風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ブリュッセル同時テロ

2016-03-26 13:41:54 | 時事放談
 事件の夜、パリのエッフェル塔をはじめ世界各地の観光名所はベルギー色(ベルギー国旗を形成する赤・黄・黒)にライトアップし、犠牲者を追悼するとともにベルギー国民との連帯を示したそうだ。昨年11月のパリ同時多発テロでは世界各地がフランス国旗の三色にライトアップされたように。
 4日前、ベルギーのブリュッセル国際空港で、その一時間後にはブリュッセル中心部の地下鉄駅を出発した直後の車両の中で、立て続けに爆発が起き、34人が死亡し約250人が負傷する大惨事となった。この連続攻撃について、ISがネット上で犯行声明を出し、攻撃対象は「慎重に選定」したと述べ、「イスラム国に対して同盟している十字軍各国」はさらにひどい目に遭うだろうと警告したという。
 イスラム過激主義の「セル」(テロ組織の小集団)は各地に広がっているが、中でもブリュッセルの「セル」は活発で、パリ同時テロの際にも拠点と目され、実行犯が最後に逃げこむ舞台となった。特にブリュッセル市街南西部にあるモロッコ系住民が多いモレンベック地区は、そうした活発な「セル」の主要拠点の一つである。そのモレンベック地区で、今回のテロが起きる4日前、パリ同時テロの実行犯の一人(兵站担当)を含む5人が拘束され、テロが起きる前日、ベルギー当局は記者会見でベルギーとフランス両国の連携の成果を誇ったばかりだった。この容疑者逮捕と今回のテロとの関連は不明だが、逮捕に対するテロ組織(IS)からの報復だったとの見方がある。計画中だった攻撃が逮捕によって時期が早まったかも知れない。
 ブリュッセルとパリは、それぞれベルギーとフランスという隣国の首都だが、両都市は僅か150キロしか離れていない。隣の国だから・・・と日本人はつい思いがちだが、東京から福島ほどもないし、西に行けば箱根の先の富士宮ほどの近さである。
 あらためてベルギーという国をWikipediaで調べてみると、なかなか複雑な構造である。ナポレオン戦争後、1830年にネーデルラント連合王国から独立し、以来、単一国家だが、オランダ語のベルギー方言とも言うべきフラマン語が公用語の北部「フランデレン地域」と、フランス語が公用語の南部「ワロン地域」とにほぼ二分される(この他にごく僅かながら南東隅にドイツ語が公用語の地域もある)。“ほぼ”というところがミソである。それぞれオランダ語系住民とフランス語系住民の対立(言語戦争)が続いたため、20数年前の1993年、連邦制に移行した。この連邦制がややこしいのである。地理的な区分である“地域”と、言語的な区分である“共同体”の“二層”構造になっており、日本人には想像しづらい。すなわち、上記の北部「フランデレン地域」と南部「ワロン地域」と「ブリュッセル首都圏」(面積は極小)という三つの“地域”のほか、「フラマン語共同体」と「フランス語共同体」と「ドイツ語共同体」(面積は極小)という3つの“言語共同体”による“2層”構造で、計6つの組織で構成される。但し、北部の「フランデレン地域」と「フラマン語共同体」は首都ブリュッセルを除いて領域が重なることから公式に統一され、政府・首長・議会は共通しているため、本来6つのベルギーの連邦構成主体は、事実上5つだという。実際、南部の「ワロン地域」には「フランス語共同体」と「ドイツ語共同体」が含まれ、“ほぼ”重なるが完全には領域が一致しないため(「ドイツ語共同体」は極く狭いのだけど)、それぞれに首相がいて政府がある。そして首都であるブリュッセルでは、「フラマン語共同体」と「フランス語共同体」の双方に自治権が与えられている。ああ、ややこしい・・・一応、Wikipediaから絵を抜粋しそのコピーを添付する。
 こうしたややこしい構造は、ブリュッセルの扱いで揉めたことが発端のようだ。1932年の言語法によってベルギーが「フラマン語」地域と「フランス語」地域に分けられた際、ブリュッセルは特別地域として両言語併用の2言語地域とされた。1970年にベルギーが「フラマン」、「ワロン」、「ブリュッセル」の3地域に分けられることになった際、「ブリュッセル」はフランス語系住民が多く(85%)、総人口では劣勢(39%)なフランス語系がベルギー3地域の内2地域で優勢を占めることになるのを、フラマン語系(オランダ語系、総人口の60%)が嫌ったらしい。その結果、南東部の片隅の「ドイツ語」共同体にも行政府と議会を設け、「地域」と「共同体」(言語区分)の二本立ての政府を作ることで両勢力に妥協が成立したのだという。
 現在、ブリュッセルに、ベルギー連邦政府(中央政府)とブリュッセル首都地域政府が置かれているのは理解するが、「フランデレン地域」共同体政府(=フラマン語共同体政府と統合)や「フランス語共同体」政府の政府・議会も置かれている。フランス語とオランダ語の公式な2言語地域として、街中にある看板、標識、駅名などは、フランス語、オランダ語の二ヶ国語表示が義務付けられているほか、市民は話す言語によって学校などが異なり、フランス語、オランダ語話者に対する文教・言語政策についてはそれぞれ「フランス語共同体」政府と「フランデレン地域」共同体政府が担当するなど、錯綜する。ブリュッセルには欧州連合(EU)の諸機関や北大西洋条約機構(NATO)の本部もあり、様々な国際機関や国際企業が存在するため、これらの関係国出身者が多く住むし、近年は旧ベルギー植民地(コンゴ民主共和国、ルワンダ、ブルンジ)だけでなくマグリブ(特にモロッコ)、トルコ、イラン、パキスタン、南アメリカなどからの労働者も増え、国際色豊かで多民族的な地域となっていて、イスラム聖戦主義者たちは紛れやすい。そのわりには、警察の管轄が分かれ、防犯カメラ・システムはロンドンやパリに比べるとかなり手薄と言われる。つまりブリュッセルは、イスラム聖戦主義者たちにとって「十字軍各国」の象徴的なところであり、目立つがために攻撃のしがいがありながら、攻撃に弱いため、攻撃しやすいところと言えそうである。
 今回のテロは、EUの関連機関が集積するビルからほど近かったこともあり、EU大統領は「ブリュッセル、ベルギー、EUは一丸となってテロに対抗する」と一致団結することを宣言したし、オランド仏大統領も、「狙われたのは欧州であり、世界中のあらゆる人々に関係する問題だ」と、世界各国が協調してテロとの戦いに臨むよう呼びかけた。EUがISのテロによって連帯するのは、ISがシリアやイラクの政情を悪化させるのに伴い発生する難民によって、EUが足元で分断の危機にあるせいでもある。長くなったので稿を改める。
コメント
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