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先週の末までこんな日ざしのなかにツバキが花を開いていたのに、爆弾低気圧のために強風と雨に悩まされた週末であった。そこで雨の日は読書ということになる。楽天の電子書店を覗いて、貯まったポイントで八木沢里志『続・森崎書店の日々』を購入する。数か月前に読んだものの続編である。
この本を読み終わるまで、作者が女性であるとばかり思っていた。この小説の文体が女性の手になるものであるように思えてならないのだ。小説に登場する主人公の貴子や癌に冒されて死んでいく叔父の妻桃子の内面描写がキメ細かく、女性の観察眼であることを類推させるのだ。
前編に引き続いて読んでいくと、そこには都会で生きていく人間の姿があり、そうした人間へのいとおしみが全編に流れている。何よりも惹かれるのは、小説の舞台が東京神田の古書店であることだ。ここへは自分も東京に行くたびに立ち寄り、何軒もの古書店をハシゴして古書を買ったこともある。だが、突然にこの街に行っても、何を買ってよいのか、呆然とするばかりである。
この小説に登場する森崎書店の常連客のように、毎日でかけてひやかし、書店の主人の話を聞きながら、古書祭りに参加して街にとけこんでいく必要があるのだ。癌で死んでいく桃子は書店の手控えに遺書を残していった。最愛の妻を亡くして打ち沈む夫への励ましである。雨の夜、この手記に涙を流しながらの雨読となった。