蒸し暑い一日になった。九州では豪雨が続いている。昨日、知らない弁護士から1通の封書が届いた。開けてみると、債権者等各位とある。「不況の波をうけ、債務超過、支払い不能となりもはや営業を続けることが困難となりました。このうえは、法的に破産手続きによらざるをえず、自己破産の申し立てをすることになりました」とある。真面目な男で、仕事も順調に会社を大きくしてきた。ズバッと芯の通った面倒見のいい男で、友人も多かった。私が初めて選挙に出た時、彼に事務長をやってもらった。
彼から「お願いがある」と言われて会社へ行ったのは、2年前だった。「お金を貸して欲しい」と言う。「今は景気が悪いけれど、そのお金があれば乗り切れる。必ず返す。毎月10万円振り込むので、2年分の240万円を貸して欲しい」。カミさんも知らない300万円ほどの預金があった。市長に当選したら、事務所に改装するための費用だった。世話になった男の頼みである。返済の時期が伸びることがあっても、彼ならば必ず返してくれるだろう。そう思って貸した。
翌月の振込みはなかった。遅れることも仕方ないと思っていたが、半年経っても振り込みはなかった。10ヶ月待って、会社に行くと、「必ず返す。もう少し待って」と言う。それからも振り込みはなかった。2度ほど会社に行ってみたけれど、「もう少し待って。必ず返す」と繰り返す。男の友情を信じるべきかと思いつつも、返さないつもりかも知れないという不信が湧いてくる。そんな男じゃーない。義理すら通らなくなっているのだ。そんな思いが堂々巡りをしている最中だった。
私の家は材木屋だったけれど、兄貴が保証人となったことが直接の契機で、つぶれてしまった。叔母さんが「どうして相談してくれなかったの」と憤慨して泣いていた。私は兄貴を見て、絶対にギャンブルはしない、保証人にはならないと決めた。だから、卒業生の子が事業に失敗して「お金を借りるから、その保証人になって欲しい。絶対に迷惑はかけない」と頼みに来た時、断った。お金を貸してくれというのであれば、その金額にもよるけれど、返ってこなくてもいいと思って貸しただろう。しかし、保証人はいくらになるのか分からない怖さがある。
卒業生のクラス会の案内が来て、出席したが安心した。保証人を断ったために彼がどん底の苦しみの中にいたらと思ったが、高校時代と変わらない明るさがあった。どのようにして立ち直ったのか知らないが、本当によかったと心から思った。真面目に働いていても、どこかで落とし穴に嵌まってしまう人もいる。情けないけれど、人にまで迷惑をかけないことのないように努めることが人の生き方のような気がする。力になれなくて、本当に申し訳ない。けれど、詰まるところは自分の力で生き抜くしかない。