米・モンタナ州で開かれていたAPEC貿易担当相会合が、20日、東日本大震災など自然災害の被災国からの輸入品に対し、過度の規制を行わないことなどを盛り込んだ議長声明を採択し閉幕したことが、報道されていました。福島第一原発事故に伴う風評被害の防止を訴えた日本の主張が反映されたと言われます。
風評被害が、国内にとどまらず、グローバルな広がりを見せるのは、放射性物質に国境はないからで、海洋への汚染水放出を行った四月以降は、とりわけ顕著になりました。現にハワイでは環境基準の数十倍のセシウムが検出されているのをはじめ、米・欧大陸や、更には南半球にまで飛来しているのが確認されているそうです。また、風評被害は、食料品にとどまらず、世界各地の日本食レストランにも影響し、日本の食材を調達しているかどうかに関わらず、客足が減っているそうですし、機械・電子部品や車などの完成品に対しても、東北地方で生産されたかどうかに関わらず、放射線汚染されていないことを証明するよう過度の要求をされているのは、報道されている通りです。
日本政府は、大震災の当初、世界中から寄せられた支援の輪に浮かれている場合ではありませんでした。震災や津波に見舞われた日本の動向に世界中が注目したのと同様に、否、むしろ影響が被災地にとどまる震災や津波とは異なり世界に広がりかねない懸念からより一層、福島第一原発事故の状況や政府の対応に世界中が注目したのは、ごく自然の成り行きでした。その後の世界の反応はご存じの通り、日本政府の情報開示が十分ではなく、在留外国人の多くが日本を離れただけでなく、世界中が苛立ちを強めています。
そもそも原発推進派の政官財(政府、経産省、東電)の経過報告に信用がおけるかどうか疑義がないわけではありませんでしたが、それなら国際機関や諸外国などの第三者の専門家・機関を入れて評価してもらえばよいものを、民主党政権は、つい最近、福島第一原発事故に関するIAEA調査団を受け入れると発表するまで、IAEAだけでなくWHOやグリーンピースなどの国際的な機関や団体の忠告を無視し、調査要望を頑なに拒んできました。こうした文脈の中で、最近のメルトダウン報道を見れば、もし本当に、この二か月間、何も分からないでいたとすればプロフェッショナルとしては余りにもお粗末ですが、そうではなく、十分に予測し得たことですから、真相を隠し続けていたと思われても仕方ありません。結果として国民の間のパニックを避けることが出来て良かったと、菅さんや政権当事者はもしかしたら情報管理がうまくいった証拠と思っているかもしれませんが、世間はただの情報隠蔽と見なすだけです。風評は、情報を隠して、ただひたすら安全・安心を叫ぶだけの中でこそ、疑心として広がるものです。
更に、事故当日、電源が停止して炉心の冷却機能が失われたことが判明したとき、廃炉の決断がつかずに躊躇していた東電に対して、菅さんが海水の注入を命じたことが美談として漏れ伝わって、へぇえホンマかいなと不思議に思って頭の片隅にひっかかっていましたが、最近になって、実際には、海水の注入を始めた東電に対し、菅さんは再臨界の可能性がないか確認させるため海水の注入を中断させていたことが明らかになりました。生半可な知識をひけらかした東工大卒の菅さんが事態を悪化させた可能性がある上、御用学者だけでなく御用ジャーナリストを使って、情報管理(隠蔽)どころか情報操作した疑いも出てきました。
おまけにもう一つ、 最近、菅さんが浜岡原発の運転停止を要請した時、「行政指導、政治判断で(要請を)させてもらった。その評価は歴史の中で判断してほしい」と述べたそうです。異論があることを承知の上での英断か、あるいは同時代人には理解されない孤高の選択だと誇示したいのか、否、むしろ後ろめたいことがあるけれども、やっていることは正しいのだと言い訳したいだけか(例えば立法で規制する場合には日本全国の全ての原発に影響しかねないので、浜岡原発だけを止めるために、行政指導したと言われています)。いずれにせよ、既に引退したブッシュ・ジュニア前大統領が、自らの所業に対する信念を語って、歴史に評価を委ねると言い放つのとは違って、現役の総理大臣が、国会での審議や選挙ではなく歴史に評価を委ねるなど、主権者たる同時代の私たち国民を冒涜する発言です。未曾有の大災害に直面して、この程度の見識の人が日本国のリーダーであることの不幸を思わないわけには行きません。
それに引き替え、イギリスの対応には感心させられますし、風評被害についても考えさせられます。週刊新潮に掲載された藤原正彦さんのコラムによると、政府科学顧問のベディントン卿を中心とする原子力や放射線医療の専門家チームが、在日英国人向けに大使館を通じ数日おきに危険度を具体的に説明していたのだそうです。チェルノブイリとの本質的な違い、最悪のケースとはどんな状態か、その場合でも二日間ほど家に籠っていれば東京にいて大丈夫、水は日本政府の指示に従えばよい、といった具合いです。もし逆の立場で、私たちが外国に滞在しているときに災害に遭い、日本語以外の環境下で情報収集に困っている時に、果たして日本の政府から同じようなサービスを期待できるかどうかと考えると、羨ましい限りですが、それはともかく、その在日英国人はパニックに陥ることなく落ち着いていられたそうです。
ちょっと話が脱線しかかりましたが、要は、こうして風評被害もまた立派な人災なわけです。これまで政治は三流でも経済は一流と言われた日本が失われた20年でボロボロに傷つき、その間、財政は(小泉政権時代を除いて)際限なく悪化し、先日、アメリカ滞在中にWSJで見た主要先進国の財政悪化記事の中に日本が入っていなかったのは西洋国家ではないからではなく、もはや相手にされていないだけではないかと愕然とした上に、今回、世界に冠たる安全・安心で高品質の日本ブランドまでもが傷つきかねないことが心配です。
(追記 2011/05/29)
先週、海水注入に関して、「言った」「言わない」のまさに“水掛け”論で、国難とも言われる大事に、国会は空転していたようです。官邸の空気を東電に伝えたというような、真綿にくるんだ言い草もありましたが、イラ菅のことですから怒りを伝えたということと同義であり、海水注入を止めようとしたことは明らかであり、本文で触れた情報操作疑惑が消えたわけではありません。挙句に、東電本社・副社長から、現場の原発所長の独断で海水注入は続けられていたと、まるで自らの存在意義を無にするような発言があり、呆れてブログ・ネタにするのも忌々しいので、追記することにしました。これはIAEAの調査が入ったからこそ明らかになったとも言われ、外圧がなければまともな情報開示が行われ得ないのかとの疑念を持たせます。結果として現場の判断は正しかったとして、官邸側は幕引きを図りたい意向のようですが、政府・東電統合対策室の現場に対するコントロールが利いていないのか、そうではなくて現場が統合対策室を見限って自己責任でやりたいようにやっていたのか、いずれにしても、統合対策室が機能していなさそうなことだけは明らかのようです。
風評被害が、国内にとどまらず、グローバルな広がりを見せるのは、放射性物質に国境はないからで、海洋への汚染水放出を行った四月以降は、とりわけ顕著になりました。現にハワイでは環境基準の数十倍のセシウムが検出されているのをはじめ、米・欧大陸や、更には南半球にまで飛来しているのが確認されているそうです。また、風評被害は、食料品にとどまらず、世界各地の日本食レストランにも影響し、日本の食材を調達しているかどうかに関わらず、客足が減っているそうですし、機械・電子部品や車などの完成品に対しても、東北地方で生産されたかどうかに関わらず、放射線汚染されていないことを証明するよう過度の要求をされているのは、報道されている通りです。
日本政府は、大震災の当初、世界中から寄せられた支援の輪に浮かれている場合ではありませんでした。震災や津波に見舞われた日本の動向に世界中が注目したのと同様に、否、むしろ影響が被災地にとどまる震災や津波とは異なり世界に広がりかねない懸念からより一層、福島第一原発事故の状況や政府の対応に世界中が注目したのは、ごく自然の成り行きでした。その後の世界の反応はご存じの通り、日本政府の情報開示が十分ではなく、在留外国人の多くが日本を離れただけでなく、世界中が苛立ちを強めています。
そもそも原発推進派の政官財(政府、経産省、東電)の経過報告に信用がおけるかどうか疑義がないわけではありませんでしたが、それなら国際機関や諸外国などの第三者の専門家・機関を入れて評価してもらえばよいものを、民主党政権は、つい最近、福島第一原発事故に関するIAEA調査団を受け入れると発表するまで、IAEAだけでなくWHOやグリーンピースなどの国際的な機関や団体の忠告を無視し、調査要望を頑なに拒んできました。こうした文脈の中で、最近のメルトダウン報道を見れば、もし本当に、この二か月間、何も分からないでいたとすればプロフェッショナルとしては余りにもお粗末ですが、そうではなく、十分に予測し得たことですから、真相を隠し続けていたと思われても仕方ありません。結果として国民の間のパニックを避けることが出来て良かったと、菅さんや政権当事者はもしかしたら情報管理がうまくいった証拠と思っているかもしれませんが、世間はただの情報隠蔽と見なすだけです。風評は、情報を隠して、ただひたすら安全・安心を叫ぶだけの中でこそ、疑心として広がるものです。
更に、事故当日、電源が停止して炉心の冷却機能が失われたことが判明したとき、廃炉の決断がつかずに躊躇していた東電に対して、菅さんが海水の注入を命じたことが美談として漏れ伝わって、へぇえホンマかいなと不思議に思って頭の片隅にひっかかっていましたが、最近になって、実際には、海水の注入を始めた東電に対し、菅さんは再臨界の可能性がないか確認させるため海水の注入を中断させていたことが明らかになりました。生半可な知識をひけらかした東工大卒の菅さんが事態を悪化させた可能性がある上、御用学者だけでなく御用ジャーナリストを使って、情報管理(隠蔽)どころか情報操作した疑いも出てきました。
おまけにもう一つ、 最近、菅さんが浜岡原発の運転停止を要請した時、「行政指導、政治判断で(要請を)させてもらった。その評価は歴史の中で判断してほしい」と述べたそうです。異論があることを承知の上での英断か、あるいは同時代人には理解されない孤高の選択だと誇示したいのか、否、むしろ後ろめたいことがあるけれども、やっていることは正しいのだと言い訳したいだけか(例えば立法で規制する場合には日本全国の全ての原発に影響しかねないので、浜岡原発だけを止めるために、行政指導したと言われています)。いずれにせよ、既に引退したブッシュ・ジュニア前大統領が、自らの所業に対する信念を語って、歴史に評価を委ねると言い放つのとは違って、現役の総理大臣が、国会での審議や選挙ではなく歴史に評価を委ねるなど、主権者たる同時代の私たち国民を冒涜する発言です。未曾有の大災害に直面して、この程度の見識の人が日本国のリーダーであることの不幸を思わないわけには行きません。
それに引き替え、イギリスの対応には感心させられますし、風評被害についても考えさせられます。週刊新潮に掲載された藤原正彦さんのコラムによると、政府科学顧問のベディントン卿を中心とする原子力や放射線医療の専門家チームが、在日英国人向けに大使館を通じ数日おきに危険度を具体的に説明していたのだそうです。チェルノブイリとの本質的な違い、最悪のケースとはどんな状態か、その場合でも二日間ほど家に籠っていれば東京にいて大丈夫、水は日本政府の指示に従えばよい、といった具合いです。もし逆の立場で、私たちが外国に滞在しているときに災害に遭い、日本語以外の環境下で情報収集に困っている時に、果たして日本の政府から同じようなサービスを期待できるかどうかと考えると、羨ましい限りですが、それはともかく、その在日英国人はパニックに陥ることなく落ち着いていられたそうです。
ちょっと話が脱線しかかりましたが、要は、こうして風評被害もまた立派な人災なわけです。これまで政治は三流でも経済は一流と言われた日本が失われた20年でボロボロに傷つき、その間、財政は(小泉政権時代を除いて)際限なく悪化し、先日、アメリカ滞在中にWSJで見た主要先進国の財政悪化記事の中に日本が入っていなかったのは西洋国家ではないからではなく、もはや相手にされていないだけではないかと愕然とした上に、今回、世界に冠たる安全・安心で高品質の日本ブランドまでもが傷つきかねないことが心配です。
(追記 2011/05/29)
先週、海水注入に関して、「言った」「言わない」のまさに“水掛け”論で、国難とも言われる大事に、国会は空転していたようです。官邸の空気を東電に伝えたというような、真綿にくるんだ言い草もありましたが、イラ菅のことですから怒りを伝えたということと同義であり、海水注入を止めようとしたことは明らかであり、本文で触れた情報操作疑惑が消えたわけではありません。挙句に、東電本社・副社長から、現場の原発所長の独断で海水注入は続けられていたと、まるで自らの存在意義を無にするような発言があり、呆れてブログ・ネタにするのも忌々しいので、追記することにしました。これはIAEAの調査が入ったからこそ明らかになったとも言われ、外圧がなければまともな情報開示が行われ得ないのかとの疑念を持たせます。結果として現場の判断は正しかったとして、官邸側は幕引きを図りたい意向のようですが、政府・東電統合対策室の現場に対するコントロールが利いていないのか、そうではなくて現場が統合対策室を見限って自己責任でやりたいようにやっていたのか、いずれにしても、統合対策室が機能していなさそうなことだけは明らかのようです。
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