米国防総省次官補代行が、北朝鮮のここ数日の行動はアジア太平洋地域に対する「異例」の脅威となっており、警戒する必要があるとの考えを示したと、ロイターが伝えた。北朝鮮は16日、開城にある南北共同連絡事務所を、予告通りに爆破した。ここは、韓国の文在寅大統領にとって対北宥和政策の象徴であり、そこをテコに歴史的な米朝接近を仲介役として取り仕切ったが、恐らく双方に調子のいいことを言ったのであろう、結果としてトランプ大統領の信頼を失い、このたびは金正恩委員長からも信頼を失うに至って、遅まきながら文在寅大統領のファンタジーは破綻した。北朝鮮は、非武装地帯に再度軍隊を送り、前線を要塞化して韓国に対する軍事的脅威を強める措置を取ると公言しており、つまりは2018年の南北合意以前に戻ることを意味する。
私の好きなエスニック・ジョークの一つを、くどいと言われようがあらためて披露したい。アメリカの大学が日・中・韓の歴史教育について調べたところ、日本は概ね歴史的事実に即した実証的なものであったのに対し、中国のそれは中国共産党の「プロパガンダ」であり、韓国のそれは韓国人の単なる「ファンタジー」だったというものだ。文在寅大統領には、対日関係にも見られるように、韓国風に言えば彼独特の「正義」を恃むところがあって、それは必ずしも「事実」に即した現実的なものではなく、客観的に見れば独りよがりに過ぎなくて、危なっかしい。
表向きは、韓国の脱北者団体が金正恩委員長を批判するビラを風船で飛ばしたことを非難したものだが、ビラの応酬は歴史が長く、朝鮮戦争中に始まったことで、何を今さらと言うべきだろう。李相哲さん(龍谷大学社会学部教授)は、2018年4月の板門店宣言の第1条第1項、「南と北は、わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認」したところに注目される。文在寅大統領は一応は欧米の説得を試みたが、欧米は独裁者(ヒトラー)への宥和は成功しない史実を忘れるわけがなく、従い国際的な経済制裁が緩められることはなく、結果として風呂敷を広げながら「自ら決定する」ことが出来ずに、金正恩委員長の失望を招いたのではないかと解説される。金与正労働党第1副部長が前面に出ているのは、金正恩委員長の健康不安による後継者問題があるからだろうし、新型コロナウイルスの影響で中国との国境を閉鎖し、経済的に困窮している事情もあることだろう。そして北朝鮮お得意の瀬戸際外交で、文在寅大統領は裏切ることはないと見切って、甘えている部分もあることだろう。
以下は余談である。
地政学の基礎を築いたハルフォード・マッキンダーに有名なテーゼがある。「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する」(『デモクラシーの理想と現実』より。原作は1919年、邦訳は1985年、原書房)。
世界島はユーラシア大陸を指し、ハートランド(ピボット・エリアとも言う)はその内陸部のことで、当時のロシアの領域に相当する。東欧は、当時の大国ロシアと新興国ドイツとの間にあって、双方が攻め込むときの要衝の回廊とでも言うべきところであり、万が一、ロシアとドイツが組んで強大化しヨーロッパを含む大陸を支配することがないように、イギリス(マッキンダーはイギリス人)にとっては双方を牽制させるバッファ・ゾーンとなすべきところでもあった。歴史を紐解けば、フン族に押されてゲルマン民族がこの回廊を通って移動した結果、ローマ帝国滅亡に至ったことがあったし、モンゴル民族をはじめとするアジアの遊牧民族が幾度にもわたって後進地域だったヨーロッパに圧力をかけ、その圧力から身を護るためにヨーロッパの国々が形作られる契機ともなる、回廊でもあった。逆に、ナポレオンやヒットラーがロシアを攻め込むときにもこの回廊を通った。
もっとも地政学は帝国主義の時代の考え方、すなわち覇権論であって、歴史を見るときには有用だが、第一次・第二次世界大戦を導いたものとして、戦後は、長らくタブー視された。よく知られるように、地政学の流れを汲むカール・ハウスホーファー(ドイツ)の生存権の理論はヒットラーに多大な影響を与えたし、ハウスホーファー自身、日本に武官として駐在していたことがあって、大東亜共栄圏にも何がしかの影響を与えたとされる。学生時代(1980年代)に友人の下宿で「悪の論理」(倉前盛通著)なる本を見つけて貪り読んだことがあるが、「悪」と言っても極道のことではなく、なんのことはない地政学を扱ったものだった(苦笑)。
マッキンダーの地政学が遠ざけられたのは、彼の歴史観も災いしているように思われる。なにしろ、あの広範な地理的・歴史的な知見を駆使してヨーロッパ中心史観に敢然と挑戦したのである。前掲書で、次のように言う。「・・・ヨーロッパの近代史の多くの部分は、事実これらのアジア民族がもたらした変化に対するところの、注釈として書かれてもさしつかえないだろうと思う・・・」 今でこそ、マクニールのような学者も出て来ているが、今なおヨーロッパ中心史観が根強い中で、なんという慧眼であろう。当時にあっては、さぞ嫌われたことだろう(笑)
いずれにしても、ランドパワーにしろ、アルフレッド・セイヤー・マハンのシーパワーにしろ、その後の航空戦力全盛の時代や核・ミサイルの時代を経て、古めかしさは否めない。しかし、ピボットという些か分かり難い理論(バスケットボールで、片足を軸にして、もう一方の足を四方に動かしながら、敵の守りをかわしつつ攻撃をうかがう様子を想起すればいい)や、今で言うチョーク・ポイントとでも言うべきかつての東欧など、地理と政治を組み合わせた歴史解釈は、今なお斬新であり、学生時代に学ばされる社会科が縦割りにされて(地理、歴史、政治経済など)、それぞれ細かな事実関係ばかり記憶させられる受験勉強は、今更ながら残念に思う。総合してこそ、地理・歴史・政治のダイナミズムは面白いものだ。
こうして、マッキンダーの全てを否定しないとして、マッキンダーが生きた時代は、主にロシア(とドイツ)が脅威だったのに対し、現代はどうか。ロシアにかつての強さはなく、今はそれが中国にとって替わられていることを否定する者はいないだろう。一帯一路は、かつての帝国主義の時代の拡大志向の一つのあらわれでもある。中国は国力に合わせて国境(領土)が伸縮するなどと言われたもので、本人は否定するが、南シナ海に勝手に行政区の名称をつけたり、東シナ海の台湾や尖閣諸島の領有を主張したりするなど、国力伸長に合わせて領域を拡張しようとしている。そして、かつてはロシアとドイツの間にバッファ・ゾーンを作れといった議論もあったように、東欧が20世紀の戦略正面だったのに対し、21世紀のそれはどこか? ある地政学マニアの知人に質問したところ、即座に満州だと答えが返ってきた。そりゃ、マッキンダーの時代=20世紀初頭の発想では? と返しておいたが(義和団事件の後、ロシアが居座ったのに対し、日露戦争を経て日本が代わりに居座って、大東亜戦争の破局を招くに至った)、現代のバッファ・ゾーンは北朝鮮ではないかと思ったりする。海を挟むので俄かにイメージし辛いが、西に中国、北にロシア、東にアメリカ、南に日本と、世界の経済大国トップ3、世界の軍事大国トップ3が接する要衝の地である。あるいは規模は違うが、火薬庫として、20世紀のバルカン半島が、21世紀の朝鮮半島になりかねない。20世紀の後半を通して、朝鮮半島が冷戦時代そのままに冷凍保存されてきたのはそのためで(所謂Status Quo)、21世紀になって俄かに動きだした。
しかし文在寅大統領の民族主義による南北融和は余りにもナイーブで、国際社会は動かないし、金正恩委員長も、広い意味での国力をベースにすれば、自らの体制護持のためには南北融和や統一朝鮮など信用しないだろう(貰えるものだけ貰って、心を開くことはないだろう)。21世紀の世界秩序は、この朝鮮半島の行く末(朝鮮半島の国造り)に中国とアメリカがどう関わって行くかというところに象徴されるような気がする。日本は主体的に関わるのは難しいが、他人事ではいられない。なにしろ朝鮮半島は、日本列島の脇腹に突きつけられた匕首のようなものなのだ。安定的な政権であるに越したことはないのは、日清・日露戦争の当時と変わらない真実だろう(核ミサイルを弄ぶのも困るが、敵なのか味方なのかよく分からないというのも困ったものだ)。
私の好きなエスニック・ジョークの一つを、くどいと言われようがあらためて披露したい。アメリカの大学が日・中・韓の歴史教育について調べたところ、日本は概ね歴史的事実に即した実証的なものであったのに対し、中国のそれは中国共産党の「プロパガンダ」であり、韓国のそれは韓国人の単なる「ファンタジー」だったというものだ。文在寅大統領には、対日関係にも見られるように、韓国風に言えば彼独特の「正義」を恃むところがあって、それは必ずしも「事実」に即した現実的なものではなく、客観的に見れば独りよがりに過ぎなくて、危なっかしい。
表向きは、韓国の脱北者団体が金正恩委員長を批判するビラを風船で飛ばしたことを非難したものだが、ビラの応酬は歴史が長く、朝鮮戦争中に始まったことで、何を今さらと言うべきだろう。李相哲さん(龍谷大学社会学部教授)は、2018年4月の板門店宣言の第1条第1項、「南と北は、わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認」したところに注目される。文在寅大統領は一応は欧米の説得を試みたが、欧米は独裁者(ヒトラー)への宥和は成功しない史実を忘れるわけがなく、従い国際的な経済制裁が緩められることはなく、結果として風呂敷を広げながら「自ら決定する」ことが出来ずに、金正恩委員長の失望を招いたのではないかと解説される。金与正労働党第1副部長が前面に出ているのは、金正恩委員長の健康不安による後継者問題があるからだろうし、新型コロナウイルスの影響で中国との国境を閉鎖し、経済的に困窮している事情もあることだろう。そして北朝鮮お得意の瀬戸際外交で、文在寅大統領は裏切ることはないと見切って、甘えている部分もあることだろう。
以下は余談である。
地政学の基礎を築いたハルフォード・マッキンダーに有名なテーゼがある。「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する」(『デモクラシーの理想と現実』より。原作は1919年、邦訳は1985年、原書房)。
世界島はユーラシア大陸を指し、ハートランド(ピボット・エリアとも言う)はその内陸部のことで、当時のロシアの領域に相当する。東欧は、当時の大国ロシアと新興国ドイツとの間にあって、双方が攻め込むときの要衝の回廊とでも言うべきところであり、万が一、ロシアとドイツが組んで強大化しヨーロッパを含む大陸を支配することがないように、イギリス(マッキンダーはイギリス人)にとっては双方を牽制させるバッファ・ゾーンとなすべきところでもあった。歴史を紐解けば、フン族に押されてゲルマン民族がこの回廊を通って移動した結果、ローマ帝国滅亡に至ったことがあったし、モンゴル民族をはじめとするアジアの遊牧民族が幾度にもわたって後進地域だったヨーロッパに圧力をかけ、その圧力から身を護るためにヨーロッパの国々が形作られる契機ともなる、回廊でもあった。逆に、ナポレオンやヒットラーがロシアを攻め込むときにもこの回廊を通った。
もっとも地政学は帝国主義の時代の考え方、すなわち覇権論であって、歴史を見るときには有用だが、第一次・第二次世界大戦を導いたものとして、戦後は、長らくタブー視された。よく知られるように、地政学の流れを汲むカール・ハウスホーファー(ドイツ)の生存権の理論はヒットラーに多大な影響を与えたし、ハウスホーファー自身、日本に武官として駐在していたことがあって、大東亜共栄圏にも何がしかの影響を与えたとされる。学生時代(1980年代)に友人の下宿で「悪の論理」(倉前盛通著)なる本を見つけて貪り読んだことがあるが、「悪」と言っても極道のことではなく、なんのことはない地政学を扱ったものだった(苦笑)。
マッキンダーの地政学が遠ざけられたのは、彼の歴史観も災いしているように思われる。なにしろ、あの広範な地理的・歴史的な知見を駆使してヨーロッパ中心史観に敢然と挑戦したのである。前掲書で、次のように言う。「・・・ヨーロッパの近代史の多くの部分は、事実これらのアジア民族がもたらした変化に対するところの、注釈として書かれてもさしつかえないだろうと思う・・・」 今でこそ、マクニールのような学者も出て来ているが、今なおヨーロッパ中心史観が根強い中で、なんという慧眼であろう。当時にあっては、さぞ嫌われたことだろう(笑)
いずれにしても、ランドパワーにしろ、アルフレッド・セイヤー・マハンのシーパワーにしろ、その後の航空戦力全盛の時代や核・ミサイルの時代を経て、古めかしさは否めない。しかし、ピボットという些か分かり難い理論(バスケットボールで、片足を軸にして、もう一方の足を四方に動かしながら、敵の守りをかわしつつ攻撃をうかがう様子を想起すればいい)や、今で言うチョーク・ポイントとでも言うべきかつての東欧など、地理と政治を組み合わせた歴史解釈は、今なお斬新であり、学生時代に学ばされる社会科が縦割りにされて(地理、歴史、政治経済など)、それぞれ細かな事実関係ばかり記憶させられる受験勉強は、今更ながら残念に思う。総合してこそ、地理・歴史・政治のダイナミズムは面白いものだ。
こうして、マッキンダーの全てを否定しないとして、マッキンダーが生きた時代は、主にロシア(とドイツ)が脅威だったのに対し、現代はどうか。ロシアにかつての強さはなく、今はそれが中国にとって替わられていることを否定する者はいないだろう。一帯一路は、かつての帝国主義の時代の拡大志向の一つのあらわれでもある。中国は国力に合わせて国境(領土)が伸縮するなどと言われたもので、本人は否定するが、南シナ海に勝手に行政区の名称をつけたり、東シナ海の台湾や尖閣諸島の領有を主張したりするなど、国力伸長に合わせて領域を拡張しようとしている。そして、かつてはロシアとドイツの間にバッファ・ゾーンを作れといった議論もあったように、東欧が20世紀の戦略正面だったのに対し、21世紀のそれはどこか? ある地政学マニアの知人に質問したところ、即座に満州だと答えが返ってきた。そりゃ、マッキンダーの時代=20世紀初頭の発想では? と返しておいたが(義和団事件の後、ロシアが居座ったのに対し、日露戦争を経て日本が代わりに居座って、大東亜戦争の破局を招くに至った)、現代のバッファ・ゾーンは北朝鮮ではないかと思ったりする。海を挟むので俄かにイメージし辛いが、西に中国、北にロシア、東にアメリカ、南に日本と、世界の経済大国トップ3、世界の軍事大国トップ3が接する要衝の地である。あるいは規模は違うが、火薬庫として、20世紀のバルカン半島が、21世紀の朝鮮半島になりかねない。20世紀の後半を通して、朝鮮半島が冷戦時代そのままに冷凍保存されてきたのはそのためで(所謂Status Quo)、21世紀になって俄かに動きだした。
しかし文在寅大統領の民族主義による南北融和は余りにもナイーブで、国際社会は動かないし、金正恩委員長も、広い意味での国力をベースにすれば、自らの体制護持のためには南北融和や統一朝鮮など信用しないだろう(貰えるものだけ貰って、心を開くことはないだろう)。21世紀の世界秩序は、この朝鮮半島の行く末(朝鮮半島の国造り)に中国とアメリカがどう関わって行くかというところに象徴されるような気がする。日本は主体的に関わるのは難しいが、他人事ではいられない。なにしろ朝鮮半島は、日本列島の脇腹に突きつけられた匕首のようなものなのだ。安定的な政権であるに越したことはないのは、日清・日露戦争の当時と変わらない真実だろう(核ミサイルを弄ぶのも困るが、敵なのか味方なのかよく分からないというのも困ったものだ)。
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