韓国が揺れている。朴槿恵大統領は29日に事実上の辞意表明をしたが、昨日、国会は弾劾訴追案を可決した。これに伴って、大統領の職務権限が停止され、憲法裁判所が最長180日間、罷免が妥当かを審理することになる。本人は既に4月辞任の意向を明らかにしており、失意の中、青瓦台を去らざるを得ないようだと報じられている。
ニューズウィーク11・29号の特集は、デモ参加者について、一体何に対して怒っているのか、彼ら自身よく分かっていない節があり、呆気にとられるほど緊張感が見られないのは、国民の多くが怒りを通り越し、政治に諦めを感じ始めているからかも知れないと伝えた。他方、この特集の別の記事は、大韓航空、現代グループ、サムスンなど最近の韓国の不祥事も含めて、全てに共通する要因、つまり「情」があることを指摘する。「韓国企業の経営陣は自分の身内や友人を部下として採用する。こうして上から下までがっちりと情で結ばれた構造が出来上がる。政府機関も往々にしてこうした構造になっている」「そこでは目下の者は目上の者に命懸けで忠誠を尽くす」「部下の命懸けの忠誠には、上司も報いなければならない。政財界の有力者はその力にものいわせて身内や友人の便宜を図ることを期待される」そして、「つながり重視が問題なのは、競争力を低下させかねないからだ」と。
木村幹教授(神戸大学)によると、韓国ギャラップの調査では、大統領が支持されない理由に、内政や外交に対する朴政権の政策が挙げられていないという。つまり、経済政策の失敗でも、対中国外交の頓挫でも、日韓慰安婦合意でも、さらに北朝鮮政策の行き詰まりへの不満でもなく、むしろ既存の政治システムに対する信頼は改善しつつあったという。では何が起きているかというと、1987年の民主化から来年で30年を迎える韓国で、政治システムへの評価が高まっているからこそ、また経済的にも豊かになって、様々な問題を抱えつつも古い先進国に肩を並べつつあると、韓国人としてのプライドを持つようになってきたからこそ、いまだに半世紀前と同様の旧態依然たる癒着構造が存在することへの失望が、巨大な怒りに駆り立てているのではないかという。
さらに、西岡力教授(東京基督教大学)は、反朴デモの首謀者は親北極左勢力で、崔順実スキャンダルを問題にしているのではなく、韓国の自由民主主義体制を否定する「革命」を目指しており、野党もその勢力に便乗していると主張される。確かに週末毎に繰り広げられるデモには、普通の学生や主婦も勿論参加しているが、その中心にいるのは労働者団体や親北極左NGOの核心的な勢力だと言う別の声がある。デモを誘導している親北団体は実に1500に上り、「朴槿恵政権退陣罷業国民運動」と仮面をかぶりながら、急進的な労働団体から北朝鮮の代弁機能を果たしてきた団体、さらに慰安婦運動をしてきた挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)まで入っていると言われる。それはともかくとして、西岡教授は「特権腐敗勢力、親日勢力、朴大統領背信勢力(もともと朴大統領支持だったが世論を見て裏切った非朴系与党議員や保守新聞などを指す)、セヌリ党(与党)、政経癒着勢力をいっぺんに清算しようと集まったのではないか」と言われる。確かに平和安全法制の整備を巡る混乱では、学生団体SEALDsをはじめ、首謀者と呼ぶかどうかは別にして左翼団体が暗躍した。
ソウル駐在・産経新聞客員論説委員の黒田勝弘氏は、朴槿恵が「大統領になれたのは、韓国の近代化と経済発展を実現した父の業績とそれへの国民の郷愁があったからだ」が「その父の時代に対しては、政治的に弾圧された進歩派知識人や野党・左翼など反対勢力には強い“恨(ハン)”が残った」と指摘される。その背景に、「父が日本の陸軍士官学校で学んだ旧満州国軍将校出身で、韓国では今もタブーになっている“親日派”と非難されながら国家建設に成功し、さらに北朝鮮を凌駕する国を作ったことに対する、自尊心を破壊されたような恨みがある」というのは確かに聞いたことがある。つまり、「今回の弾劾に至った韓国政治の激動の核心は、そうした伝統的な反政府勢力による父および父の時代への報復の戦いであり、父子2代への『復讐戦』だ」というわけである。それに加え、「大規模な街頭デモで“朴槿恵たたき”に懸命な群集の中心は“盧武鉉世代”」で、「2002年に庶民派で左翼・革新系の盧武鉉を大統領に当選させたのは、同じ年開催のワールドカップ日韓大会の際、超愛国的な100万人街頭応援で人生を謳歌した若者世代だといわれた。その街頭パワーが今回は朴槿恵追放で結集しているようにみえる」という。つまり、「盧武鉉は在任中に保守勢力(当時は野党)によって弾劾決議に追い込まれ(罷免は免れたが)、退任後は検察当局による家族への金銭疑惑捜査に苦悩し自殺してしまった。盧武鉉世代にとって今回はその“弔い合戦”でもある」という。
まあ盧武鉉世代のことはともかくとして、左右対立に絡む北朝鮮ファクターや、急速な近代化を遂げる歴史過程で絡む日本ファクターが、古い儒教社会の体質を色濃く引き摺る韓国に重層的にかぶさって、日本人の私にはなかなか理解し辛い。毎週末の大規模デモについても、平和的に行われ、暴力や略奪などは報告されず、「アラブの春」の際に中東各国で見られたような社会的混乱は起きていないことから、民主主義が根付いている証しと見る報道があるが、それは程度の問題であって、今日の世界での大規模デモ同様、80年代から90年代に民主化を遂げた、いわゆる新興民主主義国に広く見られる現象だとする見立て(木村幹教授)に同意する。その背景には、一つには、アメリカにおいて、既存の政治システムに対する不満が大規模デモではなく大統領選でのトランプ氏への支持に繋がったように、制度的民主主義の枠組みの中にきちんと回収されるのと対照的に、新興民主主義国では依然として腐敗し非効率な存在し、頻発するスキャンダルが期待を失望へと変えるという、民主化により導入された「選挙による政治」への失望があり、もう一つには、こうした失望の中で、欧米諸国にも見られるようなポピュリスティックなリーダーが登場し、支持基盤獲得のために大衆動員を活用することで、デモが日常化する事情があるという。デモという形は、日本人の私には、やや異質ながら、特殊に見える韓国の状況は大きな世界の流れの一つに位置付けられるという指摘(木村幹教授)には、考えさせられる。
ニューズウィーク11・29号の特集は、デモ参加者について、一体何に対して怒っているのか、彼ら自身よく分かっていない節があり、呆気にとられるほど緊張感が見られないのは、国民の多くが怒りを通り越し、政治に諦めを感じ始めているからかも知れないと伝えた。他方、この特集の別の記事は、大韓航空、現代グループ、サムスンなど最近の韓国の不祥事も含めて、全てに共通する要因、つまり「情」があることを指摘する。「韓国企業の経営陣は自分の身内や友人を部下として採用する。こうして上から下までがっちりと情で結ばれた構造が出来上がる。政府機関も往々にしてこうした構造になっている」「そこでは目下の者は目上の者に命懸けで忠誠を尽くす」「部下の命懸けの忠誠には、上司も報いなければならない。政財界の有力者はその力にものいわせて身内や友人の便宜を図ることを期待される」そして、「つながり重視が問題なのは、競争力を低下させかねないからだ」と。
木村幹教授(神戸大学)によると、韓国ギャラップの調査では、大統領が支持されない理由に、内政や外交に対する朴政権の政策が挙げられていないという。つまり、経済政策の失敗でも、対中国外交の頓挫でも、日韓慰安婦合意でも、さらに北朝鮮政策の行き詰まりへの不満でもなく、むしろ既存の政治システムに対する信頼は改善しつつあったという。では何が起きているかというと、1987年の民主化から来年で30年を迎える韓国で、政治システムへの評価が高まっているからこそ、また経済的にも豊かになって、様々な問題を抱えつつも古い先進国に肩を並べつつあると、韓国人としてのプライドを持つようになってきたからこそ、いまだに半世紀前と同様の旧態依然たる癒着構造が存在することへの失望が、巨大な怒りに駆り立てているのではないかという。
さらに、西岡力教授(東京基督教大学)は、反朴デモの首謀者は親北極左勢力で、崔順実スキャンダルを問題にしているのではなく、韓国の自由民主主義体制を否定する「革命」を目指しており、野党もその勢力に便乗していると主張される。確かに週末毎に繰り広げられるデモには、普通の学生や主婦も勿論参加しているが、その中心にいるのは労働者団体や親北極左NGOの核心的な勢力だと言う別の声がある。デモを誘導している親北団体は実に1500に上り、「朴槿恵政権退陣罷業国民運動」と仮面をかぶりながら、急進的な労働団体から北朝鮮の代弁機能を果たしてきた団体、さらに慰安婦運動をしてきた挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)まで入っていると言われる。それはともかくとして、西岡教授は「特権腐敗勢力、親日勢力、朴大統領背信勢力(もともと朴大統領支持だったが世論を見て裏切った非朴系与党議員や保守新聞などを指す)、セヌリ党(与党)、政経癒着勢力をいっぺんに清算しようと集まったのではないか」と言われる。確かに平和安全法制の整備を巡る混乱では、学生団体SEALDsをはじめ、首謀者と呼ぶかどうかは別にして左翼団体が暗躍した。
ソウル駐在・産経新聞客員論説委員の黒田勝弘氏は、朴槿恵が「大統領になれたのは、韓国の近代化と経済発展を実現した父の業績とそれへの国民の郷愁があったからだ」が「その父の時代に対しては、政治的に弾圧された進歩派知識人や野党・左翼など反対勢力には強い“恨(ハン)”が残った」と指摘される。その背景に、「父が日本の陸軍士官学校で学んだ旧満州国軍将校出身で、韓国では今もタブーになっている“親日派”と非難されながら国家建設に成功し、さらに北朝鮮を凌駕する国を作ったことに対する、自尊心を破壊されたような恨みがある」というのは確かに聞いたことがある。つまり、「今回の弾劾に至った韓国政治の激動の核心は、そうした伝統的な反政府勢力による父および父の時代への報復の戦いであり、父子2代への『復讐戦』だ」というわけである。それに加え、「大規模な街頭デモで“朴槿恵たたき”に懸命な群集の中心は“盧武鉉世代”」で、「2002年に庶民派で左翼・革新系の盧武鉉を大統領に当選させたのは、同じ年開催のワールドカップ日韓大会の際、超愛国的な100万人街頭応援で人生を謳歌した若者世代だといわれた。その街頭パワーが今回は朴槿恵追放で結集しているようにみえる」という。つまり、「盧武鉉は在任中に保守勢力(当時は野党)によって弾劾決議に追い込まれ(罷免は免れたが)、退任後は検察当局による家族への金銭疑惑捜査に苦悩し自殺してしまった。盧武鉉世代にとって今回はその“弔い合戦”でもある」という。
まあ盧武鉉世代のことはともかくとして、左右対立に絡む北朝鮮ファクターや、急速な近代化を遂げる歴史過程で絡む日本ファクターが、古い儒教社会の体質を色濃く引き摺る韓国に重層的にかぶさって、日本人の私にはなかなか理解し辛い。毎週末の大規模デモについても、平和的に行われ、暴力や略奪などは報告されず、「アラブの春」の際に中東各国で見られたような社会的混乱は起きていないことから、民主主義が根付いている証しと見る報道があるが、それは程度の問題であって、今日の世界での大規模デモ同様、80年代から90年代に民主化を遂げた、いわゆる新興民主主義国に広く見られる現象だとする見立て(木村幹教授)に同意する。その背景には、一つには、アメリカにおいて、既存の政治システムに対する不満が大規模デモではなく大統領選でのトランプ氏への支持に繋がったように、制度的民主主義の枠組みの中にきちんと回収されるのと対照的に、新興民主主義国では依然として腐敗し非効率な存在し、頻発するスキャンダルが期待を失望へと変えるという、民主化により導入された「選挙による政治」への失望があり、もう一つには、こうした失望の中で、欧米諸国にも見られるようなポピュリスティックなリーダーが登場し、支持基盤獲得のために大衆動員を活用することで、デモが日常化する事情があるという。デモという形は、日本人の私には、やや異質ながら、特殊に見える韓国の状況は大きな世界の流れの一つに位置付けられるという指摘(木村幹教授)には、考えさせられる。
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