風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

潜水艦失注

2016-04-27 01:06:54 | 時事放談
 オーストラリア政府が、2020年代半ば以降、老朽化が進むコリンズ級潜水艦と入れ替えるため、次期潜水艦12隻を共同開発する相手先として、日本・フランス・ドイツが受注を争っていたが、このほどフランス企業に決定したことが発表された。残念至極だ。が、内情はいろいろあるようだ。
 なにしろ建造からメンテナンスまで、総額500億豪ドル(約4.4兆円)を超える、オーストラリア史上最大の防衛装備品調達であり、日本政府が色めきたったのも無理はない。オーストラリアという、日本にとってアメリカに次ぐ同盟国のことであり、日本のシーレーンの要衝である南シナ海において、中国の台頭を抑え込み、自由な航行を守るためには、日・米・豪の安全保障協力は欠かせない。また、かねてより日本の防衛予算が限られる中、防衛技術基盤を今後とも維持・継承し、さらには防衛装備品の原価低減を図る上でも、海外に顧客を見出すのは極めて有効である。折しも、日本は一昨年4月、防衛装備移転三原則を制定し、武器輸出を原則禁止とする伝統的な政策を転換したばかりで、まさに戦後初めて本格的な軍事技術移転に乗り出した矢先、防衛技術や防衛装備品を巡る課題解決の今後を占う試金石と見なされてきた。
 オーストラリア政府は今年2月にまとめた国防白書の中で、「台頭する中国は地域でさらなる影響力拡大を模索する」と警告しており、まさに日・米・豪の利害は一致していた。親日派とされたアボット前首相と安倍首相との個人的な信頼関係もあり、またアメリカ政府も日本の「そうりゅう」型は卓越した性能を持ち、米国製の戦闘システムを搭載することで日・米・豪の相互運用性が高まるとして支持したことで、一時は本命視された。他方、ドイツとの共同開発となった場合、中国の産業スパイなどから機密情報を守りきれる技術があるのか疑念があり、アメリカは技術提供を拒否する姿勢を示していると報じられた。フランス(政府系造船会社DCNS)は潜水艦の輸出経験が豊富で、現地建造による2900人の雇用確保など地元経済への波及効果を早くからアピールしたことから、日本とフランスの一騎打ちとも見られていた。
 転機になったのは、昨年9月、アボット首相(当時)への反発が広がった与党・自由党の党首選で、ターンブル氏が勝利したことだろう。ターンブル氏のご子息は中国の政府系シンクタンクに所属した元・共産党幹部の娘と結婚しており、オーストラリアの歴代政権の中で最も親中的と言われている。すかさず、日・豪の軍事的接近を警戒する中国当局はオーストラリア政府に対して外交攻勢を展開したと見られる。何しろ中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国で、鉱石などの主な輸出先でもあり、経済分野で「アメとムチ」を使い分けながら圧力をかけたであろうことは想像に難くない。現に今年2月、訪中したビショップ豪外相との共同会見で、中国の王毅外相は「日本は第二次大戦の敗戦国で、戦後の武器輸出は日本の平和憲法や法律の厳しい制約を受けている」と牽制した。最終的に日本が選ばれなかったことについて、北京の共産党関係者は「中国の外交上の勝利だ」との感想を漏らし、嬉しさを隠さなかった。
 もう一つ、この決定にはオーストラリアの政局も影響している。ターンブル首相は、税制改正などをめぐり野党の攻勢が強まる中、7月の総選挙で政権基盤の強化を模索する構えと見られており、その総選挙では次期潜水艦が建造されるという南オーストラリア州の議席がカギを握るようだ。そして、ターンブル首相は今日、南オーストラリア州都アデレードで会見し、フランスとの潜水艦の自国内建造で、計2800人の雇用が維持されると胸を張ったらしい。鋼材なども極力、豪州産を使うのだという。日本は当初、技術移転に消極的で、オーストラリアが国内での建造を望んだのに対して否定的な対応を見せたと言われる。巻き返したが、やはり見劣りしたのだろうか。
 実際、日本の入札対応は「官僚的」で「熱意が欠けていた」とオーストラリア関係者から見られていた。フランスやドイツに比べ、日本は「経験不足から出遅れ、オーストラリア軍の競争評価手続きでの売り込み努力も致命的に劣っていた」と言うのである。海上自衛隊幹部によると、「もともと官邸が押し込んできた話だった。機密情報が中国に漏れる懸念があった」と白状するように、日本の中でも、政府・官邸はオーストラリアとの共同開発に積極的だったのに対し、海上自衛隊は日本の最高機密が集積する潜水艦の情報流出(例えば中国への)を懸念し、消極的な考え方が根強かったようだ。自衛隊や防衛省の中でも、OBは積極的なのに対し、現役は慎重だと聞いたことがある。そんな日本が一枚岩になれなかったチグハグさがオーストラリアには「熱意が欠けていた」と見なされたのだろう。武器をはじめとする防衛装備品は、金額が嵩張ること、またこれら製品の特性上からも、現地生産の要望が強く、日本のサヨクの方々が心配するほど、防衛装備移転は簡単なことではないようだ。安全保障協力も、相手(あるいは敵の策動)あってのことで、それほど簡単なことではなさそうだが、ここはひとつ粘り強く対応して欲しい。
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