風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

爆買い中国の行方

2016-03-18 00:23:07 | 時事放談
 数日前の日経によると、米ホテル大手のスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドは、マリオット・インターナショナルによる買収に合意していたが、対抗馬が現れたことを発表したらしい。詳細は明らかにされていないが、WSJによると、2014年にマンハッタンの高級ホテル・ウォルドーフ・アストリア・ニューヨークを約19億ドルで買収すると発表したことで注目された中国保険大手の安邦保険集団が主導する企業連合という。シェラトン、ウェスティン、セントレジスなどの高級ホテルを展開するスターウッドと、マリオットと、いずれのメンバーでもある私は、両者の合併を心から歓迎していたのだったが、とんだ邪魔者が入ったものだ。
 NYのウォルドーフ・アストリアと言えば、Wikipediaによれば、かつて同市を訪れる歴代アメリカ大統領や、日本の昭和天皇をはじめ各国・国王などの元首クラスの賓客が数多く宿泊する超高級ホテルとして知られており、アメリカ政府は42階のスイートルームをアメリカの国連特命全権大使の公邸として借り上げていたというし、アイゼンハワー大統領やフーヴァー大統領、ダグラス・マッカーサー元帥などが自邸として使用したこともあったという。中国資本の買収により、大規模な改修を行なう予定とされると、盗聴器が仕掛けられる可能性が取り沙汰されて、数十年間にわたって国連総会の時期に利用してきた米国国務省は、昨年から防諜を理由に利用しないことに決めたらしい。もしスターウッドが中国資本に買収でもされたら、私ごとき、重要情報とは何の縁もない男でも、なんだか心穏やかではいられないのだから、中国ブランドの信用のなさには困ったものである。
 その中国資本は、世界中で様々な爆買いに手を広げ、世界中で懸念が広がっている。
 オーストラリアのターンブル新政権は、昨年11月、中国企業が売却を計画していた世界最大規模の牧場について、安全保障上の理由から承認を拒否したことが報道されていた。そう言えば、私がシドニーに駐在していた2008年にも、オーストラリア軍施設に隣接する敷地内に通信機器を敷設する工事を中国企業が請け負うのを、政府が承認しないことがあったものだ。
 アメリカでは、昨年10月、ハードディスク駆動装置(HDD)大手の米ウエスタン・デジタル(WD)が、半導体メモリー大手の米サンディスクを約190億ドルで買収することを発表した。サンディスクと言えば、東芝が2000年にNAND型フラッシュ事業で提携し、合弁会社を設立して四日市工場を共同運営してきた間柄である。サンディスクの買収には、WDのほか、DRAM業界3位の米マイクロン・テクノロジー.も興味を示していた。マイクロンと言えば、2013年にエルピーダメモリを買収し、デジタル機器に欠かせないNAND型フラッシュとDRAMの両方を手がける総合メモリ・メーカーである。これだけ聞けば、米国企業同士の買収案件ということで終わってしまうが、驚くべきことに、これらの買収合戦の裏に、清華大学が出資する中国政府系の半導体大手・紫光集団がいる。
 中国は、半導体自給率を高めるため国家IC産業発展推進ガイドラインを策定し、紫光集団はその先兵隊という見方がある。その紫光集団は、米ヒューレット・パッカードの子会社H3Cテクノロジーズ(もとは華為と3Comの合弁会社)を55億ドルで買収し、半導体封止・検査大手で世界最大の台湾・力成科技の株式25%を取得して筆頭株主となり、半導体受託で世界大手の台湾TSMC株式の25%取得にも乗り出しているとされる。そして昨年夏、マイクロン買収を打診し、更に9月にWD株式15%を38億ドルで取得して筆頭株主の座につくことで合意した.。マイクロンとWDと、いずれがサンディスクを買収しようと、紫光集団としてはサンディスクを経由して東芝の技術にアクセスできる可能性があったわけである。
 ところが三週間前の日経によれば、紫光集団はWDへの資本参加を断念すると発表した。この件に関して、米当局が調査に入ることを決めたためという。同じ記事の中で、紫光集団によるマイクロン買収も、その後「その件には答えられない」(紫光の趙偉国董事長)という状態が続き、進展はないと見られている。
 もはや中国マネーは単なるビジネスにとどまらず、国家の安全保障に直結し、米国では当局の認可の問題で中国企業によるM&Aが実現しない例が増えている。実のところ、昨年9月の米中首脳会談で最大の議題は米中投資協定だったと解説する研究者がいる。日本では殆ど報道されていない事実だが、中国はシリコンバレーの企業や技術へのアクセスを望み、オバマ大統領に拒否されたらしい。あの時の習近平国家主席の不機嫌な顔の原因はどうやらそこにあったらしいのである。日本でも経済産業省の機構改革があり、外資(ターゲットは中国資本とされる)による主に日本国内の中小企業への投資を審査する機能を強化していくらしい。
 5日から北京で開かれていた中国の全国人民代表大会(いわゆる全人代)は、2016~20年の中期的な経済社会政策の方針を定めた「第13次5カ年計画」を採択した。この5カ年計画を通じて小康社会(まずまずゆとりのある社会)を実現すべく、5つの原則を定めている。その第一にあるのが「イノベーション(革新的発展)」であり、第二は「釣り合いのとれた発展(協調)」、以下、「環境に配慮した発展(緑色発展)」「開放的発展」「共に享受する発展(共亨)」と続く。中所得国の罠を抜け出すためにはイノベーションによる産業高度化が必要であると認識するのは正しいが、中国人は技術を育てるというまどろっこしいことは苦手で、手っとり早くカネで買うか、さもなくばサイバー攻撃で盗もうとする。そんな中国のやろうとしていることは、米国や日本をはじめ世界中がお見通しである。かつてソ連は「第13次5カ年計画」が始まった年の瀬に崩壊したのだったが、中国の「第13次5カ年計画」そして中国共産党の統治はどうなるだろうか。
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