友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

『さよなら オレンジ』を読んで欲しい

2018年09月02日 18時17分14秒 | Weblog

  8月は余りにも暑かったので、エアコンの効いた部屋で読書することが多かった。私は小説よりも評論のようなものを読むことが多いのに、今年はどういう訳か小説を読んだ。その中で、岩城けいさんの『さよなら オレンジ』(ちくま文庫580円)は、ブログの読者にもぜひ読んでもらいたいと思った。

 小説は、「サリマの仕事は夜が明けきらないうちから始まり、昼近くに帰宅した。家につくと洋服をむしり取って裸になり、すぐにシャワーを浴びた。」で初まるから、主人公は外国人女性だと推測出来た。「サリマの髪は櫛の目が通らないくらい縮れて耳たぶの上あたりでいじけたように蹲り、水滴がそのうえをだらしなく砕けては流れ散った。それでも、なめした革のような黒い肌はすべすべしていたし」とあるので黒人女性だと分かった。

 サリマがどんな仕事をしているのかが描写され、どこに住み、息子たちがいることも分かる。なのに、次の章は全く違う人が書いた手紙が載っている。「ジョーンズ先生」に宛てたこの手紙は、言語を研究している夫と4カ月の娘がいる母親で、彼女は英語で物語を書こうと、ジョーンズ先生に手ほどきを受けていたようだ。サリマと同じように母国語が通用しない英語圏に住むふたりの女性は英語学校で出会う。日本人の女性とアフリカから避難してきたサリマがこの小説の主人公なのだ。

 サリマは全く勉強する機会に恵まれなかった。戦乱の母国から家族で逃げ出してきた。母親とはぐれてしまい、助けてくれた男と結ばれ、やっとの思いで夫と二人の息子の4人でこの国へ辿り着いた。夫は「女はバカだ」と口癖のように言う。サリマが食肉の解体作業の職に着いた時も、非難しやがて家を出て行った。

 日本人女性の夫は研究一筋で、彼女は娘を失う。その二人の絶望がどうやらこの小説のテーマのようだ。というか、ふたりの女性の生き方が変わっていく、そこがテーマなのかも知れない。「小説という芸術形式の特権のひとつは、他社の内面を明らかにすることである」と小野正嗣さんが「解説」に書いている。サリマは差別と取り組み、日本人女性も自分を見詰め直す。ぜひ、読んで欲しい小説である。

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