常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

蛇の婿入り

2013年07月06日 | 民話


ある家の娘のもとに、ある夜、容姿端麗な男が訪ねてきた。男と娘はいろんな話をして夜をふかすが、それからというもの、夜毎に男は通ってくるようになった。娘は男の来訪を待つようになり、男は一夜もかかさず通い続けた。女は男の素性を知りたかったが、なぜか素性について語ろうとしない。男の来訪が続くにつれて女は痩せていった。

素性を明かさない男に疑問を持ち始めた女は、親にことの次第をうちあけて相談した。親は男の着物の裾に糸を縫いつけ男の居場所をつきとめるように教える。娘が男が引きずっていった糸を辿っていくと山奥の沼のなかに消えてしまっている。女は男が魔性の者であることをはっきりと知った。

親はその男は沼に住む蛇に違いないと言って、千本の針とひょうたんを持たせ、これを沈めたら妻になると言えと教えた。ある夜、女は男と連れだって男の家に向かった。行きながら男は自分は沼の主の大蛇であることを告白した。女はふところからひょうたんを取りだして、これを水に沈めたら、私はあなたの妻になりましょう、と言って沼に投げ入れた。

男はよろこんでひょうたんを沈めようとするが、何度しずめたても浮き上がってきてもてあます風であった。とうとういきり立って蛇に姿を変え、ひょうたんを沈めようした。それを見た娘は大蛇の姿に恐れおののきながらも、親に持たされた千本の針を沼に投げ入れた。針は蛇になった男の肌につきささり、蛇は苦しみながら死んでいった。娘は憑き物が取れたように、気も晴れて家に帰っていった。



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猫の恩返し

2013年06月09日 | 民話


山仲間のTさんの飼い猫である。玄関のまえで首に紐をつけられておとなしくしている。カメラを向けると「ニャー」と声を出し、カメラ目線になった。Tさんの猫は虎ではないが、お寺の年寄り和尚に飼われていた虎猫の話がある。飼い主の和尚に恩返しをする話だ。寺はもう訪れる人もなく、世間からも忘れられた存在だった。

ある日、猫が急に人間の言葉で、和尚に言った。
「ながい事お世話になったので、なにかお礼をしたい。庄屋の娘が死にそうだ。葬式のときオレがお棺を宙に引き上げるから、和尚さまが、虎ヤー虎ヤーとお経をあげてケロ・・」
まもなく庄屋の娘が死に、庄屋は村中の和尚と法印を集めて葬式を出した。

野辺送りの途中、村はずれの大木の下まで来ると、棺がスルスルと宙に引き上げられて、どうしてもおりてこなくなった。和尚や法印がさかんに読経を続けたが、棺はおりてこなかった。困りきった庄屋は、山の和尚にだけ案内を出さなかった事を思い出した。早速、使いを出して和尚に出向いてもらうことにした。

山の和尚はそこへ来て、もったいぶって
「なむからたんの虎ヤーヤー」
「なむからたんの虎ヤーヤー」とお経をよんだ。すると、棺はスルスルとおりてきて行列を続けることができた。ほかの大勢の和尚や法印は、まがわるそうに一人逃げ二人逃げして、いなくなってしまった。

庄屋は和尚をありがたがり、うやまい尊ぶことかぎりがなかった。山の和尚は、以後、庄屋の仏供で大きな寺を建て、安泰にくらした。
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ひとかき万倍

2013年06月07日 | 民話


銀行のロビーに、鬼の人形が展示されたいた。小物づくりの細かな芸である。この鬼にちなんで、山形に伝わる鬼が出てくる民話を紹介する。

爺に死なれた婆が団子をこしらえて供えようとするとネズミの穴に落ちこんだので、そのまま歩いていくと、地蔵さまがいて、うまそうだからといって団子を食ってしまった。地蔵さまに食べてもらってありがたいとおがんでいると、鬼がでてきて、決して粗末にしないかた島にきて飯炊きをしてくれ、といって鬼が島に連れていった。婆はそこで米がひとかき万倍に増えるヘラで飯をこしらえ、汁を煮た。

鬼たちは、うまい飯を炊いてくれるのでよろこび婆を大事に扱った。だが、なんぼ鬼どもから大事にされても、やっぱり人間が恋しくなるし、自分の住んでいた村がなつかしくなり、
『もう手伝いはよかんべ。村さかえしてくれ。』と、鬼どもに頼んだがなかなか帰してくれなかったど。婆の心には、望郷のおもいがふつふつとわき、ついにその島を逃げ出した。手には、万倍のヘラを持っていた。

追ってきた鬼どもにつかまりそうになったが、川があり小舟もあったので、それに乗り、ひとかき万倍のヘラで漕ぐと、川水が万倍にふくれあがり、水は逆流して鬼が島も水浸しになってしまい、鬼も追うのをあきらめた。婆は借りたヘラを地蔵の渡すが、地蔵はそのヘラをやるから、困った人を助けてやれ、言ってヘラを渡した。婆はそのヘラで食べものもない人たちに米を万倍にして食べさせたのでたいはんありがたがられた。

ロビーの鬼は、婆から逃げられて嘆いているような感じにできている。民話の世界では、鬼は人間世界のすぐ近くの隣人である。人間を困らせるようなことはしないのである。
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雪女郎

2012年12月19日 | 民話


昔々、村のはんずれの雪原さ二軒の家あったけど、吹雪の夜、白い着物を着た娘子が道に迷ってさまよっていたと。ようやく東の家にたどりついて、一夜の宿を願うと、「家には病人がいるから泊められね。隣の家に頼んでみろ」と嘘(ずほ)こいて追い返したと。
娘ァ、仕方なぐ、テデッポポーみだえな眼して、西の家さ行って見だれば、しどく貧乏な家だけど、こころよく泊めてくれたと。娘は涙ながして寝たと。

翌朝は、ウソのように晴れていい天気になったと。早く起きた西の家の主人が、娘が起きてくるのを待っていたども、なかなか姿を見せないもんだから、どしたことだとて起すえいったれば、もう娘の姿はなかったと。蒲団がビシャビシャに濡れていて、そこに金の塊が置いてあったど。

雪女郎ァ、この西の家の貧乏な親父のなさけに融けてしもて、宝物だけおいていってしまっただけど、ほれから西の家ァ、だんだん福しくなって、東のねっぴり親爺ァ、病気がてで、すっかり、しんしょうつぶしてしまったと。こだな吹雪の時ざ、、人ば泊めてやっと必ず福が授かるて言うごんだ。
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笠地蔵

2012年12月18日 | 民話


江口文四郎さんという民話を採集、研究する中学校の先生がいた。いま、山形に住んでいても、山形弁はだんだんに影をひそめている傾向であるが、この先生は山形弁の権化のような言葉で話された。「とんと昔があった」で始まる昔語りは、山形弁で聞かなければ面白くないような気がする。

---とんと昔があった。あるところに爺と婆がいた。いろり端であぐらをかいていた爺が、そばでボロつぎをしていた婆にこう言った。
「婆さ、婆さ、一年暮すのは早いもので明日は正月だなァ。餅でもつければいいのだが、餅米もないし、仕方ないからすりこ木で柱たたいて、音だけでもだすようにするか」
すると婆は、「爺っぁ爺っぁ、おらいままで黙っていて悪かったが、嫁にくるとき『ほんとうに困ったとき使え』といわれて貰ってきた銭があるから、それで餅米買ってきてくれろ」と言って木びつの底から袋に入った銭を出してきた。
「おやおや、そんな金があったのか。----それではあたたかい餅が食べられるなァ。」爺はよろこんで餅米を買いにでかけた。

雪がゾクゾク降っていて、ミノも笠もすぐに重くなるので落とし落とし行った。ずうっと行くと、道端に石の六地蔵が立っていて、雪をかぶっていた。
「ああ、地蔵さま方、なんぼか寒いべ。今、雪をはらってしんぜるから---」爺は六つの地蔵さまを、撫でるようにして雪をはらい、また歩いて行ったが、途中で考えた。
「婆さ大事にしまっていた銭だけども、地蔵さまださ笠買って行くべはァ。その方が婆さも喜ぶでないべか。」
爺は米屋に行かず、笠屋に行って、笠を買った。婆からもらってきた銭を全部はたいても五つしか買えなかったが、「ひとつ足りないところは、おれの笠をかぶってもらえばいい」と思って、爺はもどってきた。爺は行くときとおんなじに六地蔵の雪をはらい、笠をかぶせ、ひとつ足りないのには、自分の笠をはずしてかぶらせて、戻ってきた。

「婆さ婆さ六地蔵さまァ雪かぶって寒がっておりもうしたので餅米買わねで笠買って、かぶせてきた---」というと、婆は「それはいい事したなァ、爺さ---」と喜んだ。
元日の朝、爺と婆は暗いうちに起きた。爺は「よいボボ(餅)よい!よいボボよい!」とかけ声をかけてすりこ木で柱をたたいた。婆はたすきをかけて、餅をかえすまねをした。
そうしていると遠くから、「よいさ!よいさ!よいさ!よいさ!」というかけ声が聞えてきた。爺と婆とが、なんだと思って聞いていると、かけ声はだんだん近づいてきた。戸口まできたとおもったら、バタッと聞えなくなった。爺と婆がワラワラ出てみると、そこには、ポウポウと湯気の出る餅があった。そうして、あっちの方、雪の原を新しい笠をかぶった地蔵さまがヨッコラヨッコラ急いで行くのが見えた。

雪の降る夜、囲炉裏のまわりに子どもたちを集めて、お婆さんが、昔を聞かせたのはテレビやラジオのない、時代であった。生きたお婆さんの口から出てくる言葉は、子どもたちの心をわしづかみにした。

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