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昨日、晴れ間に時間を作って、山菜を採りに行った。まだワラビに早く、つるが伸びはじめたアケビの芽を摘んだ。妻は熱心に土筆を摘んでいる。杉菜の胞子茎で、一種の花である。つくしんぼ、筆の花とも呼ばれている。斉藤茂吉は翁草に、少年時代を回想したが、土筆をみて故郷への懐旧の念を起こす人も多いのではないか。
くれなゐの梅散るなべに故郷につくしつみにし春し思ほゆ 子規
生駒に住むご夫妻と、一家揃って最上川の船下りをしたことがある。前の夜は湯船沢温泉で山菜料理を食べた。関西の人たちには、コシアブラなどの山菜はよほど珍しかったのであろう。山のどのような木の新芽かと、しきりに知りたがった。山でコシアブラの木を教えると、しきりに写真に収めていた。こんな方法で山菜を識別できるのか少し不安であった。
船を降りて船着場に着くと、道の両脇に土筆が、それこそ群生していた。生駒のご夫妻は、ビニール袋を取り出して、この土筆を採り出した。「生駒には土筆はないんですか。ここから持っていくのは大変でしょう」と聞いてみた。「皆、土筆が大好きで、あっという間に採られて無くなりますのや」と言う。それではと、こちらの家族も土筆摘みを手伝った。そのとき聞いた土筆の調理法を、妻はいまも覚えていて、年に一度くらい土筆の佃煮を作る。
土 筆 室生 犀星
旅人なればこそ
小柴がくれに茜さす
いとしき嫁菜つくつくし
摘まんとしつつ
吐息つく
まだ春浅くして
あまた哀しきつくつくし
指はいためど 一心に土を掘る