風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

テロとの戦い

2015-01-30 02:21:49 | 日々の生活
 年明け早々、フランスの風刺週刊紙「シャルリ・エブド」がイスラム過激派に襲撃されたのをはじめとして12名の犠牲者が出て、表現の自由と宗教の問題を考えさせられたのも束の間、そんな書生のような呑気な態度を嘲笑うかのように、イスラム国を名乗る集団が日本人2人を人質に取り身代金を要求する事件が発生し、それまでイスラム国やらイスラム過激派を巡る問題は所詮は対岸の火事と安心しきっていた私は冷や水を浴びせられたような衝撃を受けました。
 当初、イスラム国は、安倍首相が拠出を表明した支援金2億ドルを意識して、そのままの金額の身代金を要求しました。報道によると、身代金は1000万ドル程度(約12億円)が相場とされ、イスラム国は、この1年で3500~4500万ドルの身代金を得てきたと言われていることと比べると、今回の要求が如何に法外かが分かります。もとよりその金額が素直に支払われると考えるのは現実的ではなく、結局、米英を中心とする有志連合に揺さぶりをかけるのが狙いではないかと解説されます。何故、日本人を狙ったのか!? 安倍首相の中東歴訪を奇禍として、同盟国の輪の最も弱い部分に狙いを定めたと考えられなくもありません。
 その証拠に、その後もイスラム国は設定した期限を過ぎてなお後藤さん殺害予告を実行せず、短期間の内に複数のメッセージを発するなど、これまで人質を躊躇なく殺害してきた冷酷なイスラム国としては異例の対応を見せており、何か明確な狙いがあると考える方が自然のように思います。身代金要求に代えて、ヨルダンで死刑判決を受けた女性テロリストの釈放を交換条件に持ち出したのも、ヨルダンを巻き込み、日本とヨルダンの良好な関係を悪化させ、ひいては有志連合の切り崩しを狙ったと考えた方が辻褄が合います。
 もう一つの重要な視点は、イスラム国が世界中の耳目を集めることによって、戦闘員を引きつけ、他の過激派組織への影響力を強め、既に絶縁関係にある国際テロ組織アルカーイダとのライバル争いを制し、自らの存在感を高めるのが狙いではないかというものです。後藤さんではなく湯川さんを先に殺害したと見られるのも、後藤さんが紛争地を中心に取材するジャーナリストとして高名で、その知人らが助命を訴えた声明文が英語やアラビア語で多くの過激派系サイトにも転載されている通り、発信力の点で、また同じジャーナリストへの訴求力の点で、明らかに後藤さんの方に利用価値があると判断されたためではないかと考えられます。
 これまでのところ、イスラム国が有志連合の結束にくさびを打ち込むという試みがうまく機能しているとは言えそうにありません。一つには、日本が意外に冷静に事態を見守っていることが挙げられます。本来であれば、中学の社会科の教科書で教えられた「人命は地球よりも重い」という人道主義の大義と、テロに屈することなく、負の連鎖を食い止めるという国際協調主義の大義との間で、国論が割れそうなものです。ところが、民主党が国会の代表質問で、人質救出を目指すのに与党も野党もないと断りつつも、対策室が既に8月に出来ていたことを捉え、中東歴訪に対する安倍首相の考え方を質した程度のことはよいとして、リベラル派の元外交官や、安倍政権のなすことには何でも反発したがる報道ステーションが、安倍首相の中東歴訪と2億ドルの人道支援表明がテロを誘発したと言わんばかりの非難の声をあげていますが、世論を動かすまでには至っておらず、マスコミも冷静に対処しているように見えます。2004年、イラク戦争のときの「イラク日本人人質事件」で、自己責任が社会問題化し、国民も大いに勉強したことが考えられますし、今回、人質の後藤さんが残した最後のビデオ映像で「自身の責任」を明言していた潔さも影響しているように思います。なにしろ後藤さんはレバノンで戦場ジャーナリストの訓練を受けていた戦場・紛争地のプロであり、常に現地の、とりわけ弱い子供たちの目線でニュースを伝える使命感に燃えたジャーナリストの鑑のような人で、日本のマスコミも軽々しく扱うわけには行きません。
 勿論、外国暮らしを経験して人並み以上に日本国と日本人を強く意識する私にとって、日本人を守れなくて何が国家だと思いますし、私だけでなく国民の誰もが後藤さんの無事を祈って静かに見守っていることでしょう。そして同時に「テロに屈しない」と主張する安倍さんの対応をも支持しています。
 そんな冷静な日本人が、テロの脅威に晒される現実を突きつけられ、安全保障に対する意識が変化し、ひいては集団的自衛権や憲法改正を支持する機運が高まるのではないかと警戒する人たちがいます。言わずと知れたお隣の中国です。共同通信の世論調査で「テロに屈しない」と宣言した安倍政権の事件への対応を「評価する」と答えた日本人が6割以上に達し、中国の対日関係者たちに大きな衝撃を与えたそうです。
 イスラム国だけでなく、私たち日本人が中国と事を構えようなど夢にも思っていないのに何故か反日を振りかざして日本を挑発するばかりの中国に対しても、その心掛けの悪さを思い知らせるために、このまま日本人の結束とその芯の強さを見せつけたいものです。
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