オウム真理教の麻原らに死刑が執行された時、幹部たちのプロフィールが新聞に掲載された。どうしてこんなに難度の高い大学を卒業した人たちが、麻原に傾倒していったのだろうと改めて思った。死刑囚ではなかったが、当時ナンバー2と言われていた村井秀夫についても書かれていた。彼は多くの報道陣の前で、右翼を名乗るヤクザに刺し殺された。ああ、そんな事件もあったとほとんど記憶から消えていたことを思い出した。
村井の記事の中に、入信を決めた彼を止めようとした両親に1冊の本を見せ、「これを読んでくれれば、私の気持ちが分かる」と言ったとあった。そんなにも彼を駆り立てた本、『かもめのジョナサン』には何が書いてあるのか、読んでみたいと思った。『かもめのジョナサン』はアメリカの作家リチャード・バックが1974年に発表した作品で、ヒッピーたちから徐々に広がり、『風邪と共に去りぬ』を超えたベストセラーになった。
私が買ったのは、2015年発行の新潮文庫の完成版である。2013年、リチャード・バックが序文に、最終章のPart Fourが見つかったいきさつと加えた意味を書いていた。そう思って読むと、なるほどこの小説におけるPart Fourの意味は大きいと思った。ジョナサンは風変わりなかもめで、高く飛ぶことや低く飛ぶこと、そして速く飛ぶことにとても深い関心がある。飛ぶ研究を続けているうちに、エサを捉えるために飛ぶのではない、もっと別な深い意味があると考えるようになる。
かもめたちの掟に従っていてはダメだ。目るものだけが真理ではない。自由は自分を信じることから生まれる。こうした真理を見極めたいという思いが、彼を新しい世界へと彼を導いていく。それだけでない、ジョナサンのようなかもめは他にもいたのだ。ジョナサン以上に能力のある先輩に学びながら、彼は自分のような後輩を指導しようと元の場所に戻る。村井秀夫がジョナサンに引き付けられたのがよく分かった。