ウクライナ戦争は、ロシアがキーウ攻略を断念し、当初の狙いだった東部・南部に戦力集中するという、新たな局面を迎えている。その地球の裏側で、中国が南太平洋のソロモン諸島と安全保障協定を結ぼうとしている話は、かねて漏れ伝わっていた。米国に拠点を置くジャーナリスト(本人は軍事社会学者を自称)の北村淳氏が3/31付で、主にアメリカの視点からコラムを寄せておられた(*1)のに続き、中国ウォッチャーのジャーナリスト・福島香織氏が一昨日、AUKUSやQUADなどの中国包囲網を分断する工作として、包括的に論じられた(*2)。私は存じ上げないが、読売新聞でもここ一週間で二度、記事が出たらしい。
アフガニスタンやミャンマーでの挫折からも、民主主義は、極めて特異な歴史的土壌の上に咲く、極めて稀に見る可憐な花であることが認識されていた。昨年12/9~10にかけて、バイデン大統領が主催した民主主義サミットには、世界から109の国家と2の地域が招待されたが、民主主義の実践度という点では、強固なものから弱々しく怪しげなものまで、多様だった。民主主義の成熟度として眺めれば、むしろ未成熟な国や地域の方が多く、中国としては、そこが付け込む狙い目になるということなのだろう。
それこそロシアが、ロシア人を守るために、集団的自衛権行使を名目に、ウクライナ東部にロシア軍を出動したように、中国は、未成熟な国の中華街で暴動が起こるなどしたのを契機に、中国人救済を名目に、中国軍や警察による治安維持の支援を押し付け強要している構図に見える。実はチャイナ・マネーがその国の社会的不安を招くなどの原因になっているという意味では、マッチ・ポンプのような側面があるし、そもそも中華街での暴動すら、誰が火を点けたのか分かったものではない。
いずれにしても、ロシアがヨーロッパひいては世界の安全保障秩序を自らに都合が好いように書き換えようと武力に訴えているのに対し、その裏で中国は、チャイナマネーによって静かに、自らに都合が好い安全保障秩序の構築、直截的には、西側の秩序の分断という伝統的な手法を強化していることに留意する必要があるように思う。
この南太平洋の秩序に多大な関心を寄せるオーストラリアは、中国の動きを苦々しい思いで見ていることだろう。北村淳氏が指摘されるように、ソロモン諸島は「アメリカ(引用者注:端的にハワイ)とオーストラリアやニュージーランドを結ぶ補給線を側面から攻撃できる位置にある戦略上の要衝」に見えるからだ。これはオーストラリアだけの問題にとどまらない。南シナ海とソロモン諸島を結ぶ線は、日本のシーレーンとも交差する。ロシアが主張するような、大陸における勢力圏構想を、正しいか正しくないかはともかくとして、海に当て嵌めれば、制海権構想に行き着く。その縦深性を確保するべく南方進出した大日本帝国が当時のアメリカと死闘を繰り広げた餓島(ガダルカナル島)はこのソロモン諸島にある。大日本帝国の歴史に学び、その戦略をなぞるように、今、中国が南太平洋に進出していると見るのは、穿ち過ぎだろうか。
最近、北岡伸一教授が提唱される「西太平洋連合」(*3)の原型は、故・梅棹忠夫氏の「西太平洋同経度国家連合」にあり、さらにこれらの島嶼国連合は大日本帝国の大東亜共栄圏から示唆を受けているとすれば、あらためて地政学の論理の強さを感ないわけには行かない。
実は南方ばかりに目を向けていられない。プーチン氏は以前、「アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する」という考えを示したことがあるそうだ(2018年12月、モスクワでの人権評議会、*4)。実際に、当時の北海道新聞もそれを報じている(が、「続きを読む」をクリックすると「ページが見つかりません」が表示されてしまう)。ロシアの先住民族(=アイヌ民族)を救済すると言ってロシアが北海道に侵攻する名目が既に存在するのは、なんとも不気味だ(苦笑)。
上の写真: 桜の季節は終わろうとしているが、洋の東西でどんなに物騒なことが起ころうと、季節は巡り、自然の恵みをもたらしてくれるのが有難い。3/31撮影。
(*1)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69503
(*2)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69630
(*3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD0787X0X00C22A1000000/
(*4)https://www.zakzak.co.jp/article/20220226-OCWG37S3RZPJBH4V5HDN54EBYE/
アフガニスタンやミャンマーでの挫折からも、民主主義は、極めて特異な歴史的土壌の上に咲く、極めて稀に見る可憐な花であることが認識されていた。昨年12/9~10にかけて、バイデン大統領が主催した民主主義サミットには、世界から109の国家と2の地域が招待されたが、民主主義の実践度という点では、強固なものから弱々しく怪しげなものまで、多様だった。民主主義の成熟度として眺めれば、むしろ未成熟な国や地域の方が多く、中国としては、そこが付け込む狙い目になるということなのだろう。
それこそロシアが、ロシア人を守るために、集団的自衛権行使を名目に、ウクライナ東部にロシア軍を出動したように、中国は、未成熟な国の中華街で暴動が起こるなどしたのを契機に、中国人救済を名目に、中国軍や警察による治安維持の支援を押し付け強要している構図に見える。実はチャイナ・マネーがその国の社会的不安を招くなどの原因になっているという意味では、マッチ・ポンプのような側面があるし、そもそも中華街での暴動すら、誰が火を点けたのか分かったものではない。
いずれにしても、ロシアがヨーロッパひいては世界の安全保障秩序を自らに都合が好いように書き換えようと武力に訴えているのに対し、その裏で中国は、チャイナマネーによって静かに、自らに都合が好い安全保障秩序の構築、直截的には、西側の秩序の分断という伝統的な手法を強化していることに留意する必要があるように思う。
この南太平洋の秩序に多大な関心を寄せるオーストラリアは、中国の動きを苦々しい思いで見ていることだろう。北村淳氏が指摘されるように、ソロモン諸島は「アメリカ(引用者注:端的にハワイ)とオーストラリアやニュージーランドを結ぶ補給線を側面から攻撃できる位置にある戦略上の要衝」に見えるからだ。これはオーストラリアだけの問題にとどまらない。南シナ海とソロモン諸島を結ぶ線は、日本のシーレーンとも交差する。ロシアが主張するような、大陸における勢力圏構想を、正しいか正しくないかはともかくとして、海に当て嵌めれば、制海権構想に行き着く。その縦深性を確保するべく南方進出した大日本帝国が当時のアメリカと死闘を繰り広げた餓島(ガダルカナル島)はこのソロモン諸島にある。大日本帝国の歴史に学び、その戦略をなぞるように、今、中国が南太平洋に進出していると見るのは、穿ち過ぎだろうか。
最近、北岡伸一教授が提唱される「西太平洋連合」(*3)の原型は、故・梅棹忠夫氏の「西太平洋同経度国家連合」にあり、さらにこれらの島嶼国連合は大日本帝国の大東亜共栄圏から示唆を受けているとすれば、あらためて地政学の論理の強さを感ないわけには行かない。
実は南方ばかりに目を向けていられない。プーチン氏は以前、「アイヌ民族をロシアの先住民族に認定する」という考えを示したことがあるそうだ(2018年12月、モスクワでの人権評議会、*4)。実際に、当時の北海道新聞もそれを報じている(が、「続きを読む」をクリックすると「ページが見つかりません」が表示されてしまう)。ロシアの先住民族(=アイヌ民族)を救済すると言ってロシアが北海道に侵攻する名目が既に存在するのは、なんとも不気味だ(苦笑)。
上の写真: 桜の季節は終わろうとしているが、洋の東西でどんなに物騒なことが起ころうと、季節は巡り、自然の恵みをもたらしてくれるのが有難い。3/31撮影。
(*1)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69503
(*2)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69630
(*3)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD0787X0X00C22A1000000/
(*4)https://www.zakzak.co.jp/article/20220226-OCWG37S3RZPJBH4V5HDN54EBYE/