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高野秀行『アヘン王国潜入記』

2008-11-25 15:04:59 | ノンジャンル
 高野秀行さんの'98年作品「アヘン王国潜入記」を読みました。
 高野さんは世界の7~8割のアヘンを生産しているという、ミャンマー(ビルマ)のワ州の村に7ヶ月に渡って住み、アヘンの種を蒔いてから収穫するまでを体験し、最後にはアヘン中毒になってしまう体験を書いたのが本書です。ミャンマーの少数民族ワ族の反政府ゲリラであるワ軍政府が自治を行なうワ州は、タイとミャンマーの国境地帯にある山岳地域をその領地とし、ケシの実からとれるアヘンを主な収入源としています。高野さんは実際にどのようにして世界の7~8割ものアヘンが作られているのかを確かめに行くのですが、種を蒔いた後は、ひたすら毎日草取りをし、やがて村の習俗にも精通し、ケシの実からアヘンを収穫する時に運悪く体調を崩し、痛み止めに吸ったアヘンの魅力にやられ、軽いアヘン中毒になったところで村を去ります。
 高野さんの他の本と同じく、臨場感にあふれ、出て来るキャラクターも面白い人ばかりで、楽しんで読めました。ミャンマーの特殊な政治状況の勉強にもなり、ひと粒で二度おいしい本です。ドキュメンタリー好きな方以外にもオススメです。

マイケル・ムーア監督『シッコ』

2008-11-24 18:19:00 | ノンジャンル
 WOWOWで、マイケル・ムーア製作・監督・脚本の'07年作品「シッコ」を見ました。
 医療保険に入っていないため、足の傷を自分で縫い合わせる男性。指を切断した瞬間、医療費のことを考えたという男性。夫が心臓発作を3回繰り返し、妻がガンを患ったため、破産し、娘の家の物置き小屋に住むことになり、娘の夫から冷たくあしらわれる夫婦。医者が出す大量の薬の代金のために、79才でまだ働き続けている老人。給付金を出し渋る保険会社。保険会社の内情がいかにひどいかをメールで書き込みする多くの保険会社の従業員。給付金を払う可能性が少しでもある人は加入させない保険会社。大統領の夫のもとで、国民皆保険の制度を創設しようとするヒラリー・クリントン。それが社会主義に通じるとして反対する古参議員たちや医者たちは、レーガン元大統領の演説のレコードを聞くお茶会を全米で開きます。その結果、7年間皆保険の創立運動を封じられるヒラリー。その間、保険会社と製薬会社は空前の利益を計上し、ブッシュ大統領以下の数多くの議員へ献金し、高齢者の医療費が上がる法案が成立します。アメリカの保険と医療制度に愛想をつかし、カナダへ流れる人々を繋ぎ止めるようと、カナダの悪口を声高に叫ぶ保険会社のCM。カナダとイギリスの安価で充実した医療制度と、その起源と歴史。医療という点で、いかに米国の民主主義が踏みにじられているかの検証。フランスの平等で充実した医療制度と、パートにも与えられる長期の有給休暇を利用して安心して暮らす人々。民衆が真の力を持つフランス。ホームレスであふれるアメリカ。路を徘徊する入院患者と、医療費が払えず病院から路上に捨てられた入院患者。仲間を助けるために、慈善クジを売って治療費を捻出しようとする人々。9・11の救援活動でじん肺を患い、治療費で財産を失った女性救命士。医療費を払えなくなった9・11の救命士たちをヨットに乗せ、テロリストの収監されている、キューバに隣接するグアンタナモ基地に向かうマイケル・ムーア。彼らと医療制度の充実しているキューバを訪れるマイケル・ムーアと、改めてアメリカの医療制度のひどさを嘆き涙する元救命士。丁寧な診察を受け涙した後、キューバの救命士の人々と交流して友情を育む救命士たち。すべての人々は同じ船に乗っている同乗者であり、政治的な主義主張の違いなど些細なことにしかすぎないと主張するマイケル・ムーア。エンディング・タイトルの中で、いくつかの格言やメッセージが掲げられ、最後に「母に捧げる」の字幕で映画は終わります。
 何も言うべきことはありません。ドキュメンタリーとしても劇映画としても極めてすぐれた映画です。特に最後のマイケル・ムーアのメッセージは、多くの人に耳を傾けてほしいと思いました。文句無しにオススメです!

西木正明『流木』

2008-11-23 15:17:46 | ノンジャンル
 西木正明さんの短編集「流木」を読みました。
 「流木」は、アラスカで川下りをしていて、浮気した元反戦運動家の日本人妻と子供を射殺して、それを熊のせいにして熊狩りを続ける男に出会う話。
 「三日月湖」は、母と自分を捨てた男にアラスカまで会いに行き、当時パイロットだった男が極秘でキッシンジャーを中国へ運び、無理矢理アメリカへ帰らされていたことを知るという話。
 「エサ」は、ベーリング海峡に面した家で、飢えたシロクマに襲われる話。
 「甲板員ヒロシ」は、アラスカで日本の漁船から失踪した甲板員が、ロシアのスパイの子供であり、父に会いに行ったことが分かるという話。
 「サハラの薔薇」は、サハラ砂漠で恋人となった男女が、ウラン鉱を奪い合うスパイ同志と知ってしまう話。
 「青い砂漠」は、サハラ砂漠に取材に行った日本人が、仲間との恋に破れたアメリカ人の娘と出会う話。
 「暴れ谷」は、好きな女性を脅している男を、鉄砲水で殺した結果、それは彼女とぐるの男性を助けるためだったという話。
 「焚火」は、死んだ妻の妹で、結婚を控える若い女と、フライフィッシングをした後、焚火で骨酒を作って飲み、セックスする中年男の話。
 「キー・ワード」は、死んだ大学の同級生の妻と、関係していた自分を殺そうとして、わざとザイルを切ったことを同級生が謝る話。
 「山窩の女」は、飛行機事故で夫を失い、夫の実家に子供も奪われた女が、子供を取り返すため、ダイヤの埋めこまれた夫の頭部を山中で探しているのに出会った話。
 「ファイナル・ストライク」は、妻と浮気していた同僚のピッチャーからデッドボールを受けて右手の感覚を失った元プロ野球選手が、二人の部屋に爆弾入りの球をピッチングマシーンで投げ入れ、復讐を遂げる話、です。
 どの話も今一つインパクトに欠け、面白くありませんでした。西木さんは、船戸与一さんや高野秀行さんと同じく、早大探検部の出身ですが、高野秀行さんの面白さに及ばないのは言うまでもなく、船戸さんの小説と比べても、船戸さんが舞台となる国の政治状況をすべて織り込んでいる点で、船戸さんの方が優れているのかなと思いました。色んな国(特に辺境の地)を舞台にした小説が好きな方にはオススメかも。

溝口健二監督『赤線地帯』

2008-11-22 15:25:55 | ノンジャンル
 今日はaikoさんの33才のバースデーです。ハッピバースデーツーユー♪

 さて、WOWOWで、溝口健二監督の遺作となった'56年作品「赤線地帯」を再見しました。
 売春禁止法の成立が迫り、店を閉めるかもしれないと嘆く吉原の女将(沢村貞子)。主人(進藤英太郎)は議員の集まりに顔を出した後、売春婦たちの本当の味方は自分たちで、売春禁止法が施行されれば困るのはお前たちだと、売春婦たちに語ります。売れっ子のヤスミ(若尾文子)は見受け話を持ち出す客に対し、15万の借金があると言い、男が何とかすると言うと、強引にセックスに誘います。ヤスミはそのようにして客から巻き上げた金を同僚に貸して、利ざやで儲けていました。新顔のハデな関西娘のミッキー(京マチ子)は、ルールを破って同僚の客を奪い、また店から借金をして買い物をしまくります。病弱な夫と赤ん坊を抱えるハナエ(小暮実千代)は、生活苦にあえいでいます。ユメには息子が訪ねてきますが、こんな姿を見せられないと息子を帰してもらいますが、多分こずかいをもらいに来たのだろうと思い、商売に励みます。店を出れば借金が棒引きになる判決が出たことをハナエに教えてもらったユメは、息子と一緒に住むために、仲間たちから祝福されて店を抜け出します。ハナエの夫は妻に体を売らせていることを苦に、首を吊ろうとしますが、発見したハナエはそんな夫を泣きながらしかります。ヤスミは父が疑獄事件を起こして20万の金を返さなければならなくなったため、この商売に身を落としたことを語り、世の中金だと吐き捨てるように言います。そこへミッキーの父が訪ねて来て、ミッキーのことを心配しながら母が死んだと言って彼女を連れて帰ろうとしますが、それが家の名誉を守るためであり、また父がもう再婚したと聞いて、父の今までの女遊びをなじり、ママが死んだのはお前のせいだと責め立て、追い返します。ユメが息子に会いに行くと、息子はユメをお前呼ばわりし、汚いと叫び、絶交を言い渡して去っていってしまったので、ユメは発狂し、精神病院に連れていかれてしまいます。ヤスミは嘘をついて客にまた10万を出させ、それを受け取ると一緒になる気などないと言い放ち、客はだったら会社から横領した金だったので返してくれと頼みますが、ヤスミは拒否し、客と揉み合ううちに、殺されかけます。その夜、売春禁止法が国会で否決され、上機嫌の主人はまた売春婦たちに、自分たちがお前らの味方なのだと説教します。そこへ家主から家を追い出されたハナエの夫がやってきます。数日後、回復したヤスミは寝具店を開店します。大ケガをした父のためにやってきた処女の田舎娘が、新たな売春婦としてデビューし、ミッキーはおびえるその子に見本を見せてやると、その娘がおずおずと男を誘い始めるところで、映画は終わります。
 悲惨な内容ですが、淡々とリアルに描かれていました。仕草から声までとても色っぽい若尾文子、貧しさに負けず強く生きる小暮実千代、人生を達観しているようで、実は母思いだった京マチ子、それぞれに見事に演じ、素晴らしいキャスティングだと思いました。店の手伝いをするおばあさん役の浦辺粂子の演技も堂に入ったもので、なつかしいとともに偉大な役者さんだったなあと改めて思いました。惜しむらくは黛敏郎の音楽で、厳しい内容の映画を現代音楽で異化させようとの意図だったのだとは思いますが、画面自体が素晴らしいものだっただけに、その内容に沿った目立たない音楽を使った方が良かったのではと感じました。いずれにしろ、傑作であることは疑いようがありません。文句なしにオススメです。

高野秀行『巨流アマゾンを遡れ』

2008-11-21 18:20:13 | ノンジャンル
 高野秀行さんが'91年に出した「地球の歩き方・紀行ガイド アマゾンの船旅」という本を改題した「巨流アマゾンを遡れ」を読みました。普通の観光客として、アマゾンを河口から源流まで遡った紀行文です。
 まず、出発の準備として揃えなければならないものは「人それぞれ、勝手にしやがれ、だ。」と突き放し、それでも「最低、確保すべきものは、着るもの寝るところ食うものである。」と教えてくれます。アマゾンの河口を遡る際に揃えておくといいものは、船で寝る時に使うハンモック、ハンモック用の蚊帳(かや)、明け方に冷え込むので毛布、盗難予防で荷物を柱に縛り付けるための、犬の鎖と鍵、念のための水とトイレットペーパー、抜群に効く日本製の蚊取り線香なのだそうです。
 船でアマゾンを遡り始めてすぐに、著者は船の揺れに応じてブンブン揺れるハンモックに悩まされ、ジャングルの中に不夜城のように突然現れる、日本の巨大な製紙工場に驚きます。「昼夜を問わず、アブ、ブユ、蚊、ダニ、刺しバエ‥‥とありとあらゆる虫にやられ、全身、足の先からパンツの中まで、赤い跡だらけ、しかもそれがいつまでたっても、かゆい。ときどき、手が二本しかないのが耐え切れず、『わあっ』と叫んで、狂ったように、かきまくる。」という苦難にも会います。上流から下って途中で会うはずだった仲間は、何度も盗難に会い、会った時には、薄汚い格好で地面に座り込んで露店商の手伝いをしていました。インディオの村に潜入すると、そこではインディオ初の統一組織を結成するための決起集会が行なわれていたりするのです。こういう点は、僥倖に恵まれるという、高野さんの面目躍如といったところです。
 また、コロンビアは独立以来、一度も独裁政権が長期に行なわれたことがないという、中南米では稀な国であり、それくらい民主主義が発達しているので、軍隊が市民に対して礼儀正しく人なつっこいというのも、この本で初めて知ることでした。
 プロの写真家の方が同行しただけあって、見事な写真も豊富に見られ、とても充実した読書体験をしました。気軽に読め、また面白い。文句なしにオススメです。