常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

斉藤慎爾『寂寵伝』

2012年03月28日 | 日記

懐かしい思いにかられながら、この本を読んだ。
瀬戸内晴美の文学の師であり、内縁の夫でもあった小田仁次郎についてである。

小田仁次郎は山形県東置賜軍宮内町の開業医小田金之助とたかの次男に生まれた。
父は医のかたわら俳句を趣味として半酔楼と号した。母たかは宮内アララギ会に
入って短歌の勉強に励んだ。いわば文芸一家に生まれた。
宮内アララギ会いえば黒江太郎であり、その流れに原知一先生も列しておられた。

斉藤慎爾もまた山形の出身である。満州で生まれたのだが、帰国後は父の実家で
ある飛島で育った。海の向こうに鳥海山を望み、夜は酒田の灯台の灯を見ながら育った。
慎爾は少年の頃から俳句に親しみ、早くからその才能を認められた。

日食や父には暗き蟻地獄

雁帰る父の山また母の川

私は昭和34年山形大学の学寮で慎爾さんに出会った。
春休みは殆どの寮生は帰省したが、北海道からきていた私や飛島の慎爾さんは
帰省せずに寮に残っていた。五人部屋の一角を本で仕切って自分の一角とし、
本に埋もれるようにして本読む慎爾さんがいた。

暇をもてあまして遊びにいくと、慎爾さん後輩である私たちに気さく話してくれた。
吉本隆明や埴谷雄高など、文学に縁のない難しい話だったが、ユーモアを交えて面白く
話してくれた。井上光晴や美空ひばりなどの話も出た。

伝記文学と私小説という二つの山脈を書き分けた寂聴について書く斉藤慎爾もまた、
その伝記文学の担い手して歩みを続けているように見える。

コメント
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