米朝と言っても、2年ほど前に亡くなられた桂米朝師匠のこと(!)ではなく、アメリカと北朝鮮のことだ。チキン・ゲームと言えば、私のような年代にとって、「理由なき反抗」(と言っても生まれる前の1955年の作品だが)で、転校したばかりのジェームズ・ディーン扮する少年ジムが、不良少年バズと喧嘩になり、それぞれボロ自動車で崖の端に向かってフル・スピードで走らせて、どちらが最後まで車内に踏みとどまれるか度胸を試す(つまり先に逃げ出すチキン=臆病者を蔑む)シーンを想い出す。大人になりきれない若者たちの哀しくも無謀な虚勢であり強がりだ。
8月に入ってからの、トランプ大統領と金正恩労働党委員長との間の威嚇の応酬は、そんなチキン・ゲームを思わせるほど、見苦しかった。金委員長の挑発もどうかと思うが、トランプ氏の発言は、どう見ても超大国・アメリカ大統領としての余裕も威厳も感じられず、負けん気が強いばかりの子供の喧嘩腰で、国家間の外交であれば通常わきまえるであろう相手のメンツを立てるといった良識や逃げ道を用意するといった配慮はまるで見られない。
実際、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍報道官が8日付で「米帝の核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告信号を送るため、中長距離弾道ミサイル『火星12』でグアム周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と威嚇すると、トランプ大統領は同日、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われる」などと軍事的対応を辞さない構えを見せた。すると、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官は翌9日、グアム周辺への中距離弾道ミサイル「火星12」の包囲射撃計画について、4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む計画案を検討しており、「島根、広島、高知の各県上空を通過し、3356.7キロメートルを1065秒(=17分45秒)飛行する」など具体的な数字を示す一方で、「8月中旬までに最終完成させる」「総司令官である金委員長に報告する」など、わざわざ金委員長の決裁前であることに触れ、トランプ政権の出方を探る思惑がうかがえた。マティス国防長官も同日、「体制の終焉や自国民の破滅につながるような行動を検討するのをやめるべきだ」「自らを孤立させる道を選ぶことをやめ、核兵器を追い求めるのを断念しなくてはならない」と警告し、トランプ発言の真意を“解説”して見せたのに続き、ティラーソン国務長官も、トランプ発言は「外交的な表現を理解しているとは思えない金委員長が理解できる言葉を使って、北朝鮮に強いメッセージを送ったのだと思う」と釈明するなど、火消しに走る異様な事態となった。トランプ氏の不用意な発言で動揺が広がり、誤解と誤算によって米朝が現実に軍事衝突しかねないと思わせるような瞬間だった。
ところが懲りないトランプ大統領は10日、「グアムで何かやれば、世界が今まで見たこともないようなことが北朝鮮で起きるだろう」などと脅し、軍事攻撃による報復を再び示唆した。更に「(これは単なる)挑発ではない。声明であり事実だ」「金委員長はわが国を著しく貶め、恐るべき発言を繰り返してきたが、今や状況は変わった」と語り、北朝鮮の行動に厳然と対処する姿勢を強調した。さすがに北朝鮮の朝鮮中央通信は翌11日、トランプ大統領の牽制を「虚勢にすぎず、危険な戦争火遊びだ」と非難しつつも、予測不可能性を警戒する“迷い”をも感じさせるコメントを出したが、飽くまで強気なトランプ大統領は同日、「北朝鮮が愚かな行動を取るなら、軍事的解決策を取る準備は整っている」「米領グアムや米国の領土、同盟国に対して何かすれば、本当に後悔することになる。すぐに後悔するだろう」などと追い討ちをかけた。そのためマティス国防長官とティラーソン国務長官は14日付WSJ紙に連名で寄稿する事態となり、飽くまで「一連の平和的な圧力政策の目的は朝鮮半島の非核化だ。米国は体制転換や性急な南北統一に関心はない」と弁明に追われた。発射計画を報告された金委員長も、「悲惨な運命を待つ、つらい時間を過ごす愚かで哀れな米国のやつらの行動をもう少し見守る」とトーンダウンして、一旦は矛を収めたかに見えた。
ニューズウィーク日本版9‐5号にビル・パウエル氏が「アメリカを守る最後のとりで」と題するコラムを寄せている。世界をハラハラさせ続ける危ういトランプと米政権がなんとか機能しているのは、「この数十年における最高の軍司令官」と呼ばれるマティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ケリー主席補佐官(当初、国土安全保障長官)の三人の退役軍人のおかげだという趣旨だ。いずれも軍人としてだけでなく、学者としての輝かしい名声ももつ。マティス氏の蔵書が7000冊に達していたというのは有名な話だし、マクマスター氏は1997年に発表した著書で、ジョンソン政権下のベトナム戦争における米軍の意思決定の欠陥を論じたというし、ケリー氏もジョージタウン大学で安全保障を研究して修士号を取得、後に中佐時代に国防大学で2年過ごしたという。「彼らは大人の任務を果たしてきた立派な大人」であり、「その安堵感はアメリカの主要な同盟国だけでなく、基本的に敵である諸国にまで広がっている」というわけだ。マクマスター氏の側近によれば、「知っての通りトランプ氏は切れやすい」「しかしマティスとマクマスターとケリーの意見には、たいてい耳を貸す。つまり口ではとんでもないことを言うが、とんでもない行動には出られないというわけだ」という。トランプ大統領に辛口のメディアとは言え、なんとなく想像通りで、私もこれを読んで安堵した次第だ(苦笑)。
長くなったので、続きは後ほど。
8月に入ってからの、トランプ大統領と金正恩労働党委員長との間の威嚇の応酬は、そんなチキン・ゲームを思わせるほど、見苦しかった。金委員長の挑発もどうかと思うが、トランプ氏の発言は、どう見ても超大国・アメリカ大統領としての余裕も威厳も感じられず、負けん気が強いばかりの子供の喧嘩腰で、国家間の外交であれば通常わきまえるであろう相手のメンツを立てるといった良識や逃げ道を用意するといった配慮はまるで見られない。
実際、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍報道官が8日付で「米帝の核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告信号を送るため、中長距離弾道ミサイル『火星12』でグアム周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と威嚇すると、トランプ大統領は同日、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われる」などと軍事的対応を辞さない構えを見せた。すると、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官は翌9日、グアム周辺への中距離弾道ミサイル「火星12」の包囲射撃計画について、4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む計画案を検討しており、「島根、広島、高知の各県上空を通過し、3356.7キロメートルを1065秒(=17分45秒)飛行する」など具体的な数字を示す一方で、「8月中旬までに最終完成させる」「総司令官である金委員長に報告する」など、わざわざ金委員長の決裁前であることに触れ、トランプ政権の出方を探る思惑がうかがえた。マティス国防長官も同日、「体制の終焉や自国民の破滅につながるような行動を検討するのをやめるべきだ」「自らを孤立させる道を選ぶことをやめ、核兵器を追い求めるのを断念しなくてはならない」と警告し、トランプ発言の真意を“解説”して見せたのに続き、ティラーソン国務長官も、トランプ発言は「外交的な表現を理解しているとは思えない金委員長が理解できる言葉を使って、北朝鮮に強いメッセージを送ったのだと思う」と釈明するなど、火消しに走る異様な事態となった。トランプ氏の不用意な発言で動揺が広がり、誤解と誤算によって米朝が現実に軍事衝突しかねないと思わせるような瞬間だった。
ところが懲りないトランプ大統領は10日、「グアムで何かやれば、世界が今まで見たこともないようなことが北朝鮮で起きるだろう」などと脅し、軍事攻撃による報復を再び示唆した。更に「(これは単なる)挑発ではない。声明であり事実だ」「金委員長はわが国を著しく貶め、恐るべき発言を繰り返してきたが、今や状況は変わった」と語り、北朝鮮の行動に厳然と対処する姿勢を強調した。さすがに北朝鮮の朝鮮中央通信は翌11日、トランプ大統領の牽制を「虚勢にすぎず、危険な戦争火遊びだ」と非難しつつも、予測不可能性を警戒する“迷い”をも感じさせるコメントを出したが、飽くまで強気なトランプ大統領は同日、「北朝鮮が愚かな行動を取るなら、軍事的解決策を取る準備は整っている」「米領グアムや米国の領土、同盟国に対して何かすれば、本当に後悔することになる。すぐに後悔するだろう」などと追い討ちをかけた。そのためマティス国防長官とティラーソン国務長官は14日付WSJ紙に連名で寄稿する事態となり、飽くまで「一連の平和的な圧力政策の目的は朝鮮半島の非核化だ。米国は体制転換や性急な南北統一に関心はない」と弁明に追われた。発射計画を報告された金委員長も、「悲惨な運命を待つ、つらい時間を過ごす愚かで哀れな米国のやつらの行動をもう少し見守る」とトーンダウンして、一旦は矛を収めたかに見えた。
ニューズウィーク日本版9‐5号にビル・パウエル氏が「アメリカを守る最後のとりで」と題するコラムを寄せている。世界をハラハラさせ続ける危ういトランプと米政権がなんとか機能しているのは、「この数十年における最高の軍司令官」と呼ばれるマティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ケリー主席補佐官(当初、国土安全保障長官)の三人の退役軍人のおかげだという趣旨だ。いずれも軍人としてだけでなく、学者としての輝かしい名声ももつ。マティス氏の蔵書が7000冊に達していたというのは有名な話だし、マクマスター氏は1997年に発表した著書で、ジョンソン政権下のベトナム戦争における米軍の意思決定の欠陥を論じたというし、ケリー氏もジョージタウン大学で安全保障を研究して修士号を取得、後に中佐時代に国防大学で2年過ごしたという。「彼らは大人の任務を果たしてきた立派な大人」であり、「その安堵感はアメリカの主要な同盟国だけでなく、基本的に敵である諸国にまで広がっている」というわけだ。マクマスター氏の側近によれば、「知っての通りトランプ氏は切れやすい」「しかしマティスとマクマスターとケリーの意見には、たいてい耳を貸す。つまり口ではとんでもないことを言うが、とんでもない行動には出られないというわけだ」という。トランプ大統領に辛口のメディアとは言え、なんとなく想像通りで、私もこれを読んで安堵した次第だ(苦笑)。
長くなったので、続きは後ほど。
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