風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

北京五輪:沙羅の涙

2022-02-11 13:11:55 | スポーツ・芸能好き
 北京五輪が開幕した。昼夜を問わず氷点下10~20度で、身体の動きが鈍くなってもウェアの下着を一枚多くしたり、パサパサの人工雪は勝手が違って、直前の練習で負傷して欠場を余儀なくされたりと、いろいろ不都合が漏れ聞こえて来る。そんな中、実力を発揮した小林陵侑選手や平野歩夢選手は見事だった。三連覇を逃した羽生結弦選手は残念だった。不都合なことばかりに目を向けていても虚しくなるばかりなのだが・・・
 開会式は、東京五輪より洗練されていたとする評がある。まあ、日本は直前にああいうドタバタがあったから仕方ないかも知れない(日本では誰かが足を引っ張ろうとする!?かも知れないが(笑)、中国は統制されて邪魔は入らないだろう)。ところが、聖火ランナーの最終・聖火台点灯役にウイグル人の女子選手を起用するという「毒」が仕込まれていた。米・欧・日の先進国に向けた当てつけで、新彊ウイグルの人権侵害疑惑にはシラを切り通すつもりのようだ。また、神聖なる「イマジン」の曲に合わせて、「ともに未来へ」と一糸乱れぬ行進をして見せた。もはや世界のことは眼中になく、中国式「天下」を治める孤高の「帝国」として、その威信を中国人民に見せつけたかったようだ。ジョン・レノンは想像もしなかっただろうが、「天国も地獄もなく、国も宗教もなく、飢えることなく平和に暮らせる一つの世界・・・」は、皮肉なことに中国で実現できているのかも知れない(溜息)。
 競技に入ってからは、かねて懸念されていたことだが、不可解な判定が続いているようだ。外国の有力選手が失格になって中国に金メダルが転がり込んだスピードスケート・ショートトラックの混合団体リレーや男子1000メートルは露骨だった。気になるのは、高木菜那選手が中国人選手に邪魔されて8位に甘んじたスピードスケート女子1500メートルや、竹内智香選手が進路妨害と判定されて途中棄権となったスノーボード女子パラレル大回転や、高梨沙羅選手ら4ヶ国の有力選手5人がスーツの規定違反で失格になったノルディックスキー・ジャンプ団体女子のいかがわしさであろう。
 中でも、このノルディックスキー・ジャンプ団体女子では、通常ならマテリアル・コントロール(道具チェック)は男子種目には男性、女子種目には女性が担当するところ、女子の測定に男性コントローラーが突然、介入し、数日前の個人戦で女性コントローラーがOKを出していたスーツと同じものだったにも係わらず、通常とは異なる検査方法で測定し、違反と判定していたことをドイツ紙が伝えているらしい(東スポによる)。本来、検査方法は予測可能で透明性が求められるものだ。一気に5人もの大量の規定違反者が出るのは珍しいそうだ。少しでも浮力を稼ごうと、ぎりぎりのところでベストフィットの勝負服で競い合う中で、言い訳のように、環境が異なる五輪という大舞台で緊張を強いられて体重の変化もあり得る結果、スーツの許容差が規定を超えてしまうこともあり得ると言われるのは、分からないではない。しかし、失格となった4ヶ国(日本、ドイツ、オーストリア、ノルウェー)は、「外交的ボイコット」とは呼ばなかったものの(ノルウェーはコロナ対策理由)、いずれも政府要人を派遣しなかったと指摘されるのを聞くと、K点を越える103.00mのビッグ・ジャンプの後だっただけに、一種の嫌がらせだったのではないかと疑ってしまう。まあ、政府要人を派遣しなかった国は多いのだが・・・
 その当否はともかくとして、規定違反で失格となった高梨沙羅選手の落ち込みようは涙を誘った。気丈にも「最後まで飛びます」と2本目のジャンプ台に上がり、98.50mのビッグ・ジャンプを見せたあと、泣き崩れた。伊藤有希選手に抱きしめられ、小林陵侑選手に肩を支えられて辛うじて立つ。そして、インスタグラムに彼女の心象風景そのままのような真っ黒な画像を投稿し、「今回、私の男女混合団体戦での失格で日本チーム皆んなのメダルのチャンスを奪ってしまった」、「私の失格のせいで皆んなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です」、「深く反省しております」と切々と綴った。本来であれば本人よりも彼女を支えるスタッフの責任であろう。ロイター通信は、彼女が謝罪したのは他国の人々が物議を醸した失格に怒っているのに対して余りに対照的だと、驚きをもって伝えるほどだった(中日スポーツによる)。
 ここで私の経験を持ち出すのはおこがましいが・・・高校時代、最後のレースは高校二年の冬の駅伝大会だった。体育系クラブの同級生の多くは夏の大会を最後に引退して既に受験体制に入っており、年明けの校内模試で成績が振るわず妙に焦った私は、練習をサボりがちで、結果として本番で思うような走りが出来ず、一人悔し涙した。自らの不甲斐なさが、団体競技で仲間に迷惑をかけてしまったことで増幅されて、耐え難かったのを思い出す。彼女の場合、団体だけでなく、個人でもメダルに届かず、さぞ悔しい思いをしたことだろう。オリンピックの女神は、幼い頃からワールドカップで圧倒的な強さを見せて来た彼女に嫉妬するのか、終始、冷たい。そんな積年の思いが込められた涙は、疑惑に寄せる不埒な私の思いを、日頃の曇った私の心を、ひととき浄化してくれたのだった。
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