ここへ来て、三日間隔で空の景色が変わる。異常気象といえども、すっきりとした青空は心を和ませてくれる。中天に向かって少しずつ、お青味を増していくグラデーションがなんとも心地いい。空が曇ると心も暗い。近所の人にあったも、無言で頭を下げていることが多い。やはり青空の日の方が、声もだしやすくなる。「春眠暁を覚えず」という句があるが、10時過ぎに寝て、朝の6時近くまで眠ることが多くなった。春の陽気は、睡眠にもよい環境を与えてくれるようだ。昔話に『鬼が笑う』というのがある。曇りが笑わぬ娘とすれば、鬼が笑うのは晴れた空を意味する。鬼に嫁いだ娘が、鬼のもとを逃れ舟で下るが、鬼は川の水を一飲み。水が引いて、娘を乗せた舟は鬼のところへどんどん吸い寄せられていく。そこで娘が取った策は鬼を笑わすこと。堪えきれず吹き出した鬼は、川の水も吐出してしまう。こうして娘は窮地を脱する。空はこの日のように晴れ渡っていた。
寝ながら聞いた昔話は『浦島太郎』。貧しい浦島は、年老いた母を養うために、海に舟で釣りをする。ところがかかってきたのは亀。これでは、母に食べさすこともできないので、海に逃がす。再度、挑戦して今度は鯛がかかったと思うがまたしても亀。こうして三度亀を釣り上げ、三度逃がす。そうして現れたのが、龍宮からの迎えの舟。「龍宮城を見物しませんか」と船頭が誘う。水先案内は、逃がしてやった亀である。浦島にとって龍宮こそは、極楽浄土であった。やさしい乙姫、多くの美しい魚たち。春夏秋冬、季節の美を見せる城の庭。母のことが気になりながらも、3年の月日があっという間に過ぎる。飢えた母を思い出して、乙姫に別れを告げ、土産に玉手箱を貰う。舟で懐かしいわが家に帰れば、あった筈の木は枯れ、家は無くなっておもかげもない。
乙姫と浦島は結婚しおたのだろうか。河合隼雄は『昔話と日本人の心』のなかで美しいが結婚の対象とできない女性像を、乙姫とともに「かぐや姫」をあげている。竹から生まれた「かぐや姫」この世にいないような美人で、多くの貴族から求婚されるが、ことごとくそれらを拒絶し、やがて月世界に迎えられる。羽衣伝説もまた、飛べなくなった白鳥の悲しい話と伝わる。毎晩、こんな話を聞きながら眠りのつくのは、古い日本人の心の世界を旅して歩くことでもある。