風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

フランスでは

2017-05-09 00:47:09 | 時事放談
 一応、下馬評通りと言えるのだろう(最近は下馬評が覆ることが多いので、それ自体は却って驚きと言ってもよいのかも知れない)。パリ政治学院と国立行政学院(ENA)で学んだエリートながら、5年前までは政界で無名だったエマニュエル・マクロン氏が、ロシア系かどうかはともかくとして何者かによるハッキング攻撃をものともせず、フランス大統領に選ばれた。現行の第五共和制憲法が公布された1958年以降、左右二大陣営に属さない大統領の誕生は初めて、39歳は史上最年少、知名度のなさから当初「ムッシューX」と揶揄されたらしいが、政治学者のドミニク・モイジ氏はなんとナポレオンになぞらえる。「何より2人が登場した時代状況が似ている」のだとか。ナポレオンが歴史の舞台に登場した18世紀末、革命後の恐怖政治が終わったものの、王党派の反乱やクーデター騒ぎで混乱し、力のある指導者が待望されていた当時に、今の、2大政党が失墜し、左右両極のポピュリストが跋扈する状況が似ているというのだが、まあその当否はさておいて(因みにナポレオンは34歳で皇帝になった)。
 下世話な話だが、新ファーストレディーになる奥方のブリジットさん(64)は「更年期のバービー人形」との異名があるのは失礼な話で、高校時代の恩師で、24歳の年の差を乗り越えて結婚した(なんと詩人としての彼の才能に惚れ込んだ!らしい)というのが話題だが、このあたり如何にもフランスらしい気がする。実子ではないが子供が3人、39歳にして孫が7人いるらしい。
 下世話じゃない話として、産経Web記事から拾い読みすると、元教師の祖母から仏文学の手ほどきを受け、高校時代は演劇に熱中したといい、カントやアリストテレスの哲学書を読みこなし、愛読書はボードレールの詩集「悪の華」というから、これまたフランスらしいと私なんぞは思ってしまう。日本人にはなんとなく如何にも「らしく」て親近感を覚えるのではないだろうか(飽くまである種の典型としてであって、まさか大統領になってしまうのを別にすればの話だが)。会計検査院のエリート官僚として経済諮問委員会付きになった時、委員長を務めたミッテラン元大統領の補佐官だったジャック・アタリ氏に目をかけられ、アタリ氏の私的な夕食会で社会党第1書記だったオランド大統領と知り合い、役所勤め4年、その後ロスチャイルド系投資銀行に移って、2012年にオランド大統領の招きで大統領府の補佐官に、14年には経済相に抜擢され、16年4月に政治運動「前進」を結成し、11月に大統領選への出馬を表明・・・という、シンデレラ(男の場合はどう形容すれば良いのだろう)ストーリーである。その後、オランド氏が支持低迷から再選を断念し、社会党が公認候補をめぐって分裂状態になると、一躍有力候補に躍り出たわけだが、英BBC放送はマクロン氏の勝因について、既成政党の候補の失速に助けられ「運をつかんだ」などと(英国らしく、ちょっと含みのある)分析をしている。まあ、そうなのだろう。
 最終的にマクロン氏の得票率66.10%、ルペン氏33.90%で、随分、差が開いたものと思う(その意味では「予想外」だったと言えそう)。それでも、5日発表の世論調査では、マクロン氏に投票すると答えた人が62%、ルペン氏が38%だったというから、最終局面で民意は極右阻止に動いたという分析は当たっているのかも知れない。投票率74.56%は前回2012年の大統領選決選投票の80.34%はおろか1969年以来の低水準で(と言っても日本人の私たちには信じられない高さだが)、白票・無効票は約12%とかつてない高さだったらしい(このあたりは前回ブログで引用したイラストレーターのエッセーから想像される通りかも)。
 ある政治家によると「大変な人たらし」らしい。「敵味方にかかわらず、人の話を聞く。『あなたの意見は重要だ』と思わせ、味方にしてしまう」のだとか。「人たらし」という点では、安倍首相やトランプ大統領とも、もしかしたらウマが合うかも知れない。
 変化を求め「アン・マルシュ!(前へ進もう!)」と呼びかける彼の若さとしがらみのなさに期待がかかり、政敵がいないという何とも恵まれた環境にあると言われるものの、ポピュリズムの流れが止まったわけではないし、組閣後、6月の国民議会(下院)選で政権の安定基盤を確保できるかが当面の焦点・・・と言われるが、何はともあれ(EUへの信認という、安定を求めるとすれば)今年の一つのヤマは越えたと言えそうで、ちょっと一息といったところ。
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