて、再会できたことを喜んでいた。(中略)カルヴェロはどうしていたかというと、ミドルセックスで失敗して以来、陰鬱な物思いに耽るようになった。あらゆる意欲を失い、また酒を飲み始め、すっかり老け込んだ。(中略)舞台から降り、鉄の扉を通り過ぎるとき、テリーは立ち止まって掲示板を読んだ。(中略)彼女が告知を読んでいると、ボダリング氏が現れた。「君の楽屋にメモを残したところだ。カルヴェロのことでね」とボダリング氏は彼女に言った。「明日の朝、リハーサル前に、カルヴェロを私のオフィスに来させてくれ━━九時半に。彼にぴったりの役があるんだ」「素晴らしいわ!」とテリーは言った。
(中略)カルヴェロ「しかし、私は興味がない。劇場とは縁を切った。〈クイーンズヘッド〉には近づかんぞ。あそこで私はじろじろ見られ……“過去の人”だって指さされるんだ! 嫌だ! しかも、私はもう面白くない! 喜劇役者を引退したんだ」彼女は彼の靴紐を解き終わると、微笑んだ。「明日になれば、また感じ方も変わるわ」
(中略)「ギャラは大したことはないけどね」と彼(カルヴェロ)は言い、指を三本立てた。テリーは嬉しそうに驚いた声を出した。「3ポンド!」カルヴェロは肩をすくめた。「これは最初の一歩だよ。もちろん、カルヴェロの名は使わないと言ったし、彼は同意した。あのボダリングってのはいいやつだ」。(中略)
リハーサルが始まってすでに2週間が過ぎていた。この日はカルヴェロが昼休みを使って新しいアパートを探しに行ったので、テリーは一人で待っていた。待っているあいだ、ふと振り返ると、ネヴィルが近くに立っていた。彼もテリーを見て驚き、微笑んだ。(中略)「私を知っている?」「ええ……つまり……許してください……以前会ったことがあるって確信はしてるんです」(中略)「どういう人かしら?」(中略)「文房具店で働いていた女性です。そこに僕は五線紙を買いに行ってたんです(中略)彼女は僕の最初の交響曲の初演に来てくれました。コンサートのあと、一瞬だけ彼女を見かけたんです。話しかけたかったのですが、チャンスがありませんでした。次の日、文房具店に行ってみましたが、彼女は何か月も前に辞めたと言われました。残念で……もう一度どうしても会いたかったのに……」「会いましたわ……」彼女の顔から血の気が引いた。(中略)「でも、彼女はそのときとても若くて、とても不幸せだったんです」とテリーは言った。「そしていまは?」「ずっと歳を取りました」彼は微笑んだ。「2歳だけですよ」(中略)「しかし、この瞬間(私は)ものすごく幸せなんです」と彼女は考え込むように言った。「そうなんですか?」「ええ、近く結婚するんです」「そうでしたか……それはどうも、おめでとうございます」(中略)
(また明日へ続きます……)
→サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます