常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

勧酒

2015年03月19日 | 漢詩


「花発きて風雨多し 人生別離足る」は唐の詩人于武陵が詠んだ「勧酒」の一節である。井伏鱒二がこの詩を訳して、「ハナニアラシノタトエモアルゾ サヨナラダケガジンセイダ」と訳したことは、井伏の『厄除け詩集』で知られる。井伏鱒二を文学の師と仰いでいた太宰治は、酒場で酔うと口癖のように、この「サヨナラダケガ人生ダ」を愛唱したために、この詩が有名になったという話がある。

太宰治の絶筆は、昭和23年に朝日新聞に連載のために書いた『グッドバイ』である。新聞社には10回分の原稿が渡されており、6月13日に心中を遂げたとき、太宰の部屋には13回分までの原稿と10回分の校正刷りに朱を入れたものが残っていた。この作品の作者の言葉がある。

  唐詩選の五言絶句の中に、人生足別離の一句があり、私の或る先輩はこれを「サヨナラ」
  ダケガ人生ダ、と訳した。まことに、相逢った時のよろこびは、つかのまに消えるものだ
  けれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情のなかに生きていると言っても過言
  ではあるまい。題して『グッドバイ』現代紳士淑女の別離百題と言っては大袈裟だけれど
  もさまざまな別離の様相を写しえたらさいわい。

于武陵の詩は、太宰治の絶筆のテーマになったが、この詩は人生へのお別れを詠んだものではない。その詩の前段は「君に勧む金屈巵 満酌辞するを須いず」となっていて、井伏の訳は「コノサカズキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ」となっている。別れる友へ、酒を勧める詩である。
  
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