街の写真屋さんは若いのに面白い人だ。フィルムを扱う写真屋さんが無くなったので、彼はひとりで朝から晩まで現像とプリントに追われている。一日中ひとりでいるせいか、私が顔を出すといろいろと話しかけてくる。プリントした写真を袋詰めしながら、写真の主の話をし始めた。
私と同じくらいの歳のその依頼主は、息子からタブレッドを与えられ、「息子さんや娘さん、孫たちからたくさんの写真が送られてくるが、『どうしてもプリントして見たい』と持ってみえる」と話す。私も同じでタブレッドで見ても、いいねと思うものはプリントしておきたくなる。
「この頃はみんな持ってるじゃーないですか。下向いて画面しか見てない。ここでは顔と顔を見て話すようにしているんです」と言う。誰もが発信者になれる。台風の時の凄まじい映像がテレビで流されたが、多くは素人が写してSNSで発信したものだ。新聞はたくさんの記者・カメラマン・校閲者・編集者がいて、さらに印刷するから資金がなければ発行できない。
SNSの世界では、資格も中身の正確さも全く関係ない。トランプ大統領が「新聞やテレビは嘘つき」とツイッターで発信し、支持を集めているがうまい手だと思う。SNSを規制すべきだと言う人もいるが、私は反対だ。どんなデマや誹謗中傷であっても、発信することを規制すべきではない。人間はいつか、何が正しくて何が間違っているか、受け取る側がまず判断できるようになること、そうすれば発信する側は自らを高めていくことになる。
誰もが発信者になれるのは人類史上初めてのことだ。この画期的な権利を活かせないのであれば人類は滅びの道を進むしかない。ルーフバルコニーの鉢のどこからか、虫の音が聞こえる。地上30メートルはあるこのバルコニーにどうやってやって来たのか不思議だが、やっぱり秋になってきたと実感する。