風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

トルコの緊迫

2016-07-19 23:26:27 | 時事放談
 正確に言うと、クーデター未遂と言うより、軍の一部が決起したが失敗したといったお粗末な状況だったようだ。
 BBCによると、クーデターで死亡した大統領側近で選挙参謀のエロル・オルチャク氏とその息子の葬儀に出席したエルドアン大統領は、「あらゆる国家機関からウイルスを除去する。残念ながら、がんのようにこのウイルスは国家を取り巻いてしまった」と涙ながらに弔辞を述べ、「一致と団結」へ国を導くと約束したという。何のことはない、土曜日朝(日本時間)には一瞬、緊迫したものの、蓋を開けたら、決起部隊(反乱軍と呼ぶとエルドアン大統領に与してしまう?ので、決起部隊と呼んでおく)は余りにも用意周到に鎮圧され、軍と司法の関係者約6千人が拘束され、警察官や地方自治体幹部ら9千人弱が停職処分とされるなど、却って大統領の権力基盤が強化されたかのようだ。
 実際、エルドアン大統領は、決起部隊(大統領に言わせれば反乱軍)の首謀者として米国在住の宗教家・社会運動家のフェトゥラ・ギュレン氏を非難し、米政府に身柄引き渡しを要求したが、当のギュレン氏は関与を強く否定し、むしろエルドアン氏が権力強化のために自作自演で起こした「クーデター」ではないかと示唆したという(BBC)。ギュレン運動は国民の間に広く浸透しているらしいのだが、国民がこのクーデターに呼応しなかったことから、ギュレン運動は組織的に関与していなかった模様だ。
 そもそもトルコの建国の父ケマル・アタチュルクは軍人出身であり、軍はトルコ共和国の建国に尽力し、その後も政治への介入を何度か繰り返しながら、ケマル・アタチュルクが打ち立てた国是である世俗主義(政教分離)の守護者として国家の秩序維持と安定に貢献し、国民の信頼も厚いとされる。今回も、決起部隊は声明で、エルドアン政権が「法の支配と民主主義体制を傷つけた」と非難した。
 他方、エルドアン大統領は「骨の髄からのイスラム主義者」(内藤正典・同志社大教授)で、アルコール規制などイスラム色の濃い政策を徐々に進める一方、自らに批判的なメディアへの締め付けを強めるなど、強権色をあらわにしているとされ、軍の権限は徐々に剥奪しながら、大統領の権限を強化する憲法改正を企図しているようだ。その意味では国民の間にエルドアン体制への不満はあるものの(実際にトルコに駐在している知人から、そのような話を聞いた)、トルコは順調に経済成長を続けており、与党・公正発展党(AKP)に対する支持率は50%に近く、国民は暴力や流血沙汰による政権打倒など思いもよらないと言われる。そのあたりに、軍の一部勢力が焦りを感じた可能性があるという。
 トルコと言えば、難民問題を抱えるEUにとって緩衝地帯であり、ISと戦うアメリカにとっても有志連合の有力な一員であり、またシリア和平を巡っては、アサド政権と対立するエルドアン大統領の存在は重要な、地域大国の一つだ。ロイター通信によると、決起部隊(「自国の平和運動」を名乗る分子)は電子メールを通じ、今後も戦いを継続する姿勢を強調したとされ、政府は当然ながら完全鎮圧に向けて全力を挙げる方針であり、世界に広がるテロ以外にも不安定要因がまたひとつ顕在化して、世界は一段と混迷の度を深めた印象で、ちょっと憂鬱になる。 
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