『震災から学ぶ―おたすけ秋の研修旅行』は、出発から多難だった。仲間が急に行けなくなったことは致し方ないとしても、まさかこんな困難に見舞われるとは思いもしなかった。台風26号が一気に近づいて来ていた。本土への襲来はないだろうとの希望的観測を覆し、東海・関東・東北は暴風圏となった。前日にコールセンターに飛行機が飛ぶかと聞くけれど、「判断は空港で聞いてください」と言うばかりだ。
参加者全員に「旅行には出かける。どうするかはその場その場で決める」と連絡する。こちらから一緒に行く人だけではない、神奈川県川崎市からも参加するから、場合によっては行き先を変更してもいい、そう覚悟をした。16日午前6時30分、名古屋空港に集結した。飛行機が飛ぶのか否かをじっと待つ。私たちの他にもツアー客もいればビジネスマンもいる。フライト時間の直前になって、「欠航」とアナウンスがあった。
川崎市の仲間は既に家を出ている。私たちも急いで東京まで行き、そこで落ち合うことにする。帰りの18日は良い天気との予報だったので、往きの便だけをキャンセルして名古屋駅往きのバスに乗る。新潟へ帰る人、岩手へ行く人、空港から仕事に出かける人、栄の会社へ出勤する人らが一緒だった。バスに乗ると目の前に虹が大きな半円を作っていた。風もなく穏やかな早朝である。ところが、名古屋駅に着くと大勢の人でごった返していた。
新幹線は動き出していたけれどダイヤは大幅に遅れていた。在来線は運休のものもある。伊勢参りの人、その帰りの人が目につく。ところが新幹線の改札口・ホームは背広姿の人々で混み合った。自由席で行けば早く着くだろうが、何時間かかるか分からないのに席がないのでは老人には無理だ。行き先を仙台として、東海道新幹線の座席指定を買い、とにかく東京へと向かう。名古屋は青空だったが、東へと向かうに従って雲が広がっている。
ケイタイがなければ落ち合うことが出来なかっただろう。お互いに自分がいる場所を伝え合ってもさっぱり分からない。駅員もそれどころではないほど忙しい。川崎からの仲間に、「行き先を仙台までに変更し、東北新幹線のホームで落ち合いましょう」と連絡する。午後1時過ぎ、東北新幹線「やまびこ」が東京駅を出発する。私たちは名古屋駅を出て3時間かかったが、川崎からの仲間は東京駅に着くまでに6時間かかった。東北新幹線も遅れてはいたけれど、午後3時前には仙台に到着できた。